今週末は勤務先の軽井沢風越学園で、木曜が締め切りだった生徒の提出作品を読んだり、年間の評定をつけたり。合間の気分転換にお風呂でジェラルド・ドーソン『読む文化をハックする』(Hacking Literacy)を読んだ。実はこの本、粗訳の段階で翻訳協力者として関わっていてすごく面白かったので、今回が再読になる。教室に読者の共同体を作るための具体的手立てが多くて、訳者に国語科教育学の山元隆春さん(広島大学)、中井悠加さん(島根県立大学)がいるのも信頼度が高い。特に小学校の先生と中高の国語の先生にはおすすめです。
目次
読むことを日常にする具体的手立て
ブログのプロフィールに関心領域として「読書教育」と書いている通り、僕は読書教育には熱心な教員だ。でも、この文脈でよく実践例とされるビブリオバトルとか帯作りとかPOP作りとかにはあまり興味がない。ああいう活動は読書が日常に根付いている中でやるのはありだけど、そうでなければただの「楽しい一過性のイベント」になる。POP作りのおかげで子供達が一年後も本を読んでいる、なんていうことはまずない。読書教育の根幹は、どう生徒が日々読む環境を整えるかに尽きる。しかも、自分にあった本を、幅広く、アウトプットしながら、大量に、だ。このポイントを外した読書教育は、たとえ表面が華やかであろうが、ほとんど効果がないのではないか。
そして、ジェラルド・ドーソン『読む文化をハックする』の優れた点は、「楽しい読書活動イベントアイディア集」ではなく、日々の地道な読書活動と、それが生み出す読者共同体とてしての文化をどう生み出すかについて書いているところだ。何よりもまず「ひたすら読む時間」を確保する。生徒の読書についての記録を取る。カンファランスをする。教室の図書コーナーを充実させる。教師や生徒同士のブックトークをする。推薦図書の貼り紙を教室に掲示する…..。一つ一つは地味だけど、地味なことをこれでもかと徹底してルーティーンとして継続する。基本が徹底されている感があって素晴らしい。
自分の授業で足りないもの
冒頭に書いた通り、僕も今は年度末の評価の時期なので、読みながら自分の授業と比較していた。僕も授業では何よりも実際に読む時間を重視し、生徒とカンファランスをして好みや理解度を把握し、毎週読書ノートを集めてコメントをつけて返し…と、生徒の読書レベルの把握と、適切な本の紹介には努めている。また、ブックトークをしたり、今読んでいる本を授業の最後に1分でお互いに紹介してもらったりもしている。
結果、多くの子達の読書レベルは確実に上がってきていて、一定の手応えもある。ただ、僕の授業って、自分の性格上どうしても「教師と生徒の1対1のカンファランスの蓄積」になりがちだ。交流の部分を中心に、この本を読みながらいくつかアイディアも浮かんだので、自分用に列挙しておく。まだまだ足りないものが色々とあるなあ…。
- ブックトークを全員の前でやっているけど、例えば5人グループになってやる方が緊張の度合いも下がるし、生徒がブックトークをする機会を多く持てるのではないか。(話す・聞くの学習としてなら全員の前の方がいいけど)
- 生徒が自分で本を選ぶときの選書の基準が十分に育ってない(表紙とかタイトルで選ぶ子が少なからずいる)。アマゾンのお勧め、友達のお勧めなどをもっと活用していく。
- 「次に読む本」をストックして、選書で読む時間を潰さないの、大事!
- 最近、ブックパス(短時間での本の交換)をやってない。お勧め本を持ち寄ってきてもらって、それでブックパスするのもいいかな。
- 読書ペースが上がらない子がいる。家での読書の宿題をやってきてくれず、週で10ページしか読まない時も。きっかけとして、朝の集いなどでの全校的な読書時間を、10分でもいいから設けた方が良さそう。
- 生徒の本の推薦コピー作りやPOP作りとかは、単元としてやるんじゃなくて、読み終わったらその都度やってもらうと良さそう。3冊くらいを一つのテーマで展示するコーナーを作るのもいいかも?
- 全体的にもっと子供達の読書の成果を掲示しよう。風越には掲示場所が少ないのが難点だけど…。
- p124のコンセプト・ブックというアイディアは良い。年齢や時間を超えて本について交流するきっかけになる。選書に迷う子はここから選んでもらうこともできる。やってみたい。
- p141でレッシング先生が「私は約140人の生徒を受け持っていますが、それぞれの生徒が何を読んでいるのかあなたに伝えることができる」と言っている。すごい。どうしたらできるんだろう。僕は、今の受け持ちの40人でもやっとで、60人になったら難しい気がしているのに。
- p162の「教師が今読んでいる本を掲示するコーナー」、大人も読者である姿を見せる上でとても効果的。春にやったけど、結局コーナーが更新されずに立ち消えてしまった。スタッフが本を読むのがなかなか難しい現実もあるけど、違うやり方で復活させられないかな。僕は自分の読んでいる本は割と生徒に紹介してるけど、話すだけでなくコーナーを作る意味はありそう。
岩瀬さんのクラスの「読書の日常化」もすごい…
ところで話がずれるけど、最近、風越の校長のごりさん(岩瀬直樹さん)に、小学校教員時代にやっていた読書教育のビデオ記録を見せてもらったことがある。で、これがまあすごい。岩瀬さんは、読書教育をさんま(空間・時間・仲間)の観点で捉えて、空間を作る、時間を確保する、仲間との交流機会を作る、の3つをとにかく愚直に、しつこくやっていたのだ。リフォームプロジェクトで本を読む空間を作り、1日10分でもいいから毎日読む時間を作る。社会が5分早く終わればそのぶん読む。読むかけの本を机の上に必ず置いておく。選書で迷って時間を潰さないように、次に読む本を入れるボックスも用意する。本を読んで話し合う時間を確保する。一ヶ月くらいたったらブッククラブもする….こういう地道でしつこい取り組みが、岩瀬さんのクラスでの「読む文化」を作ったのだと思う。正直、実践家としての岩瀬さんの凄みに圧倒された。国語科教員として白旗は掲げないけど、自分にできてないことがたくさんある。
教室を「読む文化」で満たすためのヒント
岩瀬さんのクラスのように、教室を「読む文化」で満たすにはどうしたらいいのか。その具体的な手立てが、この本の中にたくさんある。これから読書教育をしようという人にはもちろん具体的な指針として役に立つし、もう読書教育に取り組んでいる人にも、僕がそうしたように、自身の読書教育に足りないものを考える良い鏡になる本だ。