10代前半向け、岩波ジュニア新書etcへの橋渡しになるブックリスト

風越学園の読書家の時間(リーディング・ワークショップ)、僕が受け持つ小5・6年生では今「ノンフィクション月間」だ。今日のエントリはそれに絡めて「岩波ジュニア新書を読むのはまだ難しい子向け」のノンフィクション・ブックリストを作ってみた。

写真は小諸市にある個人庭園Sam’s Garden。薔薇の咲き乱れる美しい季節です。これだけの広さの個人庭園を自分で作るのって、庭いじりが好きな人にはたまらないでしょうねえ。オーナーさんの本業は英語の先生なのだそうです

目次

「ノンフィクションとの出会いの場」が必要

ノンフィクションには、出会いの場が必要。これが今回のエントリの前提となる僕の実感である。もともと読書をしない子はもちろん、読書好きな子でも、物語が好きな子は基本的に物語ばかり読み続けるし、図鑑やサバイバルシリーズなど、広い意味でノンフィクションが好きな子も、きっかけがないと文字中心のノンフィクションには移れない。みんなあまり読んでいないから、物語の場合と違って、子ども同士のおすすめが成立しないのだ。

一方で、中学から高校になるにつれ、国語の教科書はノンフィクション(そのうちの評論文)の比重が増えていく。特に、高1の時に急に難易度が上がる。この中高ギャップは大きな問題で、ここで授業についていくには、せめて中学生終了時点でノンフィクションを読むことに前向きであってほしい。できればノンフィクションの語彙もある程度知っていてほしい。というわけで、今はまだ小学生の風越の子も、先を見るとノンフィクションに慣れておくことは絶対に必要なのだ。

岩波ジュニアetcへの橋渡しになるブックリスト

そんなわけで、現在開催中のノンフィクション月間と合わせて、ブックリストを作ってみた。下記エントリと内容がかぶるのだけど、これは前任の筑駒勤務時代に筑駒の中学生との授業経験で作ったので、今振り返ると難しかったと思う。ここでまずあげている岩波ジュニア新書やちくまプリマー新書は、中学生にはなかなか厳しい、が今の僕の実感。というわけで、このブックリストを補完する意味で、新しいリストを作って見た。今回のコンセプトは、「中学3年生くらいで岩波ジュニア新書が読めるようになるための、橋渡しになるブックリスト」である。

10代前半にちょうどいい!? 説明・評論文シリーズのブックリスト

2017.05.02

これはいい、「ちしきのもり」シリーズ

まずお薦めしたいのが、少年写真出版社「ちしきのもり」シリーズ。風越に来て知ったシリーズで、他のシリーズに比べて文字が大きく、ルビがあり、それでいて内容は人文・社会系から理系まで幅広くカバーしている。早ければ小学校中学年から読めるかな。高学年であれば「字がちょっと大きすぎ」と思う子も出てくる字の大きさなので、はじめてノンフィクションの読み応えのある一冊を読み切る練習にもいい。いや、これは本当にいいですよ。風越の子にもシリーズとしておすすめしている。

小学高学年から、「世の中への扉」シリーズ。

続いて、「小学生むきノンフィクションシリーズ」として刊行されている講談社「世の中への扉」シリーズも好き。字の大きさは「ちしきのもり」よりも小さく、「社会」「スポーツ」「歴史」などとジャンル別になっているのもgood。やや社会系が多い印象だけど、女子に人気の動物ものもたくさんあり、零戦・縄文人・スポーツ・鉄道と、男子に人気のニーズにも対応と、カバーする範囲が広い。ちなみに風越では、ある小6女子が紹介した『ほんとうのドラッグ』が注目度急上昇中。あと、このシリーズの最相葉月『調べてみよう、書いてみよう』は本当に良い「ノンフィクションの書き方」本です。

同じく小学生から読める「ポプラ社ノンフィクション」

ポプラ社もノンフィクションのシリーズ「ポプラ社ノンフィクション」を出してて、難易度は「世の中への扉」と同じくらい。動物、昆虫、スポーツ、環境系と、こちらも「世の中への扉」と同じく守備範囲が広い。「ゲッチョ先生」盛口満さん、安田菜津紀さん、飯間浩明さんをはじめ、いい書き手を揃えてるなあという印象がある。信頼できるシリーズだけど、ここでは飯間さん『ことばハンター』と前田亜紀さん『カレーライスを一から作る』をお薦めしておきます。

この「ちしきのもり」「世の中への扉」「ポプラ社ノンフィクション」が、今の僕が考える小学生向けノンフィクション3大シリーズだ。あくまで個人の印象だけど、他の著名シリーズは、「よりみちパン!セ」はルビは十分だけど内容的にはこれらのシリーズよりも心持ち難しめが多く、「14歳の世渡り術」シリーズや「15歳の寺子屋」シリーズになると、はっきり中学生以上向けかな、という感じだ。今の風越の小5・6年生だと、個別に読める子はもちろんいるけど、シリーズとしてみんなに薦めることはないかなあと思う。

書き手でお世話になっているのは岩貞るみこさん

これ以外でも、もちろん単行本や青い鳥文庫で、子どもでも読めるノンフィクションは色々とある。そんな中で個人的におすすめしたいのは岩貞るみこさんの作品。作家としては珍しい、児童書向けのノンフィクションライターだ(他に自動車の評論のお仕事をされているらしい)。この人の作品は、ノンフィクションといっても物語調が多くて非常に読みやすい。動物系、乗り物系、医療系と、幅広い好みも押さえていて、ノンフィクションを読み慣れていない子にはお勧めできる作家さんだ。実際に、「この人の本がいい」と岩貞さんを読み続ける子達にも出会った。いずれもう少し本格的なノンフィクションに「卒業」すると思うけど、小学生のノンフィクション読書を支えてくれる貴重な作家さんだと思う。

伝記では「伝記を読もう」シリーズが好き

伝記が好きな子も一定数いる。僕も小学校低学年の頃、ポプラ社の「子どもの伝記全集」シリーズを読みふけっていた子供だった。漫画ではない文字だけの伝記というと、このポプラ社の伝記シリーズが「おもしろくてやくにたつ子どもの伝記」として現在も健在。エジソン、ヘレン・ケラー、徳川家康など、懐かしさも感じる王道中心のラインナップである。

個人的に好きなのは「伝記を読もう」シリーズ。これ、取り上げている人物が好み。まど・みちおとかやなせたかしとか石井桃子とか、僕が興味深く読んだ。

小学生に一定数いる戦国好きには、火の鳥文庫の偉人シリーズ。他の伝記と比べると時代ものだけに語彙も少しレベル高いのだけど、戦国好きはどんどん読んでいく。

伝記といえば、筑摩書房の評伝シリーズ・ポルトレが中高生向けの伝記シリーズとして待ってくれているので、伝記好きにはそこまで繋いであげられたらなーと思う。

期待の星!「岩波ジュニスタ」

さて、「岩波ジュニア新書への橋渡し」を合言葉にノンフィクション本を紹介してきたけど、今年の春、満を持して、本家の岩波書店が「橋渡し」シリーズを出してきた。それが「岩波ジュニアスタートブックス」ご存知の方も多いと思う。

まだシリーズが始まったばかりだけど、ここまでの刊行本を見る限り、語彙はさほど易しくない印象もあるけど、ページ数が薄くて二色刷り。今日紹介した「ちしきのもり」「世の中への扉」「ポプラ社ノンフィクション」が小学生向けだとしたら、それよりはレベルは高く、「中学生向けノンフィクションシリーズ」と言えるだろう。今の5・6年生にはまだちょっと早いけど、いずれ手に取ってほしいシリーズだ。

実は、小学館でも中高生向けのシリーズYouth Booksが始まっており、他の有力他社でもジュニスタのような「中学生向けノンフィクションシリーズ」が企画されている噂もある。子供達のノンフィクション読書を支えるためにも、これから「10代の子向けのノンフィクションシリーズ」が盛り上がってほしい。風越でも、どんどんすすめますよ!

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