ついうっかり読んじゃうには?『時をさまようタック』ブッククラブのふりかえり

昨年末の話になるけれど、『時をさまようタック』ブッククラブが終了した。先日の国語科のミーティングでそのふりかえりをしたので、それもふまえて、ここに授業のふりかえりを書いておこう。なお、準備や途中段階でのブログへのリンクも、参考までに貼っておく。

写真は高峰高原の車坂峠。通常はここから黒斑山への冬登山に行く出発地点なのですが、この日は前日に雪が降って踏み跡がわかりにくく、初のアイゼン装着ということもあって、峠の周辺をお散歩して帰りました。

ブッククラブ前半戦のふりかえり。構成的なブッククラブから、子どもに委ねるブッククラブへ。その鍵は...?

2021.12.07

[読書]ナタリー・バビット『時をさまようタック』&ラファエル他『言語力を育てるブッククラブ』

2021.11.22

目次

後半戦、事前に頑張ろうと思っていたポイントは…

まずは、下記エントリの「ブッククラブ前半戦のふりかえり」を再確認。ここにある通り、ブッククラブ後半戦は、

  1. 事前の予習ノートを充実させること
  2. 特派員制度を活用すること

の2点を頑張ろうと思っていた。こちらから事前にトークテーマを与えるのではなく、徐々に、子どもたちが自分の問いで話せるようにしたかったのだ。まずはこの2点についてどうだっただろう。

あまり活用されなかったプリント…

後半戦、予習ノートの充実を狙って、「こんな読み手の技を使ってみよう」「使えたらかっこいい、本について語る言葉」「たとえばこんなはじまりで」などの事例を書いたプリントを配布し、一回は全員に使ってもらった。が、その後の展開を見ると、このプリントはその後ほとんど使われることなく終わった。他にも、ノートをとる回では他の子のノートも許可を得て共有することもしばしば行ったのだけど、それもあまり広がった形跡がない。つまり、事前ノートの質を高めようという動きは、全体としてうまくいかなかった

なんでだろうと思ったけど、子どもたちがブッククラブに求めるもの(=楽しくおしゃべりしたい)と、こちらが求めるもの(=質の高いおしゃべりをしてほしい)にズレがあって、そこを埋められなかったのかなと思う。ブッククラブの最中に質を高めようとしても話し合いが窮屈になってしまい、特に風越の子はそういう不自然さへの感度が高い。これは、ブッククラブの中でやろうとしたのが間違いで、例えばどの問いが大事な問いか見極めるなどの日常的な読書経験の積み重ねをすべきだったのだろう。

特派員制度は、良かった!

一方の特派員制度。これは良かった。特派員制度に名乗りをあげる子は、基本的には『時をさまようタック』ブッククラブに気が乗らない子である。そういう子たちに「ちゃんとやろう」と言い聞かせるのではなく、活躍できるポジションを与えること、めっちゃ大事なんだな。本当に動きが変わったもの。事前のノート作りの回に自分からこの本を読むようになったし、また、自分では内容理解ができない子が、グループの話を聞いてなんとなく理解するプロセスもあった。全然やる気がなかったはずなのに、特派員として記録をとりながらうっかり話し合いに参加してしちゃった子もいた。この「うっかり参加しちゃった」というのがとてもいい。今回のように、教師側から読む本を指定する場合に、どうしても「この本が面白くない」「難しくてよくわからない」と感じる子は出てくる。そういう子にどういう立ち位置で活躍してもらうかは、今後も考えていこう。この特派員制度、今回は話し合いが不調のグループがあったので即興的に作ったけど、最初からあっても良かったかもしれない。….いや、即興的にできたのが良かったんだろうな。こういう「即興性」、子どもから見た時の「自分がいたからこの授業はこうなったんだ」と感じる体験は、とても大事だ。授業がライブであることを痛感する出来事だった。

ライブ感といえば、特派員制度に限らず、今回のブッククラブは子どもたちの意見をもとにどんどん仕組みを改良していけたのも良かった。「ブッククラブで大切にしたいこと」に子どもの発案を追加したり、トークテーマを準備回の最後に決めるようにしたり、ブッククラブの回には他のグループに今日のハイライトを伝える時間を作ったり。いずれも「改善」のレベルだけど、こういう小さな積み重ねは、自分が授業の参画者であることの自覚にもつながってくる。

全体としての手応えは…

さて、そうやってブッククラブを最後まで終えて、全体の手応えとしてはどうだったのだろう。僕としては、ブッククラブの良さを感じる場面は少なからずあった。一つの話題について話が盛り上がるのはもちろん、子どもたちが話し合う中で理解の間違いが修正されていく場面にも何度か出会って、複数人で同じ作品を読むことの良さはたしかにある。ブッククラブのノートに「一人での読書は世界を深め、ブッククラブは世界を広げる」と書いた子がいて、それは本当にそのとおりだと感じた。

ただ気になったのは、テキストをもとにある程度根拠を持って話し合いができるグループと、テキストから離れたおしゃべりになってしまうグループにどうしてもわかれて、それを修正するのは難しかったこと。「できる子はできる」にとどまってしまうし、かといってこちらが働きかけてブッククラブの中でそれを修正しようとすると、介入の度合いが高まって楽しくなくなってしまう。事前の問いづくりと同様に、ブッククラブの中で修正しようとするのでは、すでに遅いのだろう。だとすると、個別自由読書を柱とする風越では、どうやってふだんの読書家の時間の中でそういう力を身につけるかが重要な論点となる。僕としては今回、ブッククラブを「ゆっくり丁寧に読む」練習としても位置づけていたのだけど、そういう目的でブッククラブをやるのはよくないのかもしれない。

「個別読書のほうが良い」意見が多かった

子どもたちにもブッククラブの感想を最後に聞いてみた。すると、ちょっと残念なことに、「いつもの読書のほうがブッククラブより好き」という意見のほうが多かった。代表的な理由は、「ブッククラブはペースを合わさないといけないのが嫌(ゆっくりすぎてストレスに感じた子が多かったようだ)」「ブッククラブは自分で読む本が選べないのが嫌」という意見。今回はこの学年では最初のブッククラブで「精読」要素を兼ねていたこともあって、「全員で同じ本を」「ペースは意識的にゆっくり」で読んでいたのだが、予想以上に子どもたちにはそれがストレスだったみたい?

この件に関しては、先日、国語科のミーティングで同僚に実践報告をした時に、「事前に予習ノートを書いてからブッククラブをする」流れが「質の高い読みができなければブッククラブができない」暗黙のメッセージになっていたのでは、という意見ももらった。これもたしかにそのとおりだと思う。一方で、ちゃんと読まないままブッククラブに参加しても話がしようもないのも事実なので、難しいところだな。宿題にして読んできてくれるとも限らないだけに…。

ブッククラブの目的は?

結局のところ、以前に下記エントリでも書いたけれど、ブッククラブに何を求めるのか、がとても大事なのだろう。

[読書]学校でのブッククラブは何を目指す?吉田新一郎『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』

2021.12.22

風越では基本的に「多読・個別自由読書」(リーディング・ワークショップ)を柱にしていることもあり、今回は「みんなで丁寧に読む」機会としてブッククラブを行ったのだが、「みんなで丁寧に」部分に力を入れすぎると、「読める/読めない」という窮屈さも生むし、子どもたちの自由な読みのプロセスを制限してしまう。もちろん、アメリカのリテラチャーサークルやラファエルのブッククラブに比べたら自由だけど、風越の場合、それでも窮屈に感じていた子は少なくなかったのかな。

だとしたら、ブッククラブの目的を「みんなで読書をわかちあう楽しさを学ぶ」ことに焦点化して、わかってなくても、読んでなくてもOK!というくらいにするほうが良いのだろうか。ここは国語のカリキュラム全体に関わってくる話(精読をどこで学ぶのかetc)なので、ちょっと簡単には答えられない。良い質の話しあいをしてほしい教師のエゴも、簡単には捨てられないな、とも正直に思う。

色んなことを考えながら、御茶の水女子大附属中の渡辺光輝さんの「読書会」の授業と、今は同僚となった甲斐さんの読書会の授業を読み直していた。光輝さんの読書会は、僕よりはるかに細かな手立てをして活発な話し合いを生もうとしているし、甲斐さんの読書会は、「肩の力を抜いて」「良い意見が言えなくていい」と呼びかけることで、本をめぐってリラックスした空間を作ろうとしている。それぞれに違う。

どうやるの? 課題は? 読書会の授業を見学してきた。

2017.02.22

中学3年生と教師の物語が静かに交錯する、甲斐先生の読書会の授業。

2019.03.05

「ついうっかり学んじゃう」を目指して…

何がベストかはわからないけど、ただ、今回の手応えとしては、次はもう少し敷居を低くしようかと思う。「しっかり読む」「しっかり話す」ための手立てを取るのとは、逆のアプローチで。『「罪と罰」を読まない』のように、最初は、読まないで予想をおしゃべりしあうようなところからはじめて、本について気軽におしゃべりしているうちに、ついうっかり読んでしまうような。風越の子に対しては特に、「やりなさいと言って学ばせる」のではなく、「ついうっかり学んじゃう」を生み出したい。そうじゃないと、なかなかうまくいかないと思う。それには、どんな設計がいいのかな。次にブッククラブをやる時には、もう少しそこを掘り下げよう。

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