中学2年生の国語の授業は、定番教材の「走れメロス」に入ったところ。といっても、授業回数も少ないので「メロスとセリヌンティウスの友情!」みたいな話には全くふれないで、文体について学ぶ材料として使うつもり。読み直してみると「メロスは激怒した」ではじまる書き出しの部分はやはり秀逸だ。この短く断定する言い方で全体のトーンを決めつつ、「すでに始まっている」ストーリーに読者を強引に引きずり込み、同時にメロスの性格などの必要な情報も伝えている。「走れメロス」を手がかりに「小説の書き出し」についての資料を集めていたら、けっこうな数の本が出ていたので、本日はそれを紹介しよう。
目次
書き出しをきっかけに文学作品の魅力を案内する本
まずは書き出しについて解説も添えながら読者を誘ってくれるガイド本を。
岩波ジュニア新書の『書き出しは誘惑する』は、手堅い選択が光る。様々な作品の書き出しを筆者なりに分類しているのだけど、単に書き出しについてだけ書いているつもりがいつの間にか脇道にそれて語りすぎてしまっている部分もあり、個人的な思い入れもたっぷり。「書き出しガイド」を超えて、筆者の読書遍歴やそれをもとにした読書案内にもなっているのが良い。
有名な小説の書き出し部分についてもっと詳しいエッセイが並んでいるのが『名作はこのようにはじまるⅠ&Ⅱ』。いわゆる名作ぞろいのセレクションだし単行本なので中学生にはちょっと荷が重いかなと思わないでもないけど、これも書き出しだけでなく、色々な人のエッセイがあり読書案内として楽しめるシリーズ。小説を読む着眼点としても参考になる。
楽しみ色々、書き出しアンソロジー
続いて、「書き出しアンソロジー」を。『小説の一行目』は芥川賞&直木賞受賞作300作品の最初の一行目だけを集めたというユニークな一冊。解説も分類も何もなく、ただ一行目が並んでいるだけ。その無軌道な配列ぶりが面白く、けっこう読んでいて楽しい。
同様に、古い本(1989年)だけど『書き出し美術館』にはなんと489編の小説の書き出しが収められている。「回想」「語り」などの項目別に分類されているので、異なる作家たちの似たタイプの書き出しを比較する楽しみもある。
「書き出し小説」の名作たち
最後に、「書き出し小説」、つまり「書き出しだけで完成を意図された小説」を集めたというユニークなシリーズが「書き出し小説名作集」だ。『書き出し小説』と『挫折を経て、猫は丸くなった。』である。読者投稿をもとにしているようで、これがけっこう面白いのだ。
その日、少女はエイプリルフールの日だと知らずに告白した。その日、少年はエイプリルフールの日だと思って承諾した。その日、二人の物語は動き出した。
ティッシュ箱はもう空だった。宇宙もこんな形なのだろうか。
「この中に犯人がいるかもしれないんだぞ!俺は部屋に戻る!」と言った横田にも無事朝が来た。
「あ、肉まんを考えた人か」そう思ったときにはもう、滝つぼが眼前に迫っていた。
生徒のとっつきやすさならこれが一番かな。ぱらぱらめくっているだけでも楽しい本だ。
参考になるウェブ上の情報は…
なお、インターネット上では、こんな情報もある。
本の書き出し
こちらは本の書き出しを表示しているサイト。クリックするとAmazonにリンクしたり、シェアしたりできる。
The First Line
https://twitter.com/The_First_Line
美しいと思う小説の一行目bot
https://twitter.com/i_looove_novel
小説の冒頭bot
https://twitter.com/novel_beginning
これらは僕がフォローしたツイッターのbot。こういう所でもはっとする一行に出会うことができる。
創作のヒントにもなる書き出し集
中2の国語の授業はこのあと読解から創作へと進んで行くので、こういった書き出し集は、自分が書く小説の書き出しのヒントにもなるし、この書き出しからストーリーを組み立ててもいけるはず。こういうラインナップを可能な限り図書館に揃えてもらわないと!