[読書]人生とは、自分で書いた物語。住野よる『また、同じ夢を見ていた』

「中学生が読んでいる小説を読みたいんですけど」と司書さんにお願いしたら貸してくださった。デビュー作「君の膵臓を食べたい」が話題になった著者の第二作。

主人公は小学生高学年の小柳奈ノ花。「馬鹿な子」ばかりの学校には友達がいない、とびきり頭の良い女の子だ。その彼女が「幸せとは何か?」という国語の授業の宿題について、周囲の人々との交流を通して考えていく…というお話。彼女の友達は、「季節を売る仕事」をしている賢くて素敵な「アバズレさん」、物語を書く高校生の「南さん」、一人暮らしの「おばあちゃん」、猫の「彼女」。そして、絵が上手なのにそれを隠しているいじめられっ子の「桐生くん」。誰もが個性的な、でも共通点のあるキャラクターとしてそれぞれの存在感を持っている。

「人生とは素晴らしい映画みたいなものよ」(お菓子があれば、一人でも十分楽しめる)に始まる「人生とは」をめぐる奈ノ花の台詞も読んでいて楽しいし、上記の友達との交流を通して「幸せとは何か」について考えていくストーリーも魅力的。そして、賢い少女でもやはり小学生なのでわからないところもたくさんあって、そこを読者だけがわかるようになっている。物語を通読してからまたパラパラとめくると、その情報の落差がとても上手に使われている小説で、僕はそうではないけれど、鋭い読者なら、物語全体の仕掛けにもっと早く気づくのかもしれない。

読み終えると、途中で両親と喧嘩した奈ノ花に仲直りを促すため、「南さん」が奈ノ花の口癖を真似て言った台詞がひときわ印象深く心に残る。「いいか、人生とは、自分で書いた物語だ」。本当にそうだな、と思う。

特にものすごく盛り上がったり、強烈な印象を残したりするわけではないけれど、本当にそうかもしれない、といつの間にか思わせてしまう物語。穏やかな心地よい読後感。デビュー作の「キミスイ」も手にとってみようと思う。

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2 件のコメント

  • 膵臓のほうは、中学生になった教え子に絶対読むべきだ!!と年賀状ですすめられて読みました。とてもよかったです。

    • 僕も昨日読み終わりました。甘酸っぱい話で、ああいう終わり方をするのが意外でしたね。僕は第二作の方が好みかもしれないです。