ブクログの過去レビューより転載。読了日は2012年5月3日。
2012年5月3日のこの本のレビュー
どうしてあんなにインチキくさい「道徳」の授業を相変らず多くの学校の教師はまじめに行っているのか?(あとがきより)という著者の疑問から出発したという、道徳教育についての本。
最初の「手品師」という有名な教材(だそうだ)の扱いがなかなか面白かった。もっと多様な選択肢や解決法があるにもかかわらず、それを「自己の利益」と「他者の利益」の二項対立に矮小化して自己犠牲を美徳とする、というのは、この教材に限らず学校現場(というより日本社会)でありがちなことだと思う。
筆者の主張は、このような一見「反利己主義」的な道徳教育が、明治以降の市場主義を押し進めるための装置になってそれを支えている「市場モラル」であるということ、そして、それを必要悪として相対化するための「共同体道徳」の復権を求めていることである。
道徳の系譜を、明治以降の市場原理主義の導入と共同体道徳の相克で図式化しているあたり、ちょっと単純化されすぎのようで気になった。ブックガイドにある唐澤富太郎『教科書の歴史』も読んでみたい。
2019年3月から一言
僕は小学校での道徳の授業をバカにして「先生の気にいるストーリー」を演出するのに余念がない生徒だった。最近の道徳の教材は、下記エントリで書いた「ココロ部」みたいになかなか面白いものも多い。