[読書]僕には甘酸っぱすぎる味。住野よる『君の膵臓をたべたい』

以前に読んだ『また、同じ夢を見ていた』の住野よるのデビュー作。2016年本屋大賞の第二位作だし、生徒も読んでいるので読んでみたのだけど、うーん、なんというかこう、男子校出身アラフォーが読むには甘酸っぱすぎる小説だった(笑)

クラスの中で地味な存在の「僕」。地味な彼が偶然知ってしまった、クラスの人気者の少女の死期。その秘密を共有した彼と少女の関係が、深まっていく様子が、コミカルに、しかし徐々に深刻さを増して描かれている。

独特なのがこの二人の関係。二人は異性同士で一緒に泊りがけの旅行にまで行ってしまうにもかかわらず、妙にこの関係が中性的で、恋愛につきまとう性的な生々しさが一切排除されている。「私のこと好きじゃなくて安心した」という台詞まで飛び出す。このへん不思議だよね、という感想を伝えた所、ある生徒が「そこが好きなんです」と言っていただけど、そこまでして「恋愛じゃない」ことを強調したのが効果的だったのかなあ…?

あと、これはもう「このジャンルの表現様式なんだ」と思うしかないのだろうけど、どうしてもテンプレート的なお決まりの展開や、あと違和感のある表現にも幾つか出会った。例えば、最後に「僕」が号泣するシーンを「あああああああああ!」みたいに描写されると、これは真面目に読んでいいのかギャグだと思えばいいのか、困ってしまうよ…。でもこれは、普段読んでいる小説のジャンルによっては気にならないのかな。むしろ「フラグ」と同じくこういう「テンプレ的様式美」を楽しむところなのだろうか。

個人的には違和感も大きくて、好きな作品というには至らないのだけど、軽妙で機知に富んだ会話のやり取りは『また、同じ夢を見ていた』と同様に、読んでいて楽しい。個人的には『また、同じ夢を見ていた』の方がずっと好きなのだけど、また読んでもいいかなと思う作家さんではある。次も読んでみよう。

[読書]人生とは、自分で書いた物語。住野よる『また、同じ夢を見ていた』

2016.09.15

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