[読書] 語りかけを通じて、授業と、自分を変える。ピーター・ジョンストン『言葉を選ぶ、授業が変わる!』

昨秋から今年の春にかけては、吉田新一郎さんが手がけた本の出版ラッシュだった。あまりに数が多くて、僕はしばらく様子見のスタンス。そしてようやく読んだのが、筑波大学の長田先生、上越教育大の迎先生との共著である『言葉を選ぶ、授業が変わる!』。「授業における教師の言葉がけ」についての本で、ライティング/リーディング・ワークショップのカンファランス(教師と生徒の個別指導)を想定しているが、それに限らず、小学校から大学まで、幅広い授業の場面で応用の効く本である。

教師の語りが教室をどう変えるか

「教師の語り」に注目した本はおそらく数多いのだと思うが(あまり読んだことがないのでただの推測です…)、この本は「こう生徒を動かしたければこう話せ」的な本ではない。教師自身があまり意識しないような言葉のはしばしに、その教師が持つ価値観が表れていること、そして、そうした言葉を通じて生徒になんとなく伝わる教師の姿勢や期待が、即効性はなくとも、実は年間を通じた授業の質に影響するのではないか、ということが、事例とともに丁寧に書かれている。

話し合いをしないグループにどう声をかける?

例えば、グループ活動中に、あるグループの話し合いの質が低下して、他のグループの迷惑になっている時、あなたはどんな風にこのグループに言葉をかけるだろうか。真面目にやるように注意する? 実は、この本に収録されている先生は、生徒たちに何が問題なのかを尋ねた上で、次のように聞いているのだ。

話し合いがいつ終わるのをどうして決めたらいいのかがわからなくて困っているようね。話し合いが終了したことをどうやって決めたら良いのですか? (p187)

この返し方はいいなあと思った。「ふざけるのはやめなさい」という注意ではなく、「こうしなさい」という指示でもなく、問題を特定した上で、その解決策を考えるように促している。この言葉は、生徒たちが自分で問題を解決できる、というメッセージになっている。

さまざまな教師の語りの事例

この本では、上記のようなさまざまな教師の語りの事例が、「気づくことと、名づけること」「アイデンティティー」「主体性、そして選択するということ」「柔軟性と、活用すること」「子どもにとって「知ること」とは」「民主的な学びのコミュニティーをつくり続けるために」「あなたは、「誰と話している」と思っていますか?」という7つのカテゴリに分けて収録されている。いくつか印象に残ったものを書き出してみよう。

  • 誰か違った読み方/書き方を試してみた人はいますか?(p36)
  • 何か発見したパターンがありますか?(p46)
  • 自分も書けたらよかったなあと思っていたものがありますか?(p47)
  • あなたらしくないわね。(p69)
  • あなたは自分を誇りに思っているのね。(p70)
  • 作家として、あなたは今日何をするのですか?(p72)
  • 今日はどんな問題に遭遇しましたか? 他に同じ問題を抱えた人はいますか? あなたはどう解決しましたか? 他に解決する方法はありますか?(p89)
  • あなたはこれをどうするつもりですか? この文章はここからどう展開するのですか?(p90)
  • 「でも」ではなく「さらに」を使う言い方で、選択肢を提供する(p93)
  • 作者はなぜその言葉を選んだのでしょうか? 他にどのような言葉を使えたでしょうか?(p101)
  • 私の間違いを修正してくれてありがとう。(p149)
  • 私たちはどうやって確かめることができるでしょうか?(p153)
  • それについて彼女はどう感じていると思いますか?(p174)

授業中のこうした具体的発言を事例として、こういう言葉がけがどのような暗黙の意味を持っているかが丁寧に解説されているのだ。とても参考になる。

まずは真似してみよう

この本に載っている言葉がけ、僕ができているものもあれば、そうでないものもある。でも、上にメモしたものを中心に、自分の授業でも真似してみたい。こういう言葉は教師の持つ価値観を反映するものでもあるが、同時に、こうした言葉を意識的に真似してみることで、これらの言葉が内包する価値観を教師が身につけられることもある、と思うからだ。

僕には過去、こんな経験がある。ライティング・ワークショップのカンファランスで生徒に語りかける時に「何か手伝えることはある?」と聞いたことを、ある見学者の先生が褒めてくださったのだ。「ああいう言葉は、生徒が主体であることを自然に受け入れていないと出てこない」と。

実のところ、その時の僕は単に、英語圏のライティング・ワークショップの本でカンファランスを始める言葉としてよく出てくるHow can I help you?(手伝えることはある?) やHow’s it going?(調子はどう?)を単純に真似していただけなのだ。だから、この見学者の先生がおっしゃってくださったことは、完全な買いかぶりであった。

ただ、この時の経験を通じて、こうした言葉を真似してみることで、この言葉が背後に抱えもつ価値観を、少しずつ自分のものにしていける、そういう手応えを感じたのも確かだ。実際に、僕は徐々にこうした言葉が自然に出てくるようになっている(例えば、今は「手伝えることある?」「僕たち」のような台詞は極めて自然に出てくる。これは、言葉を真似することで僕の行動が変わった例ではないかと思う)。

というわけで、二学期に予定しているライティング・ワークショップでは、『言葉を選ぶ、授業が変わる!』に載っている語りを少しでも真似できるように、ちょっと意識してみるつもり。それが、僕にとって一番良いこの本の「使い方」だと思う。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!