僕たち中高の教員も色々な場面で「書く」ことが多い仕事だけど、小説家やライターのような「プロ」を除くと、僕ら以上に書くことが多い仕事として大学教員があると思う。
彼ら大学の先生が「書く」というと、まずは「論文」。ただし、多くの大学教員が論文実績をもとに採用されるのだから誰でも論文を書ける・書いているのかというと、どうも耳にする範囲だと全ての人が必ずしもそうでもないらしい。教授になってからモチベーションが低下して論文を書かなくなる事例、業務の多忙化で書きたくても論文を書けなくなる事例などを噂で聞いたことがある。
日本の大学ではどうなっているのかわからないけど、英語圏では、自分の大学の構成員を対象に「論文執筆サポートプログラム」を設けている大学が、数は少ないながら存在する。Devlin, M. & Radloff, A. (2014). A structured writing programme for staff: Facilitating knowledge, skills, confidence and publishing outcomes. という論文では、査読誌への投稿をゴールにした大学教員対象のプログラムの効果が測定されていた。90分×12回に、ライターズ・グループへの参加や個々へのサポートもあるので、かなり本格的な取り組みだ。また、Murray, R., Thow, M., Moore, S. & Murphy, M. (2008). The writing consultation: developing academic writing practices.では、教員同士が書き手役とコンサルタント役になってピア活動でお互いの論文をブラッシュアップする方法の効果が研究されている。
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特に、異業種の人が大学に異動してきた場合には、このようなサポートがかなり効果を発揮するだろう。Murry, R. (2002) Writing Development for Lecturers Moving from Further to Higher Education: a case studyでは、大学に異動してきたFurther Education(継続教育・日本でいう職業学校)の先生を研究対象に、彼がアカデミック・ライティングのコースを受講してライターズ・グループに参加したケースを研究していて、面白かった。
これらの大学が自大学の教職員を対象にこういうプログラムを設置している背景には、構成員の能力開発や学生への論文指導での効果を見込んでいるほか、多忙化で論文を書く時間が減っている中で、論文の被引用数が大きく影響する大学ランキングの順位を上げるために、良い論文の数を大学としても増やさねばならない、という事情もあるようだ。「大学の先生なんだから論文を書けるのが当たり前、それは自助努力」という人も当然いるだろうけど、例えば中高の教員が授業について研修を行うように、大学教員のFDにも「論文の書き方」があってもいいのかもしれない。良かれ悪しかれ、論文数で判断される傾向が強まっている動向を踏まえると、今後増えていく可能性もあるのではないかな。
実際のところ、大学の先生たちはどうやって「論文を書く」ことに向き合っているのだろうか。興味がむくむくと湧いてきた。こういうサポートプログラムがある大学があれば、ぜひ担当の方にお話をうかがってみたいところである。