昨日、また面白い本に出会ってしまった! 小学1〜6年生の書いた詩に、詩人の金井直がその良いところや悪いところをコメントして改作案を示すシリーズ『詩をつくろう◯年生』。自分にはない視点が色々とあって面白い本でした。1981年刊行の古書ですが、詩の作り方の本って、古書に面白いものが多いですね。
金井さんの添削、小学生相手でも一切の手抜きなし!
この本の面白いところは、金井さんが「詩とはこういうものだ」という主張を明確に打ち出して、その観点から、一切の手抜きなしの講評を加えている点にある。僕には詩の良し悪しの基準ってわからないという話を先日のエントリ(下記参照)で書いたが、この人は明確に持っている。もちろん「金井直の基準」にすぎないわけだけど、この筋の通し方は実作者ならではだ。
例えば、シリーズ第1巻。小学一年生の、僕の目から見ると「一年生でこれ書けるの上手!」「良いところをたくさん褒めて励まして…」という感じなのだけど、金井さんはそんなに甘くない。
- さて、さいごの 一ぎょう 「そんなお月さま 大すき」 と、こたえを だしています。このような こたえは 詩を ただの ぶんしょうに してしまいます。(p13)
- でも、この詩は、なくても よい ぶんしょうが あるために、 ながすぎるのです。詩と いうよりも ふつうの 作文を ただ ぎょうわけして かいたものと いうことに なるのです(p40)。
と、どの詩でも「良くないところ」を指摘して、詩はどうあるべきかを解き、多くを削ったり、書き直したりする。その後で、
けずった ぶんしょうが どうして いらないか、もういちど よく かんがえてみましょう。かかなくても よむ人に わかるところだと きが つくでしょう。かかなくては いけないところと、かかなくても よいところの くべつを しることが たいせつですね。(p66)
と、添削の前後でどう詩が変わったかを考えるように求める。わかち書きの表記と求めている内容のギャップに笑っちゃうけど、この手加減のないところが好き。2年生以降もこんな調子で続く。
著者の「詩とは何か」が明確に出ている本
この本が読んでいて痛快さも感じるのは、金井さんの「詩とは何か」を明確に提示して、それを決してゆるがせにしない姿勢の一貫性や、評価基準を公開しているフェアなところにもあるのだろう。この本を読むと、少なくとも金井さんが「詩はどうあるべきか」と考えているかが明確にわかる。こんな感じだ。
- 詩とは比喩を作ることである。
- 思ったことや感じたことをただ書いても、詩にはならない。
- 感動をただ書いても、読む人は感動しない。
- 詩は、文章を飾ることではなくて、物を良く見て、正確につかむこと。
- 一つの詩で書くテーマは、必ず一つに絞る。
- テーマに合った性質を持つ材料を選んで書くことが大事。
- とにかく余計な説明の言葉を削る。
「あれもあり、これもあり」というゆるふわな態度とは全く異なるこの人の詩観が打ち出されていて、心地よい。当然、読み進めるうちに読み手の僕に金井さんの基準が頭に入ってきていて、「次のこの子の詩は、金井さんだったらどう批評するかな」と考えながら小学生の詩を読み、ページをたぐって金井さんの批評と改作例を読んで「答え合わせ」をした。(そして、だいたい当たらない)。こういう楽しみ方ができるお得な本だ。この金井さんの「詩とはかくあるべき」はあくまで金井さんの考えに過ぎないだろうが、こうやって読めば金井さんのロジックに習熟していって、自分の中で詩を評価する引き出しは増えるだろう。
学校の詩教育と、詩人の考える詩創作との距離
もう一つ印象的だったのは、どの巻にも「教科書に掲載されている詩」が取り上げられ、批評されていること。例えば、小学校1年生の巻では東京書籍の「はしるの 大すき」が取り上げられ、この詩の無駄をどんどんけずった例を示した挙句、
- このように かえてみましたが、あまり おもしろく ありません。これは もとの詩の 考えが ふつうだからです。
と、わりと容赦ない評言を加えている。こうした姿勢からは、金井さんの、小学校での詩の教育に対する批判意識、より直接的に言うと苛立ちも垣間見える。詩人の彼の目には、教育現場では詩ともいえない文章を量産しているように見えるのではないか(いや、まあ実際その通りなのでしょうけど)。
もちろん、学校の創作の授業は、創作のプロを育てるためのものではない。詩という表現ジャンルを言葉の学習の一つに使っているだけである。また、子どもの発達段階を考慮して、欠陥があっても「今は指摘しない」判断をすることもありうる(例えば、小学校1年生に金井さんのようなスタンスで評価をしたら、あっという間に嫌いな子を量産するだろう。あの添削は、おそらく腕に覚えのある子たちが詩人の金井さんに自分の詩を投稿して見てもらうという状況下で成立するコメントである)。
とは言え、学校の詩創作が「ありのままでいい」に流れてしまったり、平易なものだけを良しとしたり、行分けされた散文になったりする事態は、おそらく昔から続いているのだ。詩がそう風に扱われるのは、金井さんのような詩人には歯がゆいことだろう。学校での詩教育と、詩人の詩の創作との距離も垣間見える面白い本だった。
古書ではあるけれど、これは読んでよかった。小学校で国語の授業に関わる人がこの本を読むと、金井直さんが詩をどういうものと考えているのか追体験ができる。それに賛成するかどうかは読者次第だろうが、個人的には確かに納得できる指摘も多い。僕も、実際に受け持つ生徒にこのような添削をそのまますることは滅多にないだろうが(書く意欲も力もある子ならありうる)、金井さんの視点で詩を読む経験は、ミニレッスンやカンファランスの引き出しを増やす意味でもとても有益だ。お勧めします。