「君の膵臓をたべたい」「また、同じ夢を見ていた」に続く住野よるの第三作「よるのばけもの」を読んだ。なかなか面白い作品だったし、生徒も読んでいる人が多い作家なので、感想を書いてみたい。
うまくなってる!を感じる3作目
これまでも10代を主人公にした小説を書いてきた筆者。今回の作品は、夜になるとなぜか化け物になる中学生の「あっちー」(昼は「俺」、夜は「僕」)と、彼が夜中に侵入した学校で出会う「矢野さん」を軸にして、中学生の人間模様を描いている。ただ、少年・少女を主人公にする点ではこれまでの二作と同じだけど、その描き方や読後感はだいぶ異なっている。
まず個人的な好みで言うと、「よるのばけもの」「また、同じ夢を見ていた」が僅差でトップを争って、「君の膵臓を食べたい」がだいぶ離れて続く感じ。僕にとって「キミスイ」は読んでて時々恥ずかしくなる文体だったし、「個性的なキャラクター」「現実離れした会話の面白さ」に頼りすぎな作品に思えた。一人の読者としては「夜のばけもの」のほうがずっと好きだし、もし上から目線に聞こえたら申し訳ないけど、ある程度客観的に書き方を比較しても、「キミスイ」の頃より今のほうが作家として着実にうまくなってると思う。
ただ逆に、「キミスイ」みたいなタイプの小説が魅力的だった人にとっては、キャラクターもそんなにとんがってないし、感動のエンディングというわけでもないので、物足りなく感じるかも。
配慮しあう中学生の息苦しい関係
この作品では、他者に対して痛々しいほど慎重に距離をとり、敏感に空気を読み、その結果として自縄自縛に陥っていく主人公(語り手)「あっちー」の姿が描かれている。自己分析をしては自分で自分を息苦しくする「あっちー」の姿を、化け物というメタファーを使いながら、どこか突き放した筆致で書いているあたりがいいな。
こういう、10代の閉じた学級空間における人間関係の息苦しさって、僕が読んだだけでも、小説だと「ヒトリコ」、評論でも「友だち地獄」などで描かれている。きっと、青春小説の定番のテーマなんだと思う。
幸いなことに、僕自身はここまで「配慮」を重ねてサバイバルする中学生時代を過ごしたことはない。そのせいで、読んでいてあまり実感がわかない点もあるのだけど、今の中学生はどうなのかな。ちょっと生徒の感想を聞いてみたい作品でもある。