言葉を知ることは自分を知ること。広瀬友紀先生をお迎えしての懇談会。

襲いかかる公私ともの忙しさに負けて日があいてしまいましたが、ご報告です。1月に勤務校で開いた生徒向けの講演会をきっかけに、2月末に東京大学の広瀬由紀先生をお迎えしておしゃべりする会を開きました。最初はざっくばらんな雑談の会、くらいのつもりだったこの集まり。でも国語科教員だけでなく、英語科教員、小学校教員、司書教諭、言語学を学んでいる院生の方、教科書会社の方などにご参加いただいて、面白い会となりました。

覗いてみたい....「ちいさい言語学者」の頭のなか。広瀬友紀先生の講演会がありました。

2019.01.23

募集締め切りました→[告知]先着6名。2/23(土)午後、広瀬友紀先生と「言語学と教育」について語る会。申し込みはコメント欄から。

2019.01.29

目次

充実!中くらいの言語学者の冒険ガイド

特に、広瀬先生が「中くらいの言語学者の冒険ガイド」という貴重な資料(これは参加者のみということで…)を作成してくださったことに感謝。これをきっかけに話が広がりましたし、何より「こういう授業アイデアもあるのか」と非常に勉強になりました。生徒向けの講演会でも出てきた、言葉について考える以下の視点について、小学校・中学校・高校での問いかけを書いてくださるという充実ぶり!このままでも発達段階に応じた授業の最初のアイデアになりそうな資料で、ありがたい限りです…。

  1. ことばとは何か(客観的に見る)
  2. どうしてこうなっているのか(分析的思考)
  3. どのように働いているのか(表現効果・身を守る)
  4. ことばで楽しむってどういうことか(言葉の芸術)
  5. 日本語の特徴とは(相対的に見る)
  6. じゃあ日本語以外の言語では(相対的に見る)

語用論的読解力と、試験の読解力の違い

いくつかの話題の中で、僕が個人的にも興味を持ったのが語用論についての話題。語用論的な意味の読み取りができることと、国語の試験での読み取りができることは、違う能力のようだ(少なくとも同一の能力ではない)という話題です。

僕自身もそうなのですが、僕の勤務校の生徒たちは、偏差値が高く、国語の能力も間違いなく高い。でも、いわゆる「空気を読めない/読まない」子達、語用論的に適切な振る舞いをできない/しない生徒たちがとても多いのです。表情や仕草、その場の雰囲気といった曖昧さを含んだ情報を読み取ることが苦手で、文字情報の厳密で論理的な読み取りが得意なタイプです。

両者の違いについて、文字情報と耳からの情報で違うのかな?とか、文字の場合は、例えば小説の読み取りでは書かれていることに全て意味がある(会話の途中に表情が描写されていたら、その描写にはなんらかの意味がある)ことが前提なのに対し、実際の会話では何が有意味で何が無意味なのかを判断しないといけないのかな?とか、考えるところはあります。今回の会でも話題になっただけで納得できたわけではないのですが、この話題は自分自身に関わることとして、違いを考えていきたいと思います。

国語教育から見た言語学の「有用性」

他にも「教科書の話し言葉が話し言葉の特徴を反映していない問題」などいくつか面白い話題は出たのですが、ここで取り上げたいのは、「そもそも言語学の知見を国語教育に生かすって、何を目的に?」という話でした。ただの「言語おもしろ話」で興味関心を深めればそれで良しとするのか、それとも何かスキルを身に付けることを目的とするのか。国語教育は、あくまで言葉の使い方を学ぶ場であって、科学的探究の対象として言葉を扱うことが、なぜ国語教育に結びつくのか、という問い。

これについて「言語学の知見を用いてコードの使い分けの適切さを教えるのではないか」「でも、言語学の知見だと、エラーを教師が訂正しなくても自然と身につけるという。それなら学校で何を教えるのか」「習得の機会はあるが、家庭や地域でまだらになる部分を、人工的なデザインで補うのが学校ではないのか」などの意見が出てきました。

これらの中で僕が一番納得したのは「言葉を知ることは、自分を知ることでもある」という話。ふだん何気なく使う言葉の中に、その人や言語集団の意識が現れてくる。だから、言葉そのものを知ることは、自分や自分のいる世界を知ることに等しい。

なるほど。自分は言葉によって形成されるのだから、そこに「言葉を探究する」言語学と、「国語の教育として言葉を学ぶ」ことの接点があるのではないか。そのことに気づけたのが、今回の一番の収穫でした。広瀬先生、ご参加の皆様、本当にありがとうございました。

間違ってないのに間違って伝わる日本語

今回のゲスト・広瀬友紀先生は、重版を重ねる『ちいさい言語学者の冒険』の他にも、「本が好き」というウェブサイトでの連載「間違ってないのに間違って伝わる日本語」でも、日本語の面白さについて紹介されています。本だけでなく、こちらもぜひご覧ください。

間違ってないのに間違って伝わる日本語

https://honsuki.jp/series/nihongo

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