前回の読書エントリに引き続いて、2018年の読書を振り返る自己満足エントリを書きました。このブログとは別に僕は非公開の自分用読書記録をつけているのですが、そこでの得点が10点か9点のものから厳選して、2018年に読んで良かった本を紹介します。いわば、2018年の私的ベスト盤です。
目次
フィクション部門は、幻想小説をとりました
小説部門のベストは…迷ったのですが、彩瀬まる『くちなし』! 愛と性をテーマにした幻想的な小説が多くて、読者によって好みは分かれると思いますが、それだけに強くイチオシしたい短編作品集。生きることの悲しみ、喜び、美しさ…全てがぎゅっと濃縮された原液を少しだけ薄めて飲んでいるような濃厚な味わいの本です。
小説はキリがないのでもう一つだけ。ケン・リュウ「紙の動物園」と迷ったけど、こっちをあげます。これも名作として知られるサマセット・モーム「月と六ペンス」(金原瑞人訳)。
ノンフィクション部門1位は数学の入門書
ノンフィクション部門の1位には数学の入門書を選びました。吉田武「はじめまして数学」です。
次に紹介したい本は、山本淳子「枕草子のたくらみ」。清少納言個人の機知の産物と思われがちな枕草子を、中宮定子をめぐる権力闘争の歴史の中において解釈し直す本で、別に国語の先生じゃなくても単純に面白い。振り返ったら枕草子を読みたくなってきたぞ…。
三冊目にスティーブン・ピンカー「暴力の人類史」(上・下)。通読するには長すぎる感は否めませんが、「人類史は暴力が減少していく歴史であった」ことをこれでもかとデータを積み上げて語っていく様子は圧巻の一言。
岩波ジュニア新書部門1位は
このブログ独自の部門として岩波ジュニア新書部門。中高生に紹介できることと、自分の各分野へのアンテナを張っておく意味で、やはりこのシリーズは良いんですよね。1位は松沢裕作「生きづらい明治社会」にしようかと思ったのですが、売り上げ年間1位らしくて、同じ高得点の黒瀧秀久「榎本武揚と明治維新」を先に紹介します。若い頃のオランダ留学や蝦夷共和国の設立から、明治政府の大臣として臨んだ足尾銅山鉱毒事件まで、近代日本の歴史とともに歩んだ偉人。榎本武揚の大河ドラマ化は、大村はまの朝ドラ化と合わせて主張したいところです。
そして、現代の「生きづらさ」と明治時代の生きづらさをつなぐ松沢さんの「生きづらい明治社会」も、どちらも明治時代の本ですね…。
教育書部門1位は保育の本
教育書ばかり読むと自分の土壌がやせ細るので、意図的に教育書は冊数を抑えるようにしています。でも、その中でも読む価値ある本として名前をあげたいのが赤木和重・岡村由紀子「『気になる子』と言わない保育」。これは衝撃的な本でした。子供を理解するということは、相手から世界がどう見えるのかを理解すること。その方針が徹底している本です。考えてみると、甲斐利恵子先生も、中学校という現場でこういうことをなさっているのかもしれません。
また、刊行時にかなり話題になったジョン・ハッティ「教育の効果」も、押さえるべき本でしょう。それぞれの教育手法の「効果」という問題に真正面から切り込んだメタ分析の論文です。参考書のように手元に置くだけでも参考になるはず。
もう一冊あげるなら、中村高康「暴走する能力主義」。「これからの時代は21世紀型能力だ、非認知能力だ」という言説を支持する人も、反発する人も、読んでおいた方が良い本です。実はこれまでも「新しい能力」が求められてきたことや、そうなってしまう構造的な理由について詳しく書いています。
未読のものがあればぜひどうぞ
ここまで挙げた本は、いずれも僕にとってはとても面白い本ばかり。皆さんにとってどうかは、手にとってのお楽しみ?ですが、未読の本があればぜひ読んでみてください。