流行中のインフルエンザB型がついにあすこま家を襲い、小3息子と小6娘が相次いで罹患。そして今日は妻も体調不良で寝込むという危機的状況での読書記録。一冊ごとにエントリを書くのが手間なので、2018年1月に読んだ本のうちから面白かったもの限定でメモしていきます。
目次
今月のベストは生物の新書と歴史の新書
今月読んだ本のベストは2冊の新書が並びました。
明治日本の歴史をぎゅっと濃縮。偉大な知識人・榎本武揚
一冊目は榎本武揚の伝記、黒瀧秀久『榎本武揚と明治維新』。いやあ、失礼ながら、榎本武揚って「ああ、五稜郭の人ね。なのに、そのあともちょいちょい名前出てくるよね」程度の認識でした。こんなに面白い人だなんて思っていなかった。
若いころのオランダ留学、戊辰戦争で五稜郭に立てこもってから、日本初の選挙で「蝦夷共和国」の総裁に選ばれたこと、黒田清隆の説得による翻意と明治政府への出仕、北海道の開拓、千島・樺太交換条約の駆け引き、馬車でのシベリア縦断、初の内閣での逓信大臣、農商務大臣としての官営八幡製鉄所の設立、そして迎えた近代化の暗部・足尾銅山鉱毒事件…近代の歴史をぎゅっと濃縮したような人である。面白すぎて、個人的な「次の大河ドラマ主役候補」にノミネートされました(他の有力候補は立花宗茂)。
面白おかしい、昆虫学者の奮闘記
もう一冊は、前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』。面白いよという評判を聞いて読んだんですけど、本当に面白いですね。昆虫の若き研究者である著者が、アフリカのモーリタニアで大量発生するサバクトビバッタの研究に現地に行き、その生態調査のために悪戦苦闘する奮闘記。
文章の達者な学者さんは他にもいるけど、この方は「自分を笑いのコンテンツにする」力が抜群。同じ生物系でも福岡伸一さんとはまた違ったタイプの書き手で、読み手とのコミュニケーションが密なブログでセルフプロデュースの仕方を学んだんだろうな、と思います。しっかりプロデュースされすぎて、それが鼻につく人もいるかもしれないけど、こういう文章が書けて、あともちろん厳密な論理構成の論文もたくさん書けるなんて、羨ましいぞ。
今月の面白かった本たち
この2冊以外に、今月読んで面白かった本たちを一挙に紹介。
画家別の西洋美術マンガ
まずはこのシリーズ、学校図書館で見つけました。
これは読んで良かった!画家一人ひとりのストーリーをマンガで追いつつ、要所要所で中野京子さんの解説が入る。楽しく読んでいるうちに西洋絵画の基礎知識が身につく感じで、西洋美術好きのうちの娘はマンガだけ読んでた。
詩人の美しいエッセイ集
今学期のライティング・ワークショップのジャンルが小説かエッセイということあり、先月今月はエッセイを読むことが多い。なかでも出会って良かったのは、これかなあ。詩人の三角みづ紀のエッセイ(なぜか下のサムネイルではイラストのさとうさかなさんの名前しか出ない…)一つ一つはとても短いんだけど、とても映像的で美しい文章。長短のリズムがあって、読んでいて美しい。特に冒頭の「柔らかい霧」が好き。
どうも僕は女性詩人のエッセイ集が好きなようで、他にも、蜂飼耳、小池昌代、井坂洋子さんらのエッセイに好きなものが多い。こういう文章、書けるようになりたいものですな。無理そうだけど。
入門書のようでそうでない、お仕事系読書
お仕事系読書としては阿部公彦『名作をいじる』。名作の書き出しに落書きして読んでみよう、という触れ込みの本で、中高生向けの入門書かと思ったら、わりと骨太だった。「語り手」とか、文学作品を読む基本概念を知っていないと、ちょっと厳しい感じ。でも、勉強になる本です。
とにかくこの著者の読みに感心してしまう。乱歩の二十面相のですます調の効果、川端の雪国の視線がまとまらないところ、語り手が「自分を見て!」と言っているような太宰の人間失格など、よくこんなふうに読めるなあと驚嘆する。もちろん作者はそんなこと考えていないけど、そんなのどうでもいい、と言いたくなる読みの豊かさ。どうしたらこんなふうに読めるんだろう。うーん脱帽。面白い。