[読書]教員と生徒が対等に部活を議論する土台になる本。中澤篤史・内田良「『ハッピーな部活』のつくり方」

この本、いかにも岩波ジュニア新書という良い本でした。中高生と教員がフェアに部活の話をする上での土台になる本として、お薦めします。

世の中には部活を作りたい、頑張りたいという生徒もいれば、嫌だ、辞めたいのに辞められないという生徒もいます。教員も同じです。部活顧問をやりたくて教員になったという人もいれば、(僕のように)部活はそもそも教員の仕事じゃないよ、自分は授業がしたいんだ、という人もいます。

そして多くの人は、自分にとって都合の良いデータや体験だけで部活に言及するので、例えば、部活を巡って、大人と子ども、あるいは子ども同士が議論するとしても、共通の土台になるものがありません。この本は、Q&A方式も織り交ぜた、中高生でも読める読みやすさに加え、部活について一通り基本的な情報が揃っているという点で、その土台になりうる一冊です。

とりわけ、中高生がよく知らない部活の法的位置付けについてきちんと触れてある点は、中高生向けの読み物としてはとても大切でしょう。例えば、内申書での取り扱いやスポーツ庁の部活休養日ガイドラインなど、子どもがよく知らないからこそ、教員側からの無言の圧力に屈しがちなことの多くについて、この本を読めばしっかりと根拠を持って意見が言えるようになります。つまり、子どもが大人とフェアに話をするための情報を与えてくれているわけです。大人が自分に都合よく情報を隠すことは、もう許されません。

同時に、部活顧問を務める教員側の苦悩や事情についてもしっかり書かれています。そもそも部活は「教育課程外の学校教育活動」なので、教育課程の方が優先されるべきということから始まり、教員のブラック労働問題や部活顧問の手当の話まで説明があります。教員の生活やそもそもの役割まで、生徒が読んでわかるようになっているのです。

この本の根底にあるのは、苫野一徳さんの「自由と自由の相互承認」の考え、つまり、自分のハッピーを大事にすると同時に、他人のハッピーも大事にして、それが両立する道を探る考えです。中澤篤史さん、内田良さんという二人の専門家が書いただけあるなあと思いました。部活顧問の先生たちには、ぜひ生徒と一緒に読んでほしいし、部活で何かしら意見や悩みがある生徒にも、ぜひ読んでほしい。とりあえず、風越学園で「部活を作りたい」という子どもが出てきたら、まずはこの本の読書会を開きたい。タイトル通り「ハッピーな部活」を作るための土台になる一冊です。

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