2022年3月、前半は成績やら面談やらをふくむ年度末のさまざまな仕事に追われたけど、後半は反省して毎日読む時間を極力増やした。結果、冊数で言っても例月よりも多め。いい出会いもいくつかあって、充実した読書月間だったな、と思う。それでは、いってみよう!
目次
ブログにも書いた教育関係の本たち
まずは、ブログにも書いた教育関係の本たち。今月は5冊もすでにブログに書いてしまった。反省としては、ちょっと教育関係の本を読みすぎた。国語教師の仕事は、「教育関係以外の」本や文章を幅広く読むことだと思っている。今月はちょっと多すぎました。来月は絞っていこう。とはいえ、それぞれよい出会いではあったのだけど。
このうち、自分のライティング&リーディング・ワークショップを見直すのにとても良かったのは、ピーター・ジョンストン他『国語の未来は「本づくり』。「作家の時間」(ライティング・ワークショップ)を、国語の授業を超えたより大きな文脈の中で捉え直した本で、コミュニティづくりの本でもある。僕がやりたいのは読み書き共同体をつくることなのかなという自覚を深めつつあるので、その観点からも参考になった。はじまったブッククラブも楽しみだ。
今月のベストは珠玉の近代随筆アンソロジー
今月のベストは珠玉の随筆集、庄野雄治・編『コーヒーと随筆』だった。高1の娘に強烈に推薦されて読んだのだが、素晴らしい本だ。有名な文豪や芸術家の作品揃い、絵に描いたような近代文学の随筆アンソロジーなのだが、笑える系も、しみじみ系も、とにかく珠玉の作品が並ぶ。太宰治「畜犬談」からはじまり、安吾がその太宰の死後に彼が「常識人」であることを指摘する「不良少年とキリスト」で終わる構成も良い。
とにかく、作家・芸術家のアンテナの高さや面白さが存分に味わえる1冊。個人的につけている読書ノートで10点満点(滅多にない)をとった作品だった。編者の庄野雄治さんはコーヒーの焙煎を行うロースターとのことだが、素晴らしい目利きだ。この人が編んだ他の本も読んでみよう。
こちらの絵本も素晴らしかった….!
この随筆集と同じくらい気に入ったのが、風越の「絵本読み聞かせプロジェクト」を支えてくれている5年生の男の子のおすすめで読んだ絵本。バージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』だ。文明批判の本とも読めるけど、そういう強いトーンがなく、詩的に、静かに描いている。1943年にアメリカの最優秀絵本としてオールデコット賞をとったようだ。それも納得の、しみじみすばらしい絵本だった。
2022年度は詩誌『ココア共和国』を読むよ!
文学系で他にも良い出会いだったのは、秋亜綺羅さんら編集の詩誌『月刊ココア共和国4月号』。風越学園にも遊びに来てくれた詩人・向坂くじらさんに紹介された詩誌で、3月末に刊行された4月号を読んだ。僕は、「詩誌」というと『詩学』『詩とメルヘン』『ミッドナイト・プレス』などを読んでいた人で(わかる人どのくらいおられるでしょうか….)、商業詩誌No.1の『現代詩手帖』は昔から苦手意識が強い。『詩と思想』も含めて、詩誌はもう15年以上も読んでいなかった。
でも、「月刊ココア共和国」、面白い詩誌だ。投稿詩が中心なのだけど、書き手が圧倒的に若い。物語調の詩が多い気もするけど、2022年度はこの詩誌を読みながら、自分の好きな詩を増やしていこうと思う。
新年度はカルチャーセンターの詩の講座もとって、詩の創作にも挑戦するつもり。詩ともう一度仲良くなる一年になれたらいいな。
辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』
2月から続いた辻村深月キャンペーン、今月読んだ中で良かったのは、辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』。作家の特徴はデビュー作によく出ると聞くけれど、なるほどな、と思った1冊だ。だんだん恐怖が募ってくる展開や、過去と現在を行ったり来たりする構成など、辻村作品の特徴がよく出ている。大きな鍵となる謎に途中で気づいてしまっていたので、衝撃はあまりなかったけど、「吹雪の山荘」展開が面白かった1冊です。これでひとまず辻村深月強化月間はおしまい。
岩波ジュニア新書からは、漢字ハカセの本
毎月読んでいる岩波ジュニア新書、今月は新刊の1冊だけ。でも、その1冊、笹原宏之『漢字ハカセ、研究者になる』がむちゃくちゃ面白かった。著者の笹原さんの半生記とも言うべき本。漢字に詳しい「漢字ハカセ」の子どもだった笹原さんが、自分なりの問いを持って漢字研究者の道を志し、研究にのめりこんでいく様子が活き活きと魅力的に描かれている。まさに「探究する人生」。研究って楽しい!が伝わってくる1冊だ。また、国字や当て字の話、常用漢字の改定にかかわった著者の経験談など、豆知識やエピソードとしても興味深い小ネタが多い。「混む」が常用漢字として認められたのはつい最近の10年ほど前だとは知っていたが(もともと「混」は「まざる」の意味で、「こむ」は「込む」)、それを提案したのが著者だとは知らなかった。
この笹原さん、たいへんな研究者であることはこの本を読めばわかるのだが、恥ずかしいことに、笹原さんのこれまでの著作を全然読んでいなかった。きっと損していると思うので、4月以降少しずつ読んでいきたい。
地味に毎月恒例の山の本、今月は…?
地味に毎月読んでいる「山の本」。今月も山小屋の本、登山料理のレシピ本、日本山岳史などいくつか読んできた。どうも僕は、何十年も小屋を守り続けている人や、山岳史に名を刻むような登山家に関心があるらしい。とぎすまされたこだわりや、だまってずっと「仕事」を続ける姿に心を惹かれるものがある。
そんななかで、3月の登山系ベストになったのは、石川直樹『ぼくの道具』。冒険家らしく持ち物はミニマルなのかと思って読み始めたら、「意外に多いな」と思い、でもこれで完結するのだからやはりミニマルなのだ、と思い直す。2015年刊行なので、今ではもう違うものもだいぶあるのだろうが、モノそのものというより、そのモノについて語っているときの語り口に、石川直樹の人柄が出てくるようで、面白い。こういう本、好きなんだな。
4月も好きな本に出会えますように…!
というわけで2022年3月は、前半が死んでいたわりに、後半の春休み期間になってぐっと読書生活が充実した。全体としては今年(三ヶ月)でも一番充実していた月だったかな。4月はもうすでに忙しくて土日も仕事が入ってきそう。あまり読めないかもだけど、とにかく教育書ばかりにならないように意識しよう。読みたい本、たくさんあるものね。