40人学級で40人の教師がいたら、それでもピア・フィードバックをしますか?大正大学のフォーラムを終えて。

今日は「大正大学第3回高大連携フォーラム」の「高大接続の文章表現教育をどのようにつくるか」でお話しさせていただきました。僕は、長年の勉強会仲間である創価大学の佐藤広子さんと一緒に「ピア・フィードバックができる主体と集団を育てる」というワークショップを担当。と言っても、実際のワークショップは佐藤さんにお任せして、僕は20分のミニレクチャーを担当しました。

目次

「40人学級で40人の教師がいたら、それでもピア・フィードバックをしますか?」

僕のレクチャー部分の鍵になったのは、

もしも、40人学級で40人の教師がいたら、それでもあなたはピア・フィードバックをしますか?

という問いでした。ピア・フィードバックは「多人数の生徒を抱えた教師が一人で添削など、できるはずがない」という認識のもと、「次善の策」として選ばれることも少なくありません。もちろんそれでも構わないのですが、では、もしも十分に教師の数が足りていたら、ピア・フィードバックは不要なのでしょうか?

ピア・フィードバックの独自の意義

フォーラムでの内容をここで詳しく書くことはしませんが、僕は、ピア・フィードバックには教師のフィードバックにはない、次のような独自の意義があると考えます。

  1. 書き手としての姿勢ややる気を育てる
  2. フィードバックを与えることを通じて学べる
  3. 教師の評価基準とは異なる基準を教室の中に持ち込める

特に、書き手としての姿勢(構え)を育てる部分は大きいはず。なぜなら、書くことの教育の目標は良い文章を生み出すことではなく、良い書き手を育てることだからです。また、高大連携というフォーラムの主旨に沿っていうと、書くことについて高校と大学が連携するとは、決して、大学で学ぶ論文やレポートの書き方を高校で前倒しするということではなく、高等教育につながるような書き手としての姿勢を中等教育までで身につけることのはず。それを考えると、教師からのフィードバックよりも、生徒同士のフィードバックの方が、書き手としての姿勢に働きかけやすい側面もあるのです。

だから、仮に教師の数が足りていても、ピア・フィードバックにはやるだけの価値があるはず。フォーラムではそのような立場から、ピア・フィードバックの効果をめぐる色々な研究内容を紹介し(下記リンク参照)、自分の実践からの経験談も交えてお話しさせていただきました。

そもそもメリットは? 作文のピア・フィードバック (1)

2016.10.24

どうやれば効果的?作文のピア・フィードバック(2)

2016.10.25

現時点のピア・フィードバック理解はお話できたかな?

とはいえ、僕は決して「ピア・フィードバック何が何でも全面肯定」派ではありません。フォーラムのシンポジウムや、会の終了後の質疑応答では、尊敬するナンシー・アトウェルがピア・フィードバックに消極的なこと、ピア・フィードバックをすると起きやすい様々な問題(例えば、「わかりやすくてよかった」などの曖昧な賞賛をどう防ぐか)、共有しない権利(Right NOT to share)と教育的効果とのジレンマなど、様々な方の質問にお答えする形で、自分もピア・フィードバックについての考えを整理することができました。

ピア・フィードバックをめぐる課題

現時点の、僕のピア・フィードバックをめぐる課題意識は、次のような点にあります。

  1. ナンシー・アトウェルや甲斐利恵子先生のような、僕の尊敬する先生たちの中には、ピア・フィードバックに消極的な先生もいる。本当の意味で役立つフィードバックを与えるのは専門的知識があり、相手の立場に立たないとできないことなので、それもわかる。
  2. しかし、だからと言ってアトウェルや甲斐先生のようなスーパーティーチャーではない私たちが、生徒のフィードバックを全て背負うのも無理があるし、また、上述のように教師からのフィードバックにはないメリットもある。この問題をどう考えるか。どうしたら、現実的に運用可能で、より良いフィードバックになるか。
  3. ピア・フィードバックをするには、教室が安心できる場である必要がある。しかし、授業数の少ない中学高校(大学も?)の教室でこの心理的安全性を作るのはなかなか難しい。例外的に甲斐利恵子先生の教室は、これができている。ここから僕は何を学ぶのか。
  4. 「共有しない権利」をどう考えるか。書き手としての権利はできるだけ保証したいが、一方で、ピア・フィードバックあ役立つのも事実なので、推奨したい気持ちもある。一度は強制したほうがいいか、断じて「共有しない権利」を守るべきか。いつも迷って、最後は「共有しない権利」を優先するのだが、それで良いのか。

こうした問題について、5年後の自分がどのように考えているのか、楽しみにしたいと思います。

勉強になったフォーラムでした

今回のフォーラム、『「書くのが苦手」を見極める』や『ライティングの高大接続』の著者である渡辺哲司先生の基調講演があったり、大正大学の春日先生や由井先生から大正大学での新入生の調査結果や取り組みについてお話を伺えたり、茗渓学園の司書教諭・三島先生から図書館での探究学習支援の様子をご紹介いただいたりと、個人的にも勉強になりました。

特に、「書くこと」を論じる場で高校と大学の関係者が集まるだけでなく、学校図書館の司書教諭もその場にいることの意義は大きかったと思います。図書館は書くことの教育や探究学習の要になるのに、なぜかこういうフォーラムでは呼ばれない、ということもしばしばあるので…。

今回のフォーラム、元々は、恩義ある先生からのご依頼で、かなり無理なスケジュールを押して登壇を決めたものでした。でも、やってよかったです。今の自分が等身大でお話できることは、お話し尽くしたかな。長かった一日を振り返って、心地よい疲れを感じています。ご来場くださった皆様、どうもありがとうございました。

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