読み手・書き手のコミュニティをつくるには?個人的な覚え書き

もうすぐ2月も終わり。僕の担当する5・6年生は、演劇のテーマプロジェクトで、音楽に合わせて有名な物語をベースに演じることにとりくんできた。見ていて感じるのが、子どもたちの仲の深まりだ。もちろん、それぞれのチャレンジはあるとはいえ、男女が混ざってお互いにフィードバックする関係性がようやくできてきた。「作家の時間」ではお互いの作品を読み合ったり、相談して作品を書いたり、「読書家の時間」でも、お互いのおすすめで本を読んだりする姿が見られるようになった。

さきほど、「ようやく」と書いたのには理由がある。同じLGのあっきー(木村彰宏さん)が「本当なら12月頃にこうなっていたらもう一歩先へ行けた」と言うように、もっと早くこの姿が見られたら、お互いのチャレンジを応援する雰囲気の中で個々がさらにぐっと高まった可能性もあるからだ。

だからこそ、今年一年の自分の取り組みの中で、コミュニティづくりに関連した取り組みをここで個人的な覚書として洗い出し、来年は年度当初からそれを意識してやっていきたいと思う。

写真は2月5日の雪の麦草峠。この日は天気が良くて、気持ち良い北八ヶ岳ハイキングができたな。

目次

教室でのコミュニティづくり

トランプによるサークルと座席決め

僕の授業では、子どもたちが最初にサークルを作る。そのサークルの並び順は一貫してトランプで決めた。コミュニケーションが苦手な児童や、これまで色々な子と関わってこなかった児童にとっては、「隣に仲良しではない人がいる」ことでも小さなチャレンジなのだと思う。だから最初は、サークルづくりにも時間がかかった。一年間、このトランプの隣になる人同士でちょっとペアで相談したり、近くで3人組を作ってミニブックトークをしたり、ペアで交互読み(音読)したりと、ピア活動の単位を決めるのはたいていこのトランプだった。

「作家の時間」「読書家の時間」の「書く時間」「読む時間」も、後半からは、このトランプで決めた座席で座る「指定席」と、自分の好きな場所に座る「自由席」を交互にすることにした。本当は全部好きな場所で誰とでも関われるのが理想かもしれないが、それは大人でも難しいこと。実際、友だち同士で座ると集中を欠くことも少なくないので、自分の実態を比較する意味でも、「自由席」「指定席」両方の日を入れたことは良かったと思う。

子どもたちはこのトランプ制を最初は嫌がって「悪魔のトランプ」と読んでいたが、一年たてば慣れたものだ。年間を通じて運による強制的な関わりの時間を作ったことは、小さなことだけど、子どもの関わりにきっとプラスになった。というわけで、これは来年度もやるつもり。

子どもをみんなの前で主役にする

今年の年度初めに心がけたのは、学び合うコミュニティをつくるために、「できるだけ自分が直接教えるのではなく、子どもの作品の良さを見つけて、それを通して教える」こと。これは、ピーター・ジョンストン『国語の未来は「本づくり」』を読んだ影響である。

2022年5月を終えて。作家の時間・読書家の時間・漢字指導、それぞれのチャレンジ

2022.06.05

具体的には、「作家の時間」のミニレッスンで子どもの作品を題材に教えたり、共有の時間ではランダムに子どもに主役になってもらって「作家の椅子」(僕はAuthor’s Talkと称している)をやって聞き手にファンレターを書いてもらったり、授業冒頭の漢字クイズの問題を子どもたちに作ってもらったり。二学期からは、石川晋さんの影響で、作家の作品集への僕の賞賛コメントをみんなの前で読み上げることもはじめた。

石川晋さんの「作家の時間」訪問をめぐって、いくつかの断片的メモ。

2022.09.21

こうした取り組みは良かっただけに、もっと子どもたちも作品を読み込めば、ミニレッスンでの登場回数も増えただろうし、漢字クイズの問題づくりもAuthor’s Talkも全員の前でのコメント読み上げも、いずれも年度途中からの取り組みだったので、次は年度当初からやれば、もっと徹底できるはずだ。また、Author’s Talkは、いまは、書き手のふりかえり意識を高めるためにも使っているが、もっと色々なバリエーションができるはず。子ども同士の豊かな関わりがうまれるように考えていきたい。

読書家の時間での音読

作家の時間では、一人がみんなの前で主役になるAuthor’s Talkの時間があるけど、読書家の時間にはそれがない。週2回の読書家の時間では、最後の時間は3人一組のミニブックトークと読書1万ページの記入で使うので精一杯だからだ(中学校のりんちゃんの授業では読書1万ページは授業外の時間で書かせているようだが、実態として風越の小学生にはそれは難しい)。

その代わり、週1回程度の音読はコミュニティづくりにも寄与するなと思っている。ペアで交互に読んでいるだけでもなんだか楽しそうだ。これは土居先生や石川晋さんのような先達の実践に学んで、新年度は色々なバリエーションを取り入れたいところ。

数字で小さく表彰する

漢字テストの得点上位者と、読書1万ページのキリ番達成者(1000ページごと)は、毎週の国語教室通信「ことばらぼ」に名前を掲載した。こういう「競争」的側面をコミュニティづくりと言っていいのかためらいもあるが、みんなの前で毎週誰かしらが自分の頑張りを小さく表彰されていたことになる。

これも、来年度もきちんとやっていきたい。特に読書1万ページは最初大げさなくらいに取り上げて、僕が読み聞かせした本もどんどんカウントして、数字が積み上がっていく手応えを子どもたち(特に読むのが嫌いな子)に持ってほしい。そして、1万ページ達成した子は、校長か理事長に表彰してもらおう。

ここまでが、同じ教室(ラーニンググループ)での取り組み。小さいことでもけっこう積み重ねてきた印象がある一方で、すでに書いた通り年度途中で取り入れたものも多く、最初からやっていたら、もっとコミュニティが成熟するのが早かったかもしれない。次年度はそこからちゃんと考えてやっていきたいところ。

異学年のつながりをつくる

個人的ヒット企画だった「ようこそ先輩」

異学年のつながりという観点では、9年生が5・6年生の教室に来て、自分がいま読んでいる本と、5・6年生の頃に読んでいた本を紹介する企画「ようこそ先輩」は、我ながらヒットだった。本好きの子が楽しく語ってくれ、紹介した本に5・6年生の「借りたい!」リクエストが重なることもあれば、「5・6年の頃はほとんど本を読まなかった」話をしてくれて「どうやって本を読むようになったの?」という質問に答えてくれるのも素敵な光景だった。本嫌いの子が、木工の師匠みたいな先輩が話した本は手にとってみる、ということもあった。結局、教師よりも子ども同士のつながりなのだ、と実感する場面がたくさんあった。だから「ようこそ先輩」は「本好きな先輩」だけじゃなくて、色々な人に来てもらえることに意味がある企画だな、と強く思う。これも、来年度継続してやっていきたい企画だ。

縦のつながりをつくる、とまでは言えないけど、年度はじめの4月にやった「本びより」も好企画だった。学校の中心に図書館がある風越らしいイベントだし、本好きな子たちがこの企画で躍動していたのも印象的。これはぜひ続けたいなあ。

2022年のはじまりは「本日和」。読むこと、書くことを楽しめる一年に。

2022.04.18

異学年の読み聞かせ、全校でできるかな?

もう一つ、僕が頑張りたい「読み聞かせプロジェクト」は、人数も増えずでどうしたら活性化するかな、と考えているところ。ただ、「読み聞かせ」は、縦のつながりをつくる意味でも、「ようこそ先輩」と同様に授業時間をつかってやってもいいんじゃないかな、と考えている。例えば、小1の子が幼稚園年少さんに読み聞かせに行き、小2の子は年中さんに…というように。小さい子はスタッフの前でリハーサルをすることにすれば、よみの練習やアセスメントにもなるし、良いのでは? これは来年度に向けて提案してみたい。ただ、こういうのって得てして「年上が小さい子にしてあげる」構図になりがちなので、それをどう打破するかだなあ。しっかり考えてみよう!

保護者や地域を巻き込む

これまでの「子どものコミュニティ」とはやや話がずれてしまうが、コミュニティづくりというと、まだ充分にできていないのが保護者との関係性だなあ。来年はここに大きく踏み出す一年にしたい。

定期的に幼児・低学年の保護者とつながっていく

とはいえ、下記エントリにも書いたように、開校3年めにして初めて国語科の保護者会や、幼児・低学年保護者向けのセミナーを開けたのは、大きな一歩だ。

子どもの豊かな言語環境をつくる。保護者向けセミナーをやってみたよ。

2023.02.09

来年度は、この動きをちゃんと定期的なものにしていきたい。なにしろ、風越の国語の授業時数は公立に比べて圧倒的に少ないのだ。独自のカリキュラムを持っているので仕方ない面はあるが、国語力の育成に限れば大きなハンデがあるのは事実。国語科担当としては、言い方は悪いが、使えるものはなんでも使いたい。まして、家庭は学校以上に子どもにとって大事な言語環境なんだから。特に、言語発達において大事な幼児・低学年保護者とは、一緒にビジョンを共有して、子どもにとって良い環境をつくっていきたい。これまで中高国語科教員だった時には手の出せない領域だっただけに、風越ならではの取り組みができそう。

ファンレターの返事を渡す

あと、小さなことなのだけど、「作家の時間」作品集に保護者に書いてもらうファンレター。トミー(冨田明広さん)は、この保護者から子どもへのファンレターに、子どもから返事を書いてもらっているそうだ。

[記事紹介]この「書けない子との接し方」がすごい

2015.12.08

これは良い取り組みだと思う。保護者だってギヴァーに徹するよりも、自分のファンレターに返事が来たほうが嬉しいに決まってるし、また次を書く動機づけにもなるだろう。子どもにとっては、手紙を書く動機づけになる。ファンレターを介した保護者と子どもたちの交流は、「我が子ではない子」を温かく見守る雰囲気の醸成にもつながるはずだ。決めた、保護者には本名でファンレターを書いてもらい、子どもからはその返事を書く。これは来年度必ずやりましょう。

保護者や地域とつながるイベントを企画する

どこまでそこに踏み込む余力があるかだけど、保護者や地域と本を介してつながるようなイベントも企画したい。たとえば「本びより」については、これを町の本好きな子たちをつなげるイベントとしてやりたい気持ちがあって、すでにこっそり動き出している。また、『からすのパンやさん』などの有名な絵本に出てくる料理を作ってみる料理教室とか、水引プロジェクトの子たちを誘ってのしおりづくり教室とか、風越のライブラリーで一晩本を読んで過ごす「風越ブックナイト」とか、アイディアの種だけはけっこうある。あとはどこまで僕の余力があるか、だよねえ…。

文化をつくる、にもう一歩進みたい

読み手・書き手のコミュニティを作るとは、読むことや書くことを愛し、それが当たり前にある文化をつくることだ。その実現は大変なことだし、時間がかかるけれど、そういう文化の中でこそ、読み書きが好きな子は好きな子なりに、苦手な子は苦手な子なりに進んでいけるんじゃないかな、と思う。小さな日常の積み重ねから大きな非日常のイベントまで、来年、少しでも先に進んで行きたいな。

 

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