[読書]お勧めは鳥獣戯画キャラによるほのぼの漫画符号図譜。2018年12月の読書。

2018年12月の読書は10冊でした。前半は期末試験で忙しかったから仕方ないとはいえ、後半も気力減退気味で通勤読書が捗らず、年末で数字だけ帳尻を合わせた感じ…。反省はさておき、今月はその中から7冊を紹介します。一押しは漫画です。

目次

これは面白い!漫画の「符号」図鑑

今月のベストはこうの史代「ギガタウン 漫符図譜」です。色々な種類の「吹き出し」、「いいアイデア思いついた!」時の電球マーク、どよーんと沈んでいる時の縦線…漫画には、感情や場面を表すたくさんの「符号」がありますよね。それを、鳥獣戯画に出てくる可愛いキャラクターたちの4コマ漫画で解説してくれる、読んで楽しい事典です。授業で漫画の表現の特徴と小説の表現の特徴を比較したことがあるんだけど、そのときにこの本を持っていたかったなあ….!

それを

「橋のない川」、相変わらず筆力に感嘆…

同点ベストに住井すゑ「橋のない川」第4巻。全7巻を月に1冊ペースで読んでいて、ようやく折り返しまで来ました。記憶力の悪い僕はこの巻からついに「人物相関図」を作りながら読んでます(笑)。

その今巻で印象的なのは、何と言っても孝二たちの高等小学校の同窓会。かつては自分がエタの部落・小森出身者であることに苦しみ、島崎藤村「破戒」の丑松に自らをなぞらえていたお寺の跡取り・「秀ぼん」(村上秀昭)が、「小森の村上です」と名乗って大演説をし、巻末には水平社設立へと動き出す。第一巻から読んでいる読者としては、「あの秀ぼんがこんなに立派に成長したか…」の感が拭えません。また、第二巻の最後に孝二を苦しめた同級生たちから、孝二を励ます葉書が届くのも胸を打ちます。とにかく面白くて読ませる。名作の評価は伊達じゃない。

今さら読んだらじんと来た「竹取物語」

他に読んだ小説で印象深かったのは、中高生以来?の竹取物語。古典ビギナーなので、角川文庫ソフィアの「ビギナーズクラシックス」を色々と読んでみようと思って、手に取りました。

いや、改めて読んでもいい話ですねえ…。全部を通して、しかも解説付きで読むと、これまで気づかなかったことがわかって面白い。五人の求婚者のキャラクターが描き分けられて、彼らとのやりとりを通してかぐや姫が人間としての情感を得ていく過程。また、そうして翁に対して「不老不死で憂いもない月に帰るよりも、老いていく翁の世話をしたい」とまで思うようになったかぐや姫が、それでも天の羽衣をかぶった途端に全てを忘れて「衣着つるひと」と描写される語りが、とても切ない。しみじみ感動してしまった。

平家物語の予習に、安史の乱から

あと、ツイッターでどなたか(失念失礼)に教わった橋本治「双調平家物語」第一巻も良かった。出来事中心の叙事詩的な書き方なのが、いかにも軍記物という感じで、好き嫌いありそうだけど、歴史好きの方はぜひ。

平家物語の冒頭「遠く異朝をとぶらえば…」の「秦の趙高、漢の王莽、梁の周伊、唐の禄山」から描き始めるというスケールの大きさに驚きます。80代の晩年に至って東魏を討とうとして侯景の乱を招き、建康の都の悲惨な落城を招いた梁の武帝、王朝「周」を作ってしまう則武天の話も面白いけど、話の中心は唐の玄宗皇帝の代に起きた安禄山の乱。楊国忠の讒言により反乱に追い込まれ、独立してからも洛陽の毒に飲まれていく大燕皇帝・安禄山の盟友、史思明がかっこよすぎて…。

安史の乱は、ピンカーの「暴力の人類史」によると、人口比の死者が最も多い戦乱でした。楊貴妃と玄宗皇帝の逸話は白居易「長恨歌」などで日本でもよく知られていますし、杜甫・李白といった中国の詩人も乱の影響を受けています。日本の平家物語や源氏物語にもその影響が及ぶ、大きな戦乱です。お勧めくださった方のいう通り、その安史の乱について知るには確かに良い一冊

「序の巻」の後の日本の話も蘇我入鹿が山背大兄王を討つあたりから始まるので、日本史の復習にも良さそう。全15巻もあるけど、できればちょっとずつでも読みたいなあ…。

新書系からは「なぜヒトは学ぶのか」

ここで物語から転じて、説明文系に行きましょう。教育の話題を扱ったものとしては「なぜヒトは学ぶのか」。学習を「個体学習」「社会学習」「教育による学習」に分けて、「教育による学習」を人間に特有だとする切り口が、なるほどという感じです。こういう切り分けは、「何が個体学習や観察学習で学ぶことができ、何が教育による学習で学ばないといけないのか」を考える良い切り口になるのではないでしょうか。

遺伝と環境の交互作用の複雑性を強調し、学習も教育も個体差があって当然で、学習者が自分なりに意味を見出さないといけないのだと、遺伝的条件を重視しつつも学ぶことの意義を述べている点、クールなようで「熱さ」を感じる本でした。

岩波ジュニアからは「香りと歴史 7つの物語」

今月読んだ岩波ジュニア新書は3冊。「ベストの1冊」は迷ったけど、渡辺昌宏「香りと歴史 7つの物語」にします。香りから見る世界史という観点の入門書で、とても楽しい。一番興味深かったのは、ナポレオンの皇妃ジョセフィーヌがバラを世界中から集めたり人工栽培を援助したりして、近代のバラの歴史において欠かせない重要人物であったということかな。また、19Cのヨーロッパで樟脳(楠の皮や枝、根を蒸留して得られる白色半透明の結晶)が万能薬として人気があり(カンフル剤の語源になります)、そのほとんどが薩摩藩から出荷された樟脳だったことなど、ちょっとした豆知識に「へえ」となる。

あと、「めんそーれ!化学」も良かった。ホットケーキはなぜ膨らむのか、塩は燃えないのに砂糖は燃えるのはなぜか、コーラは電気を通すのか、スポーツドリンクで豆腐を作る実験など、身近なものがたくさん。夜間学校の学校の生徒さんたちの生活に化学が密接に関わっていることがよくわかる授業ばかり。「へえー」じゃなくて「ああ」と言われる授業(化学が暮らしの体験に結びついていることがわかる授業)というコンセプトも面白い。この本をテキストにしながら、理科の先生に実験を教わりたいものです…。

以上、2018年12月の読書でした。昨年に倣って、2018年のベストの本についても別エントリで書いてみたいと思います。

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