In the Middle読書日記。巻末付録に、「ピア・カンファランスの記録用紙」サンプルが載っているのを見つけた。
日本では教師と生徒のカンファランスは無理
僕は日本でアトウェルのようなライティング・ワークショップをそのままやるのは無理だと思っていて、その最大の理由は 1クラスあたりの人数である。ワークショップの鍵でもある、「書く時間」における教師と生徒の個別カンファランスが、日本の平均的学級規模だと不可能に近いのだ。
それへの対策としては「生徒一人当たりのカンファランス時間を短くする」「カンファランスする生徒を絞る」「大福帳などのコメントシートを使って、紙上で簡易カンファランスを行う」など考えられる。
とはいえ、それにも限界があり、何より「教師が一人で頑張る」モデルは持続性がないので、やはり日本でライティング・ワークショップをやるのなら、生徒同士のピア・カンファランスを充実させる方向が良いよ、というのが僕の基本的な考え。
アトウェルのピア・カンファランスのやり方
前置きが長くなったけど、では、アトウェルはどんなふうにピア・カンファランスを進めているのだろう。In the Middleにはほとんど書いていないので、記録用紙からその様子を探りたい。
記録用紙には、まず書き手と読者(responder)の名前、日付、トピックやジャンルを書く欄があり、その後に書き手への注意書きが次のように書いてある。
・原稿のどこを助けてもらいたいかを決めなさい。例えば、あなたが意見を貰いたいのは、タイトル? 書き出し? 結論? 対話の部分?…(以下、たくさんの例示がある)
・次に、あなたがクラスメートについて、書き手・読み手・人として知っていること、そして、誰がこの分野のエキスパートなのかを考えなさい。あなたの問題【具体的に書かせる欄あり】について知っている人にアプローチして、あなたの目的【具体的に書かせる欄あり】への返答を求めなさい。
次に、フィードバックする生徒にも、次のような注意書きがある。
カンファランスの実施に合意したら、あなたの仕事は、書き手が自分の原稿について決断して改善するのを助けることです。そのためにあなたに必要なのは、
・ 自分が自信をもって理解できたと思えるまで、書き手が助けをもとめている点が何なのかを明確にする質問をしなさい。
・原稿を読むか、書き手に読み上げてもらってそれを聞きながら読みなさい。それから、書き手が求める手助けをしなさい。
・それに加えて、もし読んでいて混乱したり、わからなかったり、もっと知りたかったり、うまく入り込めなかったりする場所があったら、書き手に尋ねなさい。
・あなたの提案や感想や疑問は、書き手が読めるように原稿にそのまま書き込むこと。
・次にどうするつもりなのかを書き手に尋ねなさい。
・この記録用紙を書き手に渡しなさい。
最後に、もう一度書き手が今後の計画をメモする欄があって、この記録用紙は終わり。
僕の授業とアトウェルの授業の違い
僕の授業でもピア・カンファランスをする機会があり、そのための用紙があるのだけど、僕のとは全然違う。それがこの注意書きからわかって面白い。
一番違うのは、僕の場合はピア活動を、下書きをいったん書いた段階で全員一斉にやること。アトウェルの場合は、あくまで書き手が必要な時に、必要な相手を選んでやることだ。必然的に、一度もピア・カンファランスをしない生徒も、逆に何度もする生徒も出てくると思う。
教師が全員に関わるのが難しい日本の教室では、アトウェルのやり方だと、一度も他人にちゃんと読んでもらわないまま提出する生徒も出てきかねない。だから、アトウェルのやり方を僕がそのまま真似することはないだろう。でも、アトウェルのほうが徹底して書き手中心主義で、書き手がきちんと自分の作品制作プロセスをコントロールする仕組みになっている点は、認めざるをえない。書き手にとってより役に立つピア・カンファランスは、アトウェルのやり方である。
僕のようにクラスで一斉にピア・カンファランスをやる時には、書き手側のオーナーシップをある程度殺してしまう。だとしたら、アトウェルの授業とは異なり、書き手だけでなくフィードバックを与える側のメリットにも焦点をあてたピア・カンファランスのやり方を模索したい。そこに、アトウェルのやり方とは別の価値があるのではないかと思う。