[読書]祝・ちくまQブックス創刊! 岩波ジュニスタとともに「中学生以上の新・王道」になるか?

この9月、筑摩書房から新シリーズ「ちくまQブックス」が創刊された。「ノンフィクション読書を全力応援!」というキャッチコピーのシリーズで、同社の「ちくまプリマー新書」よりもさらに年少向けを意識して作られたシリーズだ。ご存知の通り、ちくまプリマー新書と並ぶジュニア向け新書の「岩波ジュニア新書」版元・岩波書店も、この春に「岩波ジュニアスタートブックス」を創刊したばかり。「ジュニア向けノンフィクション本」の有力2社がともに新しいノンフィクションシリーズを開始した2021年は、新しい流れが生まれるかもしれない。というわけで、この2つのシリーズの共通点と違いを整理してみた。

本を並べて撮った写真、僕の影が移ってるのはご愛嬌…ちなみに、今年の4月には小学館からYouthBooksというシリーズも出てるんですが、こちらは判型も内容も従来の「やわらかめ新書」的な感じだったので、今回の比較企画からは除外しました。

目次

中学生を視野に、キーワードは「探究」

まずは、違いの前に共通点を。ジュニスタもQブックスも、これまでのジュニア新書やプリマー新書に比べて、ぐぐっと中学生の実態にシフトした点が最大の特徴だ。僕の前任校はトップレベルの進学校だが、それでも岩波ジュニア新書やちくまプリマー新書には「厚くて…」「ふだん本を読まないから…」と手が出ない中学生達が一定数いた。あのシリーズを普通に読める中学生は、一部の優秀層に限られるのである。最近の岩波ジュニア新書はそれでも若い世代向けに色々工夫している様子があるけど、ちくまプリマーはもう振り切って「ちくま新書の弟分」っぽい印象もあるほどだ。

とまあ、事実上「読者は高校生以上じゃない?」と思える岩波ジュニア新書やちくまプリマー新書に代わり、「本当に中学・高校生向け」を狙って作られたのがこの2つのシリーズなのだと思う。そして、どちらのシリーズも「最近の教育の動向を意識してか、「正解のない問い」「探究」をコンセプトにしている。学校関係者には注目のシリーズだ。(あと、どちらもお値段高めです…)

最近の学校のトレンドを意識? 岩波ジュニアスタートブックス

3月に創刊した「岩波ジュニアスタートブックス」。「学習入門シリーズ」と銘打つだけあって、最近の学校のトレンドを意識したつくりが特徴だ。これまでのところ、小西雅子『地球温暖化を解決したい』、蟹江憲史 『SDGs入門 未来を変えるみんなのために』、桝太一『なぜ私たちは理系を選んだのか』など、SDGsや理系に関する本、進路選択に関する本が多い印象で、学校の総合学習で使われることを意識しているんだと思う。で、そんな主流からは外れちゃうけど、国語教師の僕が個人的に読んでて好きだったのは、以下の2冊。

このシリーズ、どの本も、新書より一回り大きいB6版120ページほど。行間は広く、イラストや写真も多く、ルビも多い。全ページ二色刷りで、重要な文には色がつき、フォントもゴシック系で読みやすい。さらに、本の冒頭には箇条書きのまとめもある。きっと、パラパラここを見て自分が読みたいかどうか決めてもらうのとともに、調べ学習での利用も想定してるんじゃないかな。

というふうに、岩波ジュニア新書からぐっと中学校の現場の実態に寄せたシリーズで、岩波書店さん、めっちゃ頑張ってくれた。欠点は、この頑張りの代償とはいえ、税込みで1595円というお値段でしょうか….。

  • 理系やSDGsなど、最近の学校現場のトレンドを意識した?シリーズ。
  • B6版120ページほど。2色刷り、行間広く写真・イラストも多く、フォントもゴシック系で読みやすい。
  • 本の冒頭に箇条書きの「内容まとめ」あり。総合学習や調べ学習での利用も。
  • お値段は税込み1595円。

「評論」への足場がけに最適? ちくまQブックス

一方、9月に刊行されたばかりのちくまQブックスは、まだ4冊だから「第一印象」しか書けないけど、岩波ジュニスタに比べて「読み物」的な性格が強い印象を受ける。創刊ラインナップの著者も伊藤亜紗さん、苫野一徳さん、稲垣栄洋さんと、中高国語関係者なら「説明文」「評論」の書き手としてお目にかかり、どの人も、初学者向けにわかりやすく語りかける言葉を持っている方。こういう創刊ラインナップの書き手にも、シリーズとしての意図が見える気がする。どれも大人なら1時間くらいで読めてしまうのだけど、とても面白かったー!

ちなみに、創刊ラインナップのもうひとりの鎌田浩毅さんは、岩波ジュニスタの創刊ラインナップにも名前を連ねていた。これもすごい。

僕はかねがね、高校の国語の「評論文」が中学校までの「説明文」「論説文」に比べて難しすぎる点を問題視しているけど、その意味で、高校国語教科書の有力な出版社である筑摩書房が、高校国語の評論への足場がけとなる「ノンフィクション入門」的なシリーズを出してくれたことは、とても喜ばしい。

装丁は、こちらも岩波ジュニスタと同じくB6版で、ページは100〜120ページ。なんと岩波ジュニスタよりもさらに薄い。この薄さは最高。表紙にはすべてその本の中核になる「問い」が書かれていて、Qブックスのコンセプト「QuestionからQuestへ」が明快だ。行間が広くルビも多めなのはジュニスタと同じで、これもありがたい。ただ、数えたわけじゃないけど、岩波ジュニスタほど写真やイラストは多くなく、1ページあたりの文字は多く感じる。フォントもゴシック系のジュニスタに対し、こちらは明朝系で、それがまた「ノンフィクション読み物」っぽい印象を強める。巻末に必ず「次に読んでほしい本」がついていて、これも「調べ学習」よりも「読書」を意識しているからだろう。

とはいえ、今後のラインナップを見るとSDGsとか探究学習(清教学園の片岡先生が登場!)も視野に入れてるので、教育のトレンドを意識している点はジュニスタとも共通している。

面白いのはイラスト。本シリーズには米村知倫さんや須山奈津希さんのイラストがあるんだけど、例えば「「が」にいきたいのになかなかいけない「て」」(吃音で、「て」の音を繰り返してしまう状態。伊藤亜紗さんの本から)とか、「クモの巣電流流し」(知識のネットワークが張り巡らされて、そこからすぐに最適解が見つかる状態のこと。一徳さんの本から)とか、イラストにしにくい概念的な言葉をイラスト化してる(←これはどちらも須山さんのもの)のがけっこうあって、見てて面白い。

  • 高校の評論にもつながるノンフィクション入門シリーズ。
  • B6版100〜120ページと、ジュニスタより薄い。2色刷り、行間広い。ユニークなイラストつき。
  • ジュニスタよりも文字中心で、「調べ学習」というより「読み物」としての印象が強い。
  • お値段は税込み1210円。

学校図書館関係者は買いましょう!

とまあ、これまでのラインナップから、岩波ジュニスタとちくまQブックスの特徴を整理してみた。あえて違いを強調すると、ジュニスタは学校の総合学習や調べ学習にも対応したつくりになってて、Qブックスは評論につながる「ノンフィクション読書」を意識している感じかな。まあ、これからどうなるかわからないけど、どちらもこれからの中学生以上の「新・王道」になることが期待されるシリーズです。創刊のコンセプトを大事にしつつ、長く続いてほしいな。どちらも作りを工夫しているぶん、お値段はちょっと高め。たぶん、中学生高校生が自分で買うというより、学校図書館の需要を期待しているんでしょう。中学高校の図書館の方、買いましょう!

この記事のシェアはこちらからどうぞ!