三藤恭弘『「物語る」力をつける国語教科書』は、小学校での物語創作の実践と研究に尽力してきた著者の、(あとがきの記述によるとおそらくは)いったんの集大成となる本だ。これまで著者は研究書である『「物語の創作」学習指導の研究』および教師向けの『書く力がぐんぐん身につく!「物語の創作/お話づくり」のカリキュラム30』を出しているが、今回の本は、過去の二作を踏まえた上で、その中間というか、基本的には一般向けに書かれている本だ。
過去の2冊については、下記エントリで触れている。今見ると下記エントリはリンクが結構切れてしまっているが、プラグインが対応しなくなってしまったので、ご容赦ください。
理論編と実践編からなるユニークな一冊
本書の構成は、左開き(横書き)の理論編と、右開き(縦書き)の実践編から成るのが大きな特徴だ。理論編では、物語創作の前段階としての「物語り」行為の意味を論じることから始まり、「物語」の骨格、教材研究のステップ、物語を学ぶためのカリキュラムの提示、実践上の悩みとそれへの回答、そして物語創作学習の歴史へと続く。これまでの著書から一般向けにコンパクトに抜き出したものもあれば、自分の著作を批判的に検討して書き換えたものもある。まさに著者集大成の本と言える。また、逆向きに開く実践編は、理論編をふまえて各学年1つの6つの単元が掲載されており、ワークシートなどもそのままコピーして使える構成になっている。
シンプルな物語創作カリキュラムの提案
理論編の最大の特徴は、著者のこれまでの研究をふまえて物語創作カリキュラムを提案しているところにあるのだが、これがとてもシンプル。そして、それがいい。以前の実践書『書く力がぐんぐん身につく!「物語の創作/お話づくり」のカリキュラム30』は物語の構造曲線やプロップのカードなどを中心に、さまざまな手立てを提案していたのだが、本書では『「物語の創作」学習指導の研究』で考察された学習指導カリキュラム案をもとに、①物語を読む学習との連関を重視した、②一学年一目標のシンプルなカリキュラムの提案となっている。これは、現実には物語創作の機会が減らされている現状のなかで、各学年ごとの目標を定め、しかも読み書き連関学習にすることで、時数的には最低限でも、最大限の効果をあげるラインを目指した現実的な提案と言えるだろう。実践編のワークシートもこれに基づいていて、一学年に一単元、しかも教科書の続きでできる活動が配置されている。このシンプルさであれば取り組める実践者も増えるのではないか。
充実したQ&A
また、本書のもう一つの特徴が充実したQ&Aである。20ページ以上にわたって17個の問いに懇切丁寧に答えており、長年、物語創作指導やその研究に関わってきた著者の経験・知見がつめこまれたパートになっている。カリキュラムに位置付けることを念頭にきちんと力をつけることも重視する筆者なので、教師への言葉も決して甘くはないが、一方で「部分創作で良い」と述べたり、「作品はねらわないけれど、その力そのものをつけようと思った」という大村はまの言葉を引用して、作品の質が問題なのではなく、どんな力をつけたいのかが問題であると述べたりするなど、指導の狙いを明確にしてハードルを下げることも意図した回答はさすが。ここらへん僕とは少し考えが違う(ぼくのほうがおおらかというか、いいかげんである)ところもあるのだけど、僕のライティング・ワークショップ経験に照らしても、全体として首肯できるところが多い。
物語創作指導に関心のある人は、まず読もう
というわけで、本書は物語創作指導に関心のある人、特に小学校の教員がまず読むべき本になっている。詳しさで言えば同じ著者の『「物語の創作」学習指導の研究』が一番詳しいのだけど、あちらが博士論文をもとにした研究書であることを考えたら、読みやすく、現場で使いやすいのはこちらだと思う。何より、シンプルな提案がいい。
なお、本の感想にこういう個人的なつながりはあまり書くべきではないかもしれないが、著者の三藤先生は福山平成大学での僕の前任者でもある。2023年の全国大学国語教育学会の公開講座でご一緒したことが縁のはじまりとなり、それが現在の転職にもつながっている。本書でも拙著『君の物語が君らしく 自分をつくるライティング入門』をとりあげ、あとがきでも少し自分に言及してくださっていて、とてもありがたく拝読しました。



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