2018年7月の読書は合計で12冊。前半は成績処理で読書する暇はなかったけど、後半にピッチが上がってだいたい平均的な冊数に届いたかな。恒例の、この月に出会った良い本を紹介します。
目次
理性の力に希望を持てる「暴力の人類史」
一番時間をかけたのは「暴力の人類史」。5月に上巻を読み追え、下巻は読めないんじゃないかと思ったけど、ようやく読了。長かったけどやっぱり読んで良かった!
この本を読んでわかるのは、こと暴力に関する限り、世界は確実に良い方向に向かっており、人が暴力に苦しんだり、暴力で死んだりすることは少なくなっているということ。そしてそれに大きな影響を与えたのが近代国家の成立や人権意識の高まり、理性(推論能力)の涵養であって、これはやはり人類史の中で「進歩」と記されてよい。この本を書いたのが進歩を基本理念とするアメリカの研究者であることには留保が必要だとはいえ、ついつい懐疑的になりがちな人間の「理性」の存在に希望を持てる一冊だった。
インクルーシブについて考えた赤木さんの本
今月の2冊目は、赤木重和さんの「アメリカの教室に入ってみた」。アメリカ・ニューヨーク州のシラキュースで在外研究をした筆者の体験をもとに、あるべきインクルーシブ教育の姿を探るエッセイ。とても軽い文体なのだけど、提案している中身はなるほどと思わされるもの。
単に違いを尊重するだけでは孤立してしまう。単に人間関係を重視するだけでは個々の自由がなくなってしまう。「違うこと」(difference)と「人間関係」(relationship)をともに尊重するという二つの軸で見ることが大事なんだな。異年齢教育にせよ、個別やグループの活動にせよ、それ自体を固定化するのではなく、流動的であることに価値がある、というのも面白かった。
インクルーシブ教育の意義は、一人では想像しえないクリエイティブな学び・遊びが創発するところにある。(p23)
確かに。インクルーシブという言葉、単に「障害のある/なし」ではなく、「多様性をたたえた場を作ることにより創発を促す」という大きな視野で捉えたい。
ディスレクシアについて学ぶ
先月、レビューしたこちらのディスレクシアの漫画。これは大変面白くて、勤務校の同僚にも色々とおすすめした。
読書と脳の活動についての研究のまとめと紹介が中心の本で、英語と中国語で使う部位が異なるということ、幼い頃のリテラシー教育(読み聞かせ)の重要性、文字の指導は5歳以降で良いこと、熟達すると脳の右半球を使うようになることなど、様々な知見が紹介されている。そして、次の言葉が何より印象深かった。身が引き締まります。
ディスレクシアの研究が持つ唯一最も重要な意味は、将来のレオナルドやエジソンの発達を妨げないようにすることではない。どの子供の潜在能力も見逃さないようにすることである。ディスレクシアの子どもたちすべてが非凡な才能に恵まれているわけではないが、どの子供もその子ならではの潜在能力を持っている。ところが、私たちがそれをどうやって引き出してやったら良いかわからずにいるせいで、見逃してしまっていることがあまりに多いのだ。(p307)
強引に仕事つながりで書くと、今月はジョンストンの『言葉を選ぶ、授業が変わる!』も良かった。これは別エントリで。
あと、自分が翻訳に関わった『イン・ザ・ミドル』も、完成した嬉しさに何度か読み返してしまいました。やはりいい本です(笑)
岩波ジュニア新書4冊。ベストは…?
今月は、岩波ジュニア新書強化月間ということで、次の4冊を読んだ。まず言っておくと、どれも好きな本です。ロボット本は、ロボットをめぐる日本と西洋の比較文化論を中心に、面白いトピックがいっぱいあったし、「知の古典」は、ヒトーパデーシャという抜群に面白そうなインドの古典が紹介されていたし、「司法の現場」は、13人中10人が女性の書き手ということもあり、検察官、弁護士、裁判官の仕事に興味のある女子にすすめたくなる本。
けれどもし一冊をあげるなら、やはりシャチの本になる。写真家の水口博也さんの美しい写真。まるで自分が海にいてシャチが見つかるのを待っているようにも感じられるほど、生き生きとした文章。そして、シャチの生態についての説明。紀行文と説明文の良いところをミックスしてできたような、夢中になって読んでしまう本。自分もこんな文章が書けたらなあ…。
8月はもうちょっと読むつもりです
うん、ちょっと今月は小説が少ないな。読書会に備えて再読した『紙の動物園』だけだったし。8月は夏休みだし、目標は15冊。ジャンルは、意識して小説を読んでいこう!