このブログで何度か話題にしているが、作文教育には「書き手としての教師」(teachers as writers)というアプローチがある。今日はそのトピックについての最新の文献を紹介してみよう。
目次
「書き手としての教師」(teachers as writers)についての最新の文献
「書き手としての教師」(teachers as writers)とは、そもそも作文を教える立場にあるべき教師自身が、実は日頃文章を書いてもいなければ、書くことに自信もあまりないというところに注目したアプローチ。教師が書く経験を積めば、書くプロセスについての理解も増すし、書き手としての自信もつく。だから、ライティング・ワークショップをする教師のライティング・グループを作って、書く経験を積んでいこう…というアプローチである。このブログでも何度か取り上げているので関連エントリを未読の方はどうぞ。
最近は研究も進んでいる分野
プロセス・アプローチの登場とともに1970年代のアメリカで始まったこの動きは、ナショナル・ライティング・プロジェクトという組織によってアメリカ全土に普及していき、今やアメリカでは州ごとに教師対象のワークショップを実施して成果を上げている。この成功を受けてニュージーランドやイギリスでもナショナル・ライティング・プロジェクトができているほど。近年は学術的な研究も進み、実績のあるアプローチなのだ。
最新の研究に基づいた実践本
そして、このteachers as writersの、僕の知る限り2016年5月時点で最新の文献がこの本。先日読んだのだけど、これは良い本だった。
著者はイギリスのナショナル・ライティング・プロジェクトを推進する研究者たち。最新の先行研究をしっかり踏まえて教師のライティング・グループにどういう価値があるのかを押さえた上で、ライティング・グループをどうやって運営するのか、どんなことをするのか、必要なものは何か…というノウハウの部分に踏み込んでいく。本のもとになったのが著者たちのアクション・リサーチなので、そこからえた質的データも記述されているのも良い。
教師が書くようになることのメリットとは
では、この質的データからいくつか興味深いものを書き抜いてみよう。
まずは、教師が書くことによってどのような変化が見られたか。
- 生徒のそばで書くようになった
- 生徒が書く難しさをわかって、受容できるようになった
- 書き手のコミュニティ(community of writers)の感覚を教室や学校に広げるようになった
また、生徒へのインタビューからも、何が生徒の助けになったかを論じている(p119)。
- 自分でも書き、共有し、自分たちの側で進んで書こうとする教師と学んだこと。
- 話すこと、読むこと、書くことについての慣習・構成・決まりを教わったこと。
- 他の書き手の文章を読んだり他の書き手から学んだりしたことによる刺激。
- ライティング・ノートを持って定期的に色々と試したり、時には教師と一緒にそれを見直したりしたこと。
- 教室の外で他の書き手と一緒に書いたこと。
- 自分の文章を仲間や教師や家族などに読み上げたこと、自分自身がどのようにして良い聞き手・読み手になるか学んだこと。
- 自分の文章の内容についての、共感的で良し悪しを判断しない先生からの反応。また、それがどんなイメージや感情を引き起こしたかを先生から聞いたこと。
さらに次は、教室で研究者たちが発見したこと(p137)。
- 教師は生徒たちと書くことによって、自分の授業方法を改善する手助けを見つけられる。
- 教師は、自分のライティング・グループと教室の文脈の違いを振り返ることで、読み手と書き手の関係について大事なことを学ぶ。
- 自信のない生徒は、教師がそばで書いていると成長する。
- 生徒は、特に男子生徒は、自由に書く時間を定期的に与えられるとメリットを得る(週に30分程度)。
最新の情報に基づいたバランスのとれた本。
以上のような情報が、具体的なライティング・グループ運営の手立てとともに書かれている。学術的な研究が豊富という点では、Writing Voices(下記エントリ参照)に一歩を譲るが、研究とノウハウのバランスが取れている点で最初の一冊としてお薦めできる本だ。
作文教育に関心のある方、どうでしょう。この本を参考にして、ぜひ日本でも教師のライティング・グループをしませんか?