年度初めの4月、今年は特に忙しくって、家でも仕事をしてて読書時間を確保できない日も少なくなかった。GW前の休みを使ってようやく最低限の目標の2桁に到達。冊数の点ではやれやれという感じだけど、面白い本には出会えたかな。どうも5月も忙しそうなので(汗)、5月3日からのGWで少しでも本を読んでいきたい。
目次
まずは、すでにブログで紹介した本から…
すでにブログで紹介したのは、ダニエル・ペナック『ペナック先生の愉快な読書法』と、小池陽慈『世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内』の2冊。一方は、読書教育に指導者向けに「本を読む楽しみ」を尊重する姿勢を徹底して、読むこととひきかえに何も求めないことが大切だ、と説き、もう一方は、よりより世界の作り手として、現代の問題について書かれた評論文を読むことに読者を誘う。だいぶ毛色の異なる2冊だが、若い読み手に本を手にとってほしいと願っている点は、どちらも同じである。同業の人を想定すると、ペナックの本は読書教育に関わる人すべてにおすすめだし、評論文読書案内は、高校の「論理国語」(現代文)担当者にとても有益な本だ。
さすがの本屋大賞!今月のベストは逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
今月読んだ物語は、受け持ちの子がおすすめしてくれた本(蘇部健一『古い腕時計』)と、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』の2冊だけ。複数の物語が最後につながっていく『古い腕時計』もいいけど、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』はさすがの本屋大賞受賞作だけあって、単純にとても面白い。
イワノフスカヤ村で暮らす少女セラフィマが、ドイツ軍に村を蹂躙され母を殺されるところから、狙撃手としての訓練を受けて独ソ戦を戦う物語。戦争小説であると同時に、セラフィマとその仲間である女性狙撃手たちの友情物語でもあり、戦時下における「女性」性について考えさせられる物語でもある。特に、サンドラ、オルガ、ミハイルといった脇役陣もそれぞれに屈折をかかえて生きているのが魅力的。それらの人々との関わりを重ねながら主人公のセラフィマがラストシーンで下す決断まで、一気に読み進めてしまった。
やや少年少女小説っぽい雰囲気がただよう『同志少女よ、敵を撃て』というタイトルも、人間を敵味方に簡単にわけられないこの小説の人物の描き方を思うと、より魅力的に思えてくる。本作と深く関連するノンフィクション、アレクシェーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』も、実は未読なので読んでみたい。
また、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を舞台にした物語という点では、以前に高校生直木賞を受賞した須賀しのぶ『また、桜の国で』も思い出させた。こちらも重厚な歴史小説で、おすすめです。
ノンフィクションのベストは「ゆる言語学ラジオ」のあの人
今月のノンフィクションのベスト本は、堀元見『教養(インテリ)悪口本』。著者は、「ゆる言語学ラジオ」で聴き手を務めているあの人である。
ちょっとインテリっぽく知的に悪口を言おうという体裁の本なのだけど、「衒学者」を自称する著者だけあって、とにかくエピソードが面白い。トラファルガー海戦でのネルソンの激励が解読に4分かかったとか、ヴァレンヌ逃亡事件でマリー・アントワネットの一行が豪華馬車を用意することを譲らなかったので逃亡に時間がかかって失敗したとか。個人的に、酔った中原中也が太宰治に向かって言った悪口「青鯖が空に浮かんだような顔しやがって」は爆笑した。こんな悪口、中也じゃないと思いつかない。さすが天才詩人。とまあ、知識がある程度ある人であれば、雑学本として気楽に楽しめる1冊だ。もっとも、この本を読んで知った悪口をそのまま言うのってとても教養なさそうな感じなのだけど…。
他で、今月勉強になったのは笹原宏之『漢字の歴史』。3月に読んだ『漢字ハカセ、研究者になる』がべらぼうに面白かったので(ちなみにこの本はのちに読んだ高1長女も激賞していた)、その続きとして手にとってみた。ちくまプリマー新書なのだけど、冒頭から膠着語とかの用語が出てくるので、普通の高校生向けではない。大学生以上向けかな? でも、良い入門書だと思う。国語の授業に直接関係ありそうなのは第2章「漢字とは何だろう」と第4章「日本語に入った漢字」なのだけど、それ以外の短い章も含めて、漢字の歴史や文化圏の広がりが感じられるのも良かった。「竜」と「龍」のイメージの使い分けの話(p145-)も面白かったな。こういうニュアンスの違いを探究するのも楽しそうだ。
山小屋への憧れがかきたてられる、今月の「山」本
オマケ的に毎月恒例となってる今月の「山」本。今月は高桑信一『山小屋の主人をたずねて』が良かった。タイトルの通りに山小屋の主人を取材した紀行文。の伊藤新道を切り開いた伊藤正一さんの息子、圭さんの営む水晶小屋(現在は伊藤さんは三俣山荘の経営に移っている)、伊藤二郎さんの雲ノ平山荘、そして八ヶ岳の青年小屋など、そろそろ名前を覚えてきた山荘の名前が並ぶ。
先月読んだ『日本山岳史』でも感じたのだが、こういうふうに、山荘を守りつづけている人たちの物語に心が揺さぶられる。僕の登山は今のところ日帰りばかりなのだけど、今年の夏は、どこか山小屋に泊まってみたい。まずは八ヶ岳かな。双子池ヒュッテとか、高見石小屋とか。でも、北アルプスの雲ノ平山荘や三俣山荘も、いつか訪れてみたい。
川原真由美『山とあめ玉と絵の具箱』は、デザイナーでもある筆者の画文集。山のイラストが添えられた短文のエッセイ集だ。こういう、心を明るくしてくれる気軽な読み物のページをめくる時間が、仕事で圧迫された4月の日々の寝る直前にあったことが、どんなにありがたかったか。少しずつ読むのが楽しみな1冊だった。お世話になりました。