どうやるの? 課題は? 読書会の授業を見学してきた。

お茶の水女子大附属中学校の渡辺光輝さんが中学1年生で読書会の授業をなさるというので、見学に伺った。ぼくは、まだ授業で読書会をやったことがない。放課後の図書館での自由参加の読書会(「ぶらり読書会」)はやってるんだけど、強制の場である授業ではまだ踏み込んでいなかった。でもチャレンジしたいとは思っているので、勉強のために見学にうかがった次第。

目次

勉強になる、読書会の進め方

うかがったのは、ちょうど2回目の読書会のとき。何しろ自分は読書会の授業を見ること自体が2回目(1回目は、岩瀬直樹さんの公開授業)なので、何を見ても勉強になる。大事な点をメモしておこう。

「個人→グループ→個人」の流れ

渡辺さんの読書会の授業の基本的な組み立ては、

  1. 「本から感じたこと、考えたこと」を個人で書く
  2. 2〜3名の生徒で書いたことを共有する
  3. テーマを絞って話し合いを深める
  4. 今日の授業の振り返りを書く

というものだ。個人→グループ→個人という流れである。これはオーソドックスで、自分も多分こんな感じでやるかなと思った。ただ特徴的なのは、最初の個人で書く時間を15分取っていたこと。結構長くとる。きっと、個人でしっかり考えを深めてそれを共有してほしいということなんだと思う。生徒さんが書いている様子を見ると、この段階から文章にしている子が思いの外多い。特に女子生徒は「私は〜を読んで〜について〜」みたいな綺麗なフォーマットで書くのでびっくりした。

豊富なリストから選書

見学したクラスの生徒たちは合計9種類の本、13のグループに分かれている。本のリストは「文庫本で、読書が苦手な子でも読めるもの」を縛りとして、司書さんに依頼して作成してもらったそうだ。「ぼくらのサイテーの夏」のような青い鳥文庫に入っているようなものから、カフカ「変身」に至るまで、合計13タイトルの中から選べるので、この種の実践としてはかなり生徒の自由度が高い方ではないか。「教師が全部読むのが大変なのでオススメしません」と渡辺さんは笑っていたけど、さすが。なお、生徒は事前に二時間の読む時間を取っているほか、毎回の帯単元でも10分の読書時間があり、それを活用しているそうだ。日頃の読書指導の集大成がこの読書会、という位置付けの模様。

中型のホワイトボードを活用

この読書会では「意見交換が空中戦(お互いに話を受け止めないで、言いっ放しの状態)にならないように」ということで、ディスカッションの過程やテーマを可視化するためのホワイトボードを活用していた。班によっては一人の生徒が書記役になってこれを効果的に活用している班もあれば、ホワイトボードやマーカーで遊んでしまって、本自体を手に取らないまま話すグループもあった。でも、全体としてはプラス効果が大きいという判断なんだと思う。前に見た岩瀬さんの読書会では、付箋とノートだった記憶がある。どっちにするか、考えどころ。

意見を出させるための様々な工夫

見学してびっくりしたのが、意見を活発にさせるために渡辺さんが本当に細かく手立てをしていること。こんなきめ細かさは、ぼくには全くない。「文学を味わう方法7+α」、付箋の活用、疑問づくりのレッスン。これらの中では、特に、読書会を振り返りながら他のクラスに話し合いの様子を伝える「置き手紙」というシステムは良いなあと思った(写真)。これは真似しよう。なお、置き手紙には司書さんからの「話し合いおすすめテーマ」もあって、話し合いのネタがなくなってしまった場合に見られるようにもなっていた。

読書会で留意すること3点

授業後、1時間くらい率直に疑問点をぶつけたり、渡辺さんの考えをうかがったりして、僕にとっては大変勉強になるディスカッションの時間を過ごさせていただいた。特に、読書会をする上で留意しないといけないなと思ったのは次の点。

  1. 「読書会」で達成してほしいことは何?
  2. 選書の難しさにどう対処する?
  3. グループの適正人数は?

「読書会」で達成してほしいことは何か?

まず、一番大事な問題として、読書会を通して何を達成したいのか、どんな生徒の姿が見られたら成功なのかを考えておくことは大事だ。渡辺さんは、通常の国語の授業のように問いを立てて文章の細部を読解するよりも、自分に引きつけて読むということを経験してほしいとのこと。作品を通して自分の何かが触発され、それによって作品にも新たな光が当たるような経験を、とおっしゃっていた。それに向けては、読書会を「私のハマったところ」というフリートークから始めたクラスが効果的だそうだ。「好き」でもなく「ハマる」。自由度が高そうでいいフレーズだ。使わせてもらおう。

授業後のディスカッションでは、とても些細な(教師からすると)どうでもいい話題で時間を過ごすグループや、がそもそも文章をきちんと読めていなかったグループがあったことを元に、

  • 読書会でもベースになるような基礎的な読解は押さえるように指導すべきなのか。
  • 些細な問いにこだわっているグループにはもっと「良い問い」を与えるべきなのだろうか。
  • そもそも読解用の良い問いと、読書会用の良い問いは同じだろうか。

などの観点からの話題も出た。

この話し合いの時に自分が思い出したのは、僕の子どもたちの読書のことだ。うちの子は二人とも読書好きだけど、同じ本を一緒に読んで感想を交換してみると、僕の目からは「びっくりするほど読めてない」のだ。そして「どうでもいいことを楽しんでいる」。それなのに、この本が大好きだという。

これを「好きとはいうが読めていない、だから教えないと」ととるか、「大人の読者とは違う読み方で楽しんでいる」ととるか。特にゾロリや「街トム」が好きな小2息子は、大人からすると本当にどうでもいいようなギャグとかに大ウケしながら読んでいるのだ。僕にはそんな楽しみ方はできないので、自分にはできない読み方ができて羨ましいなあと思うこともしばしば。もし読書会の目的が「本を楽しむこと」「読書家になること」なら、うちの子たちのような読書の仕方を学校で許容してもいいのかなあと思う。

選書の難しさにどう対処する?

2つ目の問題は選書。渡辺さん曰く、読書会の難しさは、「その子に合う本かどうか」というマッチングの問題と、「その子に合うスピードかどうか」というペースの問題なのだという。なるほど、これはよくわかる話。僕も授業での読書会にいまいち踏み込んでない理由の一つはそこにある。個人の選択権が保証されるリーディング・ワークショップの個別自由読書とは違って、どうしても「一定のリストの中から選ばねばならない」制約がある。そのグループ内の全員にとって良い一冊というのがあるのかどうか。今回のように13冊という多めのブックリストの中から選ばせても、マッチングの問題は起きる。

でもこれについては、「読書会開始の3ヶ月前くらいから下読みの期間を設けて、合わない本だったら交換するだけの時間の余裕があれば良い」とおっしゃっていて、なるほどと思った。また、絵本や寓話のような、細部の読み取りというより大きなテーマで話がしやすい本を選ぶといいのかも、という話もなさっていた。どちらも「なるほど」の話。

グループの適正人数は?

もう一つはもっと実践的な話。渡邉さんは、一回めの授業では5〜6人グループだったそうなのだが、見学した回は2〜3人のグループになさっていた。個人的にも、本の話題で盛り上がれるのは3〜4名くらいまでかなと思う。また、選択できる本のリストを多くすれば、そのぶん同じ本を選ぶ人は少なくなるので読書会のメンバーは固定化し、選択できる本のリストを4冊程度に抑えれば、色々な人とその本を巡って話ができる。ブックリストの冊数はメンバーの多様性にも関わるのだ。なるほど。

とっても参考になりました、感謝!

とまあ、大変多くのことを学ばせていただきました。見学してお話もうかがった感想としては、やっぱりキモはブックリストと、生徒がそこから自分の本を納得して選べるようにするプロセスかな、ということ。そこを押さえることができれば、渡辺さんほど細かにケアできない僕でも、一応の形にはなるのではないかという見通しを得た。

今回の見学、何より素晴らしいなと感銘を受けたのが、渡辺さんが司書さんと二人三脚で授業を作っていることと、毎回の反省を踏まえて柔軟に授業を修正していること。特に後者は本当に立派なだな。これをする人としない人では、数年間ではとんでもない差が生まれると思う。すごい。見習わなきゃ。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!