小説、エッセイ、教育…。わりと幅広い本を読んだ、2024年6月の読書。

2024年6月の読書記録。小説、エッセイ、新書、山本とわりと広いラインナップだったけど、それぞれに粒揃いで、ベストはなんとなく決めかねる感じ。物語のハイファンタジーのあの本と、児童書作家が自分の子どもにインタビューを続けたあの本かなあ。特に後者は、書き手のライブを実際にみたのも大きい。というわけで、6月の本、いってみよう。

目次

成瀬とレーエンデの2大小説を読んだよ!

フィクションでは、話題の2大小説をやっと読みました。まずは、宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』。ゼゼカラにあこがれる小学生のみらい、自分のクレーマー気質を気にする呉間言実、親子3代で琵琶湖観光大使になった篠原かれんなど、成瀬に出会うことで自分の人生を一歩前に踏み出す人々が登場する群像劇。最後、ふたたびみゆきが主人公になる「探さないでください」では、大晦日に成瀬がどこかにいなくなったシチュエーションで、自分の知らない成瀬の大学生活を知っているこれらの人々へのみゆきの嫉妬が描かれる。太陽の周辺をまわる惑星のように、主人公の成瀬に出会う人々を描く基本的スタンスは第一作と変わらずに、早くも水戸黄門のような安心感とともに読める一冊。ただそのぶん、予想外の面白さとはいかずに、「次」も続くと微妙なところ…。

個人的に成瀬シリーズよりも評価が高いのが、風越の読書好きにも広まっている多崎礼『レーエンデ国物語』。聖イジョルニ帝国の英雄ヘクトル・シュライヴァと娘ユリアが交易路をつくるための視察でレーエンデ地方を訪れ、そこで弓手の若者トリスタンと出会う…という展開の、王道ファンタジー。はじめてレーエンデでの暮らしをする中で自分の意志を見つけるユリアと、ユリアおよび憧れの英雄ヘクトルを守ろうとするトリスタンの物語。とにかく、銀呪の海の描写がとても美しく、幻想の世界の中にひたっているようだ。特に恋愛がからむ場面になるとユリアとトリスタンのセリフがちょっとラノベ的な軽さがあるのが若干違和感があったのだけど、ここまで世界をきっちりと書き込んで読み手を入り込ませる力量はすごい。続編も読んでみたいところ。

「ものがたりライブ」が最高な、杉山亮さんの著作2冊

6月は、中軽井沢図書館で、ミルキー杉山シリーズの著者・杉山亮さんによる「ものがたりライブ」が開かれた月でもある。僕も長女とともに出かけたのだが、この面白いこと!最初は「読み聞かせみたいなものかな?」と思っていたのだけど、素晴らしかった。会場の小学校低学年を中心とした子どもたちの心をぐっとつかみ、かといって子ども向けというわけでもなく、大人の僕達もしっかり楽しめる。これは落語とは異なる、もうひとつの話芸ですな。

その杉山亮『子どものことを子どもにきく』は、「知る人ぞ知る育児エッセイの名著」と帯にもある、読んでいてとても楽しい一冊。自分のお子さん・隆さんが3歳から10歳までの8年間、その時々に彼が感じていることや考えていることをインタビューした作品だ。インタビューそのものも気軽に読めて楽しいし、とりわけ、まだ3歳や4歳の頃の隆さんは、大人の発想とは違う世界を生きている感じがありありとうかんできて、面白い。

加えて、最後のおまけである、そのインタビューを著者の亮さんがふりかえる「子どもと対話する意味」という文章も味わい深い。子どもとまっすぐにやりとりしてきた元保育士(保父)、おもちゃ作家、そして児童書作家である著者のスタンスが明快に表れている。「大人は子どもの話を聞くトレーニングができていない」は、自分のこととしてもしみたなあ…。

加えて、本書には、(ちくま文庫版の場合は)「あとがき」が3つもある。これが、隆さんの成長にともなう、その時々の親子の距離感の変化がうかがえて興味深い。

というわけで、今月紹介した本の中ではいちばん教育関係者向けかもしれない。「この本を本棚に置いて、自分は子どものことを子どもにちゃんと聞けているか、と問いかけている」と言う風越の同僚もいたほどだ。このタイトル、自分もそんな指針にしてみよう。

なお、お子さんの杉山隆さんは、現在は浅間山や八ヶ岳を中心に活動している山岳ガイド。特に黒斑山周辺の生態に詳しく、実は風越学園のアドベンチャー登山でも大変お世話になっているガイドさんだ。なんというありがたい偶然….!!

杉山亮さんのもう一冊、杉山亮『児童書作家のおもいつき』は、杉山さんのツイッター(X)でのつぶやきをまとめた本。これ、ものがたりライブの会場で買ってサインをいただいた一冊なのだけど、一時間もかからずに読めて、示唆的な文章も多い。何より、「子どもの読書の入門期」を担おうとするプロ意識がさらっと力まずに書かれている。たとえば、ものがたりライブについても、こんな意識でされているんだなあと感心した。こちらの本も、読書教育に関心のある人におすすめです。

  • まずはソフトを音楽のように耳から届けよう、というのがものがたりライブの考え方だ(p12)
  • 様々な言葉の詰まった楽しい物語を耳から渡すのが鍵だ(p155)

読書教育がらみでいえば、忘れてはいけないのが笹沼颯太『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』。こちらはすでにブログで紹介しているので紹介しないけど、家庭でできる読書教育のノウハウがたくさんあって、このうちのどれかはお子さんにヒットするはず。子育て中の方、どうぞ。詳しくは下記エントリを。

「ひとり読み期」の家庭の読書教育の指針になる一冊に。笹沼颯太『ハマるおうち読書』

2024.06.29

「プロジェクトが生まれる町」神山の取材記録

次は、授業とは関係のないノンフィクションを。単純に読んで面白かった本として、篠原匡『神山 地域再生の教科書』もおすすめしたい。神山といえば、教育関係者の中では「神山まるごと高専」で話題の徳島県神山町のこと。本書は、著者が神山で出会った人々を取材して、神山になぜこれだけ多くの人々が集まるのかを解き明かそうとする本。最初の章の神山まるごと高専設立プロジェクトの話は、新規開校をめぐる話として面白いし、それ以上に、神山に多様な人々が集まっていることに面白さを感じた。移住してくる人の層を指定するとか、官ではなかなかできないことを民だからやる、みたいな発想も、純粋に盲点をつかれた感じ。神山に来て働く色々な業種の人々への取材を通して、「プロジェクトが生まれる町」神山の多様で偶発的な魅力に迫る、面白いノンフィクションだ。

これは考えてしまう…社会の変化と子どもの愛着の問題

読んで「うーん」と思ってしまったのが、岡田隆司『「愛着障害」なのに「発達障害」と診断される人たち』。ほんらいは遺伝的なものである発達障害の診断が近年急増しているが、それは単に発達障害の認知の広がりだけでは説明できないはず。なんでこんなに急増しているのか…というリサーチ・クエスチョンが面白くて手にとった本。筆者は、発達障害の陰に隠れて、類似の現象である愛着障害が見逃されていることを指摘していた。ここまでは「なるほど」という感じ。

その後印象的だったのが、発達障害の割合が国によって異なるというデータだ。つまり、遺伝子が理由でここまでの大きな変化は考えにくく、ライフスタイルが原因の擬似発達障害=愛着障害が増えているらしい。そして興味深いことに、おおざっぱには、近代的なライフスタイルになるほど、愛着障害が増えていくのである。愛着障害が増える理由として、筆者は幼少期の親、特に母親との接触の不足や、母乳子育ての減少をあげている。短絡的にまとめると「母親が子育てに専念せずに仕事や美容を優先した結果、愛着の問題がおきている」とも言えそうな話なのだけど、それは女性の権利の問題とも抵触してしまう。この筆者の指摘が仮に本当だとして、ではどうするのかという点では、現代においてはかなり微妙な問題だ。他の本も読んでみたい。

今月の山読書から。実用書も手元におきたい。

6月はアドベンチャーの登山もあり、登山系の本をいくつかめくったのだけど、読み通したものは少なかった。その中で、「これは手元においてもいいかも」と思った実用書が、大森義彦『バテない体をつくる 登山食』。行動食の基本となる考え方や人間が食をエネルギーに変える仕組みがやさしく解説されていて、しかもイメージ優先ではなくてけっこう本格的。カラーも豊富でめくって楽しい。そろそろ山の知識をレベルアップしたいところなので、こういう一冊を手元においてもいいなあ。

実用書以外の山読書は、今月は一冊だけ。近藤光一 『ぼくの仕事場は富士山です』は、富士山で山岳ガイドをされている著者のエッセイ。登山ガイドを志したころから、登山ガイド中のエピソード、そして、富士山の登山学校ごうりきを設立して、少人数のエコツアーに切り替えたことなど。2020年代に山登りをはじめた身からすると、2000年代の頃のツアーの無茶振りにはびっくりする。著者も、特に資格などもないままいきなり富士山の登山ガイドしてるし…笑

富士山は登る山ではなく見る山だと思ってるけど、「登らないバカ、二度登るバカ」とも言われる。僕も一度は登ってみてもいいかな。まだ具体的ではない「いつか」の話だけど、いつかね。

というわけで、6月の読書はこんなところ。7月は下旬から夏休みにも入るし、良い出会いがあるといいな。最近、登山や山のギア系のYoutubeを見て読書の時間が減ってる気がするから、意識的に読書時間、とっていこう!

 

 

 

 

 

 

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