少しずつ読んだ、心に沁みる本が今月のベスト。2023年4月の読書

2023年4月の読書は絵本も入れてちょうど10冊。以前に比べると充分な数とは言えないけど、一方で今の自分はこんなペースなのかなあとも思うう。今月は何よりもベスト本に掲げた本との出会いが嬉しい月だった。

目次

今月のベストは、表現することを応援する本

そんな4月のベストは、詩を読み、書くことをめぐるエッセイ、松下育男『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』だった。時間をかけて、少しずつ少しずつ読んだ本だ。とても好きな本。それは、この本が何よりも「個人的な言葉」で書かれているからだ。簡単に一般化しないで、「ぼくはこうだった」という経験が繰り返し書かれている。そこから生まれてくる言葉が、読み手の僕にも伝わってくる。この人と僕とはまるで違うけれど、この人の経験の中に僕の経験もあると感じられる。そして、ふっと自分を持っていかれるような言葉がある。

人が考えていることが理解できないように、人が言っていることも完全には理解できない。もともと言葉って完全には通じないものだと思う。完全には通じないから、つけ入るスキがある。完全には通じないから、完全に通じるものよりもすごいものを受け渡せる。(p57-58)

そして、詩を書く人、というより何かを書いて表現しようとする人をはげます言葉もたくさんある。例えばこんな言葉、

詩を書いている自分を尊敬する。素敵に詩を書いて過ごそう、ひたすらそうしよう、と今日はそのことを言いたいと思います。(p70)

それからこんな言葉も。「読まれたい」「評価されたい」「ほめられたい」という自分の欲望を否定せずに、でもそれにとらわれずにどう表現していくか。これはとても大事なことだと思う。

誰かにほめられることはもちろん嬉しいことだけど、そのためだけに詩を書いていると欲望がとめどなくなる。そうすると、自分の感情がいつもぐらぐら揺れていて制御できなくなる。ものを作っていてそんな不幸におちいらないようにしようというのがぼくの言いたいことです。(p370)

もちろん、詩の本なので素敵な詩もよくわからない詩もたくさんあって、清水哲男「美しい五月」や山内清「木になるたのしみ」は出会って良かったと思える詩だった。

物語では、「いまさら」のこちら2冊…。

『汝、星のごとく』で二度目の本屋大賞を受賞した凪良ゆう。その受賞ニュースを見て、「そういえばまだ読めてなかった」といまさら読んだのが、前回の本屋大賞受賞本の凪良ゆう『流浪の月』。自分のアイデンティティをどう捉えるかというテーマや、周囲の優しさゆえに苦しめられてしまうことの重さがずっしりと手に残る一冊。主人公格の2名の最後の決断には、人間の根源的結びつきのようなものを感じた。

もう一冊の「いまさら」系といえば、今月は古典的児童文学の斎藤惇夫『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』も。風越の9年生が「小6の頃に読んだ本」として勧めていて、厚さ的に『チョコレート・アンダーグラウンド』を読めた子の次のステップにどうかなと思って春休みに読んだけど、これも良かったな。何人もいるネズミのキャラクターが立っている。特にイカサマとヨイショがかっこいい。初版1971年の本だけど、主に男の子向けの冒険ファンタジーとして、今後も生き残ってほしい本だ。

ノンフィクションは、白石由竹のモデルの伝記

今月のノンフィクションでは、先月に引き続き3月の網走旅行に関連する本を。マンガの野田サトル『ゴールデンカムイ』も全31巻を読破したんだけど、そこに出てくる主要キャラ、白石由竹のモデルになった「昭和の脱獄王」白鳥由栄を扱ったノンフィクション、斎藤充功『日本の脱獄王』を読んだ。もともとは1985年刊行の本のようだ。合計4回もの脱獄(青森、秋田、網走、札幌)について、その方法やそこまでの経緯、そして府中の刑務所に移ってもう脱獄しなくなってからの彼の生涯について、白鳥本人の回想とその裏付けの取材をもとに書いている。まあ、人ない外れた怪力の上、肩の関節を自由に脱臼できて、頭が入る隙間があれば脱出できたという特異体質の持ち主。あるときは屋根から、ある時は地面に穴を掘っての変幻自在の脱獄術には恐れ入る。そして、実際の人物像は漫画の白石由竹と全然違うのも面白い。

絵本はショーン・タン『セミ』が面白い!

4月末、詩人の向坂くじらさんが、ご自身の国語教室でショーン・タン『セミ』が大流行中だと、Twitterでつぶやかれていた。それで図書館で借りて読んでみたら、なにこれ不気味で面白い。ラストシーンの一言とかとても印象的で、風越の子はどんなふうに読むんだろう、感想を聞いてみたいな、と思える一冊だった。トゥクトゥクトゥク!

ぼくは恥ずかしながらまるで知らなかったのだけど、とても有名な絵本作家さんらしい。ショーン・タン、他にも読んでみよう。

風越の同僚・KAIさんのPAの本

仕事に使った本としては、風越の同僚・KAIさんの甲斐崎博史『クラス全員が一つになる学級ゲーム&アクティビティ100』。PA講座も企画したことだし、実際にPAをやる機会もあったので読んでみた。PAの基本的な考え方と、さまざまなアクティビティが載っている。別にPA自体をとてもやりたいわけではないぼくにとって、一番大事なのは「序章」の底辺に流れるものなのだろう。この考えを踏まえて、PAに限らないKAIさんの授業実践を見ると、色々と理解できることがありそうだ。今年はKAIさんは34年生の国語の授業を担当するので、この本を片手にKAIさんの「作家の時間」「読書家の時間」について少しでも知っていきたい。

読んで楽しい山登り語辞典

最後に、今月の山系の本は気軽に読めるこちら。『文房具語辞典』や『江戸川乱歩語辞典』がお気に入りの誠文堂新光社の「○○語辞典」シリーズの一冊、鈴木みき『山登り語辞典』だ。こういう、辞典形式のムック本って、単純に登山用語を知ることにもなるし、何よりも著者の発見やこだわりや遊び心が詰まってて面白い。

今月は本当は田部重治『峠と高原』を読もうと思ったんだけど、ちょうど仕事が忙しくなって夜にそこまで手を伸ばせなかった。これはゴールデンウィークの楽しみかな、と思う。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!