[読書]親子でのコミュニケーションを楽しんで。中本順也『おうちでできる子どもの国語力の伸ばし方』

中本順也『おうちでできる子どもの国語力の伸ばし方』は、こんなふうにすると楽しく国語の力を伸ばせますよ」と提案をする本。著者は中学&高校受験塾「すばる進学セミナー」代表であると同時に、ご自身でも小説を創作し、小学生が小説創作をする「かまくら国語塾」も営んでいる方である。「入試にも使える国語の力をつけること」と「読み書きを楽しむこと」の双方に目配りができている著者ならではの、具体的な提案が満載な本になっている。たぶん、中学受験生の、あるいはその可能性を考えている保護者が読者のターゲットかな。

なお、僕は中本さんが「かまくら国語塾」を創設される際に少しお話を聞いた縁もあって、「おわりに」にも名前を載せていただいている。中本さんは広い意味で僕の「仲間」なので、このエントリは多少内輪感もある。そこは割り引いて読んでもらってもかまいません。

目次

コミュニケーションを豊かにするアイディアが満載!

僕が本書でいいなあと思うのは、本書の提案の多くが「親子でとりくめる・遊べる」もの、つまり、家庭でのコミュニケーションを豊かにするものである点だ。人間は環境のなかで言葉を学んでいくのだから、結局のところ、幼年期・児童期の子どもにとっての最良の言葉の先生は、その子が暮らす環境そのものなのである。だからこそ、幼児教育では「読み聞かせ」の大切さや、親子でおしゃべりすることの価値が強調されてきた。

ただ、小学校中学年や高学年になると、子どもも社会性が出てきて、つまり親に隠したいことも出てきて「今日は学校どうだった?」と聞いても「フツー」となることも多い。また、「もう読み聞かせという年齢じゃないなあ」と思う親も増えてくる(本当はその時期も効果的なのだけど…!)。本書は、そのくらいの年齢層の保護者に、「こういったきっかけづくりで、言葉を使った親子のコミュニケーションができる」と提案する本にもなっているのだ。声かけの具体的な事例も多々あって、助かる親は多いと思う。

僕自身も参考になるアイディアがあった。たとえば、旅先で写真をとる記録係になってもらうというアイディアは、書くのが苦手な子とやりとりをするきっかけづくりにいいなあと思ったし、物語創作の方法の一つ「擬人化物語」(モノを擬人化してその視点で書く)は、昔はやっていたのに最近はこういうの忘れてたなあと思い出させてくれた。あと、ウォッチャ(WOTCHA)やドリームオン!(DREAM ON)といったボードゲームも、全く知らなかったけど、これはぜひやってみたい。特に後者は協力系ゲームなのがいいな〜。

国語力も、(もちろん受験の時には必要とはいえ)問題を解くだけじゃなくて、こんなふうに楽しく伸びる環境を用意できたらいいよなと思う。

おすすめ本リスト、参考にしてます!

それから本書では、「おすすめ本」リストが低学年・高学年・受験生の三段階別に提案されている。実は僕は、これまでも中本さんのブログ「受験を超えて」で、中本さんのおすすめ本リストをけっこう参考にしてるんですね。いますよね、自分の読書生活をつくるのに参考にしてる読書家さんって。僕にとって中本さんはその一人です。

中本さんは本当に色々な児童書を読まれていて、入試対策の都合だけでなく、きっと楽しんで読まれているのだと思う。風越の子を想定すると選書のレベルはけっこう高めかな?と感じるときもあるけど、そんな中本さんの渾身のリストなので、良い本ばかり。大人の方もぜひ読んでほしい。

「国語力は遺伝しない」は誤りかも?

一点、批判的なことも書いておこう。p37で「国語力はほとんど遺伝しない」と述べているのは、個人的にはちょっと首をかしげる。根拠は安藤寿康さんの研究のようだが、書名は明記されておらず、おそらく安藤寿康『遺伝マインド』(2011)ではないかと思う。というのも、僕は手元にいまこの本がないので直接確認できないのだが、猪原敬介『読書と言語能力』(2016)に次のような形で、『遺伝マインド』への言及があるからだ。数字だけなら一致する。

安藤(2011)のデータにおいて、言語性知能を規定する環境の影響は約86%もあると述べたが、その内訳は共有環境が約58%、非共有環境が28%となっている。一般に、共有環境の影響がこれほど強く表れる心理・行動的形質は珍しい。(p248)

ただ、前提として、この数値はおそらく言語的知性を測定するテストスコアの「ばらつき」を説明する数値であり、ストレートに「言語的知性の86パーセントが環境で決まる」わけではないはず(僕の理解が間違っていたらごめんなさい)。また、2020年代に続々と世に出てきた行動遺伝学の本(たとえば安藤『教育は遺伝に勝てるか?』)を読む限りは、実際には遺伝の影響はもっとずっと大きそう。何しろ、遺伝と環境の相互作用を考えたら、一見「環境」と説明されるものも、結局はその親の遺伝的特性によって形成された特徴である可能性も大きいのだから。

[読書]教育の役割をあらためて考えさせられる、諦めと希望の本。安藤寿康『教育は遺伝に勝てるか?』

2023.12.02

とはいえ、僕も詳しいことはわからない。でも幸い、猪原敬介さんの新刊『読書効果の科学』(10/15発売)の第7章に「読書の行動遺伝学」という章があるようなので、それを読んで勉強したいと思う。

保護者の方は、ぜひ肩の力を抜いてお読みください。

僕自身も素人理解なのにこの点をあえて指摘したのは「遺伝ではなく環境」を強調すると、教育熱心な受験生保護者は、「つまり環境を整える親の責任なのか」「自分が国語が苦手でも、努力次第で子どもは国語力がつくのか」と受け止める可能性が大きいと思ったからである。それでは、「親子で楽しくコミュニケーションを」という本書の意図に反して、熱心な保護者を追い詰めてしまうことになりかねない。

そして、そういう危険性を、実は中本さん自身も「はじめに」で書いている。

親次第、

親のチカラ、

親が9割。

そう言われると、肩に力が入って、気持ちも重くなってしまうものです。(p8)

だから、本書を手に取った子育て中の皆さんには、ぜひ本当に肩のチカラを抜いて「ふんふん、こんなものあるのね」「これやってみようかな」「でもまあ、うまくいくわけないよね」程度に読み流してもらえるといいと思う。うまくいったらもうけもの。大事なのは、自分も子どもも追い詰めないこと。そのくらいの気持ちで本棚において、ときどきぱらっと眺めてみてください。やってみたくなるアイディアがたくさんある本ですから。

 

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