21日、2020年度から段階的に実施される新学習指導要領の答申が出た。アクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント、小学校の英語の時間の教科化&増設に、高校の「公共」「文学国語」「論理国語」や「○○探究」などの教科・科目の新設・再編…。全体的な印象は「大改革」である。
全体的な変化については各種メディアや他の方も書かれているだろうし、ここではあくまで自分のメモ用のリンクをまとめ、国語科について自分の関心をベースにした「つまみ読み」の第一印象を書いてみたい。
目次
文科省のウェブサイト
まずは、何はともあれ文科省のウェブサイトを見よう。こちらにずらっと次期学習指導要領の答申(案)が並んでいる(この「案」が取れたのが21日だったというわけ)。
文科省 教育課程部会(第101回)配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/1380469.htm
とりあえず気になってダウンロードしたのは以下のようなファイル。
資料3−1:新学習指導要領の全体的な方向性 資料3−2:各教科ごとの方向性 資料3−3:授業時数あり 資料3−4:各教科ごとの方向性のビジュアルイメージ
国語にはどんな変化があるの?
僕もダウンロードして、国語教育を中心に気になる所をさらっと眺めてみた。あくまで僕の関心に照らし合わせてだけど、ざっと読んで特に気になったのは、次のような点だ。
- 読書指導の充実が唱えられていること
- 作文の「交流」が「評価」に変わったこと
- 高校の選択科目として「論理国語」「文学国語」ができたこと
以下、簡単にコメントしてみる。
中高でも読書の授業がやりやすくなる?
まずは、小学校だけでなく中高を通じての読書指導の改善・充実がうたわれた(資料3−2)。
読書は、多くの語彙や多様な表現を通して様々な世界に触れ、これを擬似的に体験したり知識を獲得したりして、新たな考え方に出会うことを可能にする。このため、読書は、国語科で育成を目指す資質・能力をより高める重要な活動の一つである。自ら進んで読書をし、読書を通して人生を豊かにしようとする態度を養うために、国語科の学習が読書活動に結び付くよう小・中・高等学校を通じて読書指導を改善・充実するとともに、教育課程外の時間においても、全校一斉の読書活動など子供たちに読書をする習慣が身に付くような取組を推進する必要がある。
また、資料3−4のビジュアルイメージ(下図)を見ると…、
左下に「選書(本以外も含む)」とも書かれている。つまり、読む対象を選ぶ能力が指導の対象になっている。現行の学習指導要領でも「目的に応じて本や資料を選び〜」という文言はあったのだけど、新学習指導要領ではそれがもっと強調されているのかもしれない。教科書を使う授業だと、基本的には「読むものは先生が選ぶ」というスタンスなので、本を使う授業がしやすくなるかな。
こういう変化は、僕のように読書教育に関心のある教員にとっては嬉しい追い風だ。リーディング・ワークショップが堂々とやりやすくなる。
プロセス・アプローチの色が濃くなった「書くことの教育」
「書くこと」については、特に資料3−2で詳述されているわけではない。しかし、先ほど示した資料3−4の図を見ると、「書くこと」にも変化がうかがえる。
「交流」から「評価」へ
従来の学習指導要領では「書くこと」の最後に「交流」という活動があったのだが、それが「他者の書くことへの評価・他者からの評価」に変わったのだ。
個人的にはこれも歓迎したい変化。というのも、これまでの「交流」は、「完成した作品を読みあう」という事後活動に限定されていたからだ。「他者の書くことへの評価・他者からの評価」だと、推敲過程中の相互評価も含まれる。この図で「推敲」と「評価」の位置が一部重なっているのは、それを含意しているのだと思う。プロセス・アプローチの立場からはより適切な書き方になった。
「書くことは一直線の営みではない」
さらに、この図の右下に
※必ずしも一方向、順序性のある流れではない
と小さく注記しているのも嬉しいポイント。これも、実際の作文のプロセスは「題材探し→構想→下書き→推敲→完成」と一直線に進まない、という、作文教育研究の成果が反映された結果だろう。
どうなる?「論理国語」と「文学国語」
一方、ちょっと気がかりなのが「論理国語」と「文学国語」の新設だ。僕は中高一貫校勤務なので、一番影響が大きそう。おそらく、これまで「現代文B」を選択科目として設置していた学校は、新学習指導要領ではこの2つの科目を選ぶのだと思う。
考え方自体は昔からあったが…
もともと、国語の教科内容を「言語技術」系と「文学」系にわけよという主張はこれまでもなされていた。こうした主張は、しばしば文学は役に立たないという予断に基づいて国語教育の非専門家からなされることも多いのだが、国語教育関係者でも、この主張をする人は少なくない。
それに、国語教師以外にはあまり知られていないことだが、国語教科書も、戦後の一時期は「言語」と「文学」に分かれていたのである。
八木雄一郎「『言語編』『文学編』分冊教科書の関連性に関する考察」(つくばリポジトリ)
新学習指導要領での位置づけ
新学習指導要領では「論理国語」と「文学国語」はどのように位置づけられるのだろうか。冒頭にリンクを紹介した文科省の資料3−2によれば、それぞれの説明は以下のようになっている。
選択科目「論理国語」は、多様な文章等を多面的・多角的に理解し、創造的に思考して自分の考えを形成し、論理的に表現する能力を育成する科目として、主として「思考力・判断力・表現力等」の創造的・論理的思考の側面の力を育成する。
選択科目「文学国語」は、小説、随筆、詩歌、脚本等に描かれた人物の心情や情景、表現の仕方等を読み味わい評価するとともに、それらの創作に関わる能力を育成する科目として、主として「思考力・判断力・表現力等」の感性・情緒の側面の力を育成する。
「文学国語」で注目したいのは、現行学習指導要領の流れを引き継ぎ、小説・随筆・詩歌・脚本等の「創作」も明記されている点だ。ライティング・ワークショップで小説系も扱えるのでありがたい。
「論理」と「文学」は分けられるのか?
さて、このように「現代文」を「論理」と「文学」にわけることのメリットは、確かにある。特に文章の読み取りやそのテストについて考える時、答えを一意に定めやすい論理的文章と、(「何でもあり」ではないにせよ)本質的に多様な解釈を許容する文学的文章の間には、大きな違いがある。
しかし、それでも僕はこの変更にはやや懐疑的な立場である。別々の科目にすることで、「論理」と「文学」があまりに断絶的に捉えらえてしまう危険を感じるからだ。その詳しい理由については、明日にでも別エントリでもう少し詳しく書いてみたい。
関連エントリはこちら(12/24)
他の方による解説ざっと読み
以下は自分のメモ用に。無藤隆さんがFacebookのノートで新学習指導要領の解説を書かれている。今後も何か追加されるかもしれないので要チェック。
新しい教育課程に向けて
https://www.facebook.com/notes/無藤-隆/新しい教育課程に向けて/1018279764984165
小学校1年担任向けの新指導要領解説
https://www.facebook.com/notes/無藤-隆/小学校1年担任向けの新指導要領解説/1017795515032590
次期学習指導要領答申について(中央教育審議会(第109回)資料より)
ICT CONNECT 21のウェブサイトで、答申の概要のさらにざっとしたまとめを読むことができる。
https://ictconnect21.jp/news_161222_001/
中央教育審議会答申等から見た国語教育の現状と課題
こちらは参考資料として。横浜国立大学の高木まさきさんによる論文。従来の学習指導要領で唱えられた「言語活動の充実」が新指導要領では「アクティブ・ラーニング」に変わるわけだが、それは何が異なるのか。これまでの答申や教育改革の動きを踏まえた上で、国語科が今後果たすべき課題が提起されている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sor/58/3/58_147/_pdf
教育新聞【最新】次期学習指導要領の関連記事
最後に、購読会員限定になるけど、教育新聞が今回の新学習指導要領の自社の関連記事をまとめていて、重要なトピックはこちらで見ることもできる。
https://www.kyobun.co.jp/shidou_matome/
おまけ:学習指導要領で「書くこと」はどう扱われてきたか
ちなみに、学習指導要領がらみだと過去にはこんな記事も書いてます…。よかったらどうぞ。
ICT CONNECT 21 の寺西と申します。サイトのご紹介ありがとうございました。
これからも、キュレーション的に、文科省を中心に、関係する省庁の情報をうまくまとめてお届けできればと思っています。
いえいえ、ありがとうございます。facebookでも(知り合いがよくいいね!やシェアをして)お名前がよく流れてくるので、存じ上げております!