[読書]子育て中の親、幼稚園&小学校の先生は必読! 今井むつみ「親子で育てることば力と思考力」

子どもの言葉の力を伸ばすことに関心のある子育て中の方、幼稚園や小学校で言葉の教育に関わる方、必読本が出ました。言葉の発達について数々の本を書かれてきた今井むつみ先生の新刊は良い本だぞー。

これまでも学習や言語発達について一般向けの本を書かれてきた今井さんだけど(下記参照)、今回はそれらの本と重なる話題もありつつ、「乳幼児〜小学生の子育て中の保護者」を対象に書いたところがポイント。これまでの著書よりもさらにわかりやすく、言語の発達が思考力を伸ばすのになぜ大事なのか、そしどうすれば子どもの言語発達をサポートできるのかが書かれているのだ。

[読書]「熟達」の持つ二つの側面に光をあてる。今井むつみ『学びとは何か』

2016.10.21

目次

子どもは言葉をこうして獲得する

最初のトピックは、実際に子供がどんな風に言葉を獲得するかという、今井先生の本ではおなじみの話から。子供は決して暗記カードで暗記するように言葉を覚えるのではない。そんなことをして無理やり語彙を詰め込んでも、それは「死んだ知識」になってしまって、本人が使える「生きた知識」にならないからだ。そうではなく、子どもは周囲の言語環境から、本人なりに意味を分析したり推測したりして語彙を獲得し、語彙同士の関係理解もバージョンアップさせていく。最初は動くものを全て「ブーブー」と言っていた子どもが、成長につれて「自動車」と「トラック」を区別するようになるのはそのためだ。だから、大事なのは子どもが本来持つこの学習能力をいかにサポートするか。言葉は決して暗記で覚えるものではないので、子ども自身の言語の学習能力を生活の中で伸ばすことが、言語能力を伸ばす鍵になるのである。

子供が生まれもつ推論能力と、それゆえに生じるエラーについては、広瀬友紀先生の「ちいさい言語学者の冒険」でも書かれてますね。こちらも超おすすめ本。

「自然に任せるのが一番」ではない理由とは?

誤解を招かないように書くと、「生活の中で伸ばす」と言っても、「放っておいて良い、自然が一番」という話ではない。というのも、普通の会話の中で子どもが獲得できる言語はとても限られていて、抽象的な言葉を身につけたり、状況や文脈に応じて言葉を使い分けることができないからだ。日常会話のままだけだと、だんだん必要な語彙レベルが上がっていく小学校3・4年生くらいから、語彙が足りなくなってしまうのである。

そして語彙が足りないと、それをもとに推論を働かせるのが難しくなるので、新しく出会う語彙の意味を十分に推論することもできなくなってしまう。そうすると、「語彙が足りない→未知語の推論ができない→語彙が増えない」ループにはまる。この影響は、特に学校では大きくて、3・4年生くらいから徐々に増える抽象的な言葉がわからなくて勉強につまづいてしまう例は多い。実際、そういう言い回しを知らなくて算数の問題が解けない子はごまんといる。「自然に任せて」いては、こういう語彙を獲得する機会にほとんど恵まれないままになってしまい、色々な場面でつまづいてしまうのだ。

筆者は抽象的な言葉を取り上げているが、これは抽象的な言葉(「物質」とか「体積」とか)だけじゃなくて、「およそ」「成り立つ」「関する」などの学習に特有の用語についても言える話だと思う。こういう言葉も自然な会話だと獲得しにくい。

鍵は「大人との対話」と「絵本の読み聞かせ」

では、子どもがそういう抽象的な言葉を獲得して、さらに状況に応じて言葉を使い分ける力をサポートするには、どうすればいいだろう。筆者が重視するのが、親子での対話と絵本での読み聞かせだ。親子での対話は、幼児期に生活の自然な文脈の中で新たな語彙や言い回しを覚えていく基盤となるし、絵本の読み聞かせは、語彙の獲得と読書習慣の形成につながる。何と言っても小学校以降に必要な語彙のほとんどは、読書から得られるのだから、その影響は大きい。

こう聞くと、「実際にどんな風に対話するのがいいの?」と思う人もいると思う。なんとこの本では、多くの場面を提示して実に具体的に「こんな姿勢で対話するといいよ」「こんな方法があるよ」と示してくれている。そこまではこのブログでは書かないので、どうぞお読みください。絵本についても、具体的なアドバイスをたくさんしてくれている。まあ基本は「好きなものを読むといい」なんだけど、興味のある方はぜひこちらも。

ちなみに、「親子の対話大事」「読み聞かせ大事」は、珍しい話ではない。僕はこれまでもずっと似たような研究結果を見てきたし、そのいくつかはこのブログでも言及してきた(下記エントリ参照)。実際、家庭での会話や読み聞かせによって子どもの語彙が形成され、それがその先のもっと多くの語彙を推論するための「元手」となるので、幼児期に親子の対話や読み聞かせを通してこの「語彙=元手」を手にしているかどうかは、その先の言語力の発達、ひいては思考力や学校での成績にも大きな影響を与えるのだ。

[読書] 読書教育の重要性と方向性を明確にする一冊。猪原敬介『読書と言語能力』(1)読書教育編

2016.09.21

[資料紹介] 就学前の読み聞かせは小学校卒業時の読解力に影響する?

2018.06.02

言語の発達の仕組みをもとに、そのサポートの方法をわかりやすく説明する良書

この本、言語の発達の仕組みの入門書でありながら、同時に育児用のノウハウ本にもなってて、「やわらかい啓蒙書」ってこういう本じゃないかと思う。この分野に関心のある人にとっては特に目新しい本ではないけれど、そうでない大多数の方々、特に幼児や児童の言語発達に関わる人たち、つまり保護者、幼稚園や保育園の先生、小学校の先生たちには、とっても有益な本のはず。風越のスタッフにも保護者にもお薦めできる一冊です。てか、薦めよう!

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1 個のコメント

  • 大阪の私立中学・高校で教員をしている者です。
    いつも拝読して勉強させていただいております。
    有意義な学びをありがとうございます。
    昨年の夏ごろに先生のブログを知って以来、更新を楽しみにしております。
    今年度から授業で「作家の時間」に挑戦します。
    はりきって準備していたところを、コロナに「待て」を食らわされている状態です。

    過去の記事のことで恐縮なのですが、2015.05.13の記事で紹介されていた
    あすこま(2009)「作文ワークショップ その紹介と実践の記録」(PDFファイル)
    をぜひ読ませていただきたいのですが、お願いできますでしょうか。
    よろしくお願い申し上げます。