[読書] 2018年3月に読んだ本。ベストは、数学に改めて「はじめまして」する一冊。

月末恒例の今月読んだ本。今月は期末試験で忙しいのと体調不良もあって読書冊数自体は少なかった(9冊)けど、良い本・好きな本に出会うことができました。

目次

数(すう)の世界の不思議さを楽しむガイドブック

なかでも一押しは、ツイッターで数学の先生に教えていただいたこちらの本。

550ページあるんだけど、すんごく面白かった。もともと「自然数にゼロとマイナスを足したのが整数だから、整数の数は自然数×2+1なの?」という小6娘の疑問を調べるために買った本なのだけど、娘はそっちのけでこちらが読んでしまった。

自然数(1・2・3…)の世界から始まって、話がだんだん整数、分数(有理数)、小数へと拡張しながら説明してくれる。大人にとってはどこかで聞いた話も多いけれど、理解が生半可だったり、昔はよくわからずただ覚えていたりした箇所が、「なるほど、あれはこういうことだったのか」とその原理がわかる一冊。個人的に面白かったのは次のトピックだった。

  1. 偶数と奇数の数は自然数の数に等しいこと
  2. 素数は「自然数の原子」(すべての自然数は素数で表せる)であること
  3. マイナスの掛け算がプラスになることはベクトルで理解すること
  4. マイナス1は1よりも「基本的な数」であること
  5. 最も基本的な数として虚数iを想定すると便利であること
  6. アルゴリズムとしてのユークリッドの互除法の凄さ

ユークリッドの互除法、あったなー。僕みたいに数学に苦手意識があった大人が、改めて数の世界に「はじめまして」するのに良い本だと思う。

追記)関係ないけど数学の動画

この本と直接は関係ないけど、最近知ったこちらの数学の動画も面白かった。数学の世界は広い…。

The Map of Mathematics

染み入る傑作揃いの短編小説集「紙の動物園」

今月、上の本と並んで読んで良かったのが、前から気になっていて、生徒にも勧められたので手にとったケン・リュウ「紙の動物園」。

表題作「紙の動物園」(ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞を同時受賞)は、幼い自分を守ってくれた魔法の折り紙と、それを折ってくれた母を、異国の文化に同化していく過程で疎んじていく語り手を描く。とにかくラストシーンが切ない。

他にも架空歴史SF「太平洋横断海底トンネル小史」や「文字占い師」など、西洋文化の中でマイノリティとして生きる中国系作家の葛藤や悲しみが伝わってくるような作品たち。「科学技術文明」の側にいたタイラが「未開」の星で暮らす「心智五行」、「中国語の部屋」みたいに人間の思考そのものを疑う「愛のアルゴリズム」も面白かった。読んでてテッド・チャンっぽさを感じたら、本人も影響を受けているとのこと。テッド・チャン好きはマスト・バイかも。

今月は、小説では佐藤正午の直木賞受賞作「月の満ち欠け」も良かった。最初、小山内と緑坂ゆい、るりの3人の面会の場面から始まるが、この3人の関係が親子?何?と思わせる謎があって、引き込まれる。ホラー系恋愛小説、と言えばいいのかな。暗いトーンで引きずりこむ作品。

岩木誠一郎さんの新詩集を読む

詩では、岩木誠一郎さんの新詩集「余白の夜」を読んだ。「夕方の耳」という詩を読んで以降、ずっと詩集を買っている詩人。夜中に目覚めて一杯の水を飲みに行く最初の詩から最後の詩まで、意図的に同じ言葉が使われ、全体としてゆるやかなストーリーを作る手法の詩集だ。最後は物語の円環が閉じるようなのに、その先が開けている、不安定な感じ。相変わらず静謐な雰囲気の詩だが、これまでよりいっそう沈潜しているような感じがする。

詩では、詩とエッセイの井坂洋子「詩はあなたの隣にいる」も良かった。こういう、詩人による詩の案内本はとてもありがたい。
特に、ここで紹介されていた暁方ミセイ「自明灯火」が良かったので、暁方ミセイさんの詩集を読んでみたいな。

古典の勉強もしなきゃ…

案内本といえば、以前にさらっと読んだだけの福田孝「古文を楽しく読むために」を再読。教科書にもあるようなド定番の文章を題材に古文の読み方を手ほどきしてくれてて、勉強になりました。

僕の勤務校は現代文・古文・漢文がきっちり分かれてて、僕は現代文担当。そこに甘えてしまって、国語教師としての古文漢文の素養が恐ろしいほどにないんですよね。さすがに恥ずかしいので、少しは勉強しなきゃ…。

というわけで、冊数はちょっと少なかったけれど、良い本に出会えた3月でした。今月は評論を読んでないから、来月は人文科学系や社会科学系の少し硬めの本を、一冊ずつは読もうかな。

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