帰国して最初に学校図書館で借りた芥川賞受賞作。面白かった。ネタバレも含んだ感想を手短に。
とても合理的な思考をして周囲の人たちから浮いてしまう「私」が、「コンビニ店員」という役割を上手にかぶって30代半ばまでの人生をやり過ごしていたところに、「白羽さん」という態度の悪い新しいバイト店員がやってきて…というお話。物語では、「私」や「白羽さん」の周囲にいる「正常な人たち」が、そこから浮く人たちを「治そう」としたり「あちら側」に「削除」しようとしたりするのが面白い。これは、コミカルだけど、紛れもない僕たちの現実社会の縮図である。
その「治療」や「削除」の対象にされている「私」と「白羽さん」。とても冷静に自分の居場所を抑え、どうしたら対処できるかを考えて、「コンビニ店員」という居場所を見つけている「私」に比べて、自分を排除しようとする現在の社会システムを深く恨みつつ、やっぱりその社会の価値観にすがりついている「白羽さん」の方が、自分や多くの人に近いと思う。僕自身は、白羽さんにはとても共感を覚える。みんな、小さな「白羽さん」を自分の中に抱えて、でも人前では表面化させないでやり過ごしているんだ、と思う。
社会に受け入れてもらうための「白羽さん」との奇妙な同棲生活を経て、最後にまた「コンビニ店員」に戻っていく「私」。でも、二人の同棲を知った時の他のコンビニ店員たちの浮き足立った態度で、彼女は気づいてしまったはずだ。一見「人間の世界」と遠く離れているようなコンビニ店員の世界も、実は「人間の世界」の一部であったことに。コンビニの世界は、彼女にとっての完璧さをすでに失ってしまっている。爽快さすらあるラストシーンなのに、どこか不安をぬぐいきれないのは、その不完全さがあるから、なのかもしれない。