「作家の時間」に引き続き、「読書家の時間」も5月、6月とエンジンがかかってきた。ただ、「作家の時間」に比べると、「読書家の時間」でどんなふうに時間を配分して、どこに力点を置けばいいのかは、自分でもまだクリアに見えていないところがある。僕はここ数年5・6年生を受け持っているとはいえ子どもたちの状況は毎年違う。そして、僕自身もまた、小学生相手の読書家の時間で何を優先すると良いのか、手探りが続いている。今回のエントリでは、今年の「読書家の時間」を通して自分が考えたいことや大事にしたいことをあらためて確認していこう。
目次
前提は、「楽しさ」と「学習」のバランス
前提として、読書家の時間でいつも考えるのが、「楽しい自由な読書」と「読む力をつけるための読書」のバランスの問題だ。
以前に下記エントリにも書いたように、読書で力がつくための条件は比較的はっきりしている。ダニエル・ペナックの「読者の権利10か条」との兼ね合いは常に悩むところではあるが、やはり僕は「力がつく」ことを捨てきれないな。
例えば、上記のエントリでも触れているが、リーディング研究の本 What Research Has to Say About Reading Instruction に収録されているAllington(2009)のメタ分析では、次の5つの要素が重要であると指摘されていた。
- 教師のモニタリングと必要に応じた介入
- 生徒が夢中になって読むしかけ(自分で本を選ぶなど)
- 授業中に読む時間をとること
- 適切なレベルの本を読むこと
- 個別読書の最中に他の人との関わりがあること
こうした点を考慮すると、リーディング・ワークショップはやはりただの「自由な読書」ではあり得ない。しかし一方で、あまり「力をつける」が優先すると息苦しくなる。読む場所は自分で好きに選んだり、たまにはカンファランスは度外視して森の中で本を読んだりと、「リラックスできる」「楽しい」要素は常に忘れずにいたい。
今年は、「優れた読み手が使う方法」を推してみる
さて、その「力をつける」面でいうと、実は今年、僕はこれまでと授業の方針を一つ大きく変えている点がある。それは、吉田新一郎さんの本で強調される「優れた読み手が使う方法」を、授業でも正面から取り上げているのだ。
もともとアトウェルからこの実践に入った僕は、この「優れた読み手が使う方法」を授業では強調していない。下記エントリを読んでもらうとわかるのだが、読む方略を教えることの効果を一定程度認めつつも、一方で「方法を学習するための読書だと息苦しいな」という思いがあって、あまりちゃんと踏み込んでこなかったのだ。
しかし、今年は正面からこれを取り扱ってみる。それは、今年3・4年生の国語をメインで担当してくれるKAIさん(甲斐崎博史さん)の存在が大きい。KAIさんはバリバリの「優れた読み手が使う方法」派の人である。同じ風越学園内なので方針があまり変わらない方がいいという判断と、定年が近いKAIさんの実践に、まずは学んでみようと思ったからである。「優れた読み手が使う方法」というより「本を楽しんで深読みするための方法」と脳内変換することで、今のところ、これを教える違和感はない。一年間やってみて、どう感じるかな。
大事にしたい、交流と協働的な活動
次に、個別自由読書中心の読書家の時間ではあるが、むしろだからこそ、子どもたちの交流や協働的活動は大事にしたい。もちろん僕も頑張ってカンファランスするのだけど、結局のところ子ども同士の本のおすすめに勝てるものはないからだ。
読書家ノートを交流のハブに
僕は去年からりんちゃん(甲斐利恵子さん)に倣って自分の読書家の時間に読書1万ページを取り入れているけど、今年はKAIさん流の「読書家ノート」も取り入れて、この読書家ノートで「優れた読み手が使う方法」を意識するのに使うだけでなく、ノート自体が子どもたちの交流のハブとなるようにしたい。それには、きっと下記の本が参考になるはずだ。
ただ、時間は有限なので、読書家ノートに力を入れると他のことをやる時間が失われる。下記エントリで書いた「ミニブックトーク」、今年は実施できていない。思えば去年は、ミニブックトークを優先して読書ノートをやめたのだが、今年はその逆の状況が生じているわけ。
ブッククラブや「ようこそ先輩」もやるよ!
協働ということでは、ブッククラブもやってみたい。去年はペア読書はやったけど、ブッククラブはできなかった。今年はまず筑駒勤務時代に使ったガブリエル・バンサン『たまご』を久しぶりに扱って、自由に読みを交流するところからブッククラブをするつもり。
ブッククラブのスタンスも千差万別だけど、まずは、『時をさまようタック』読書会のふりかえりを噛み締めつつ、今回はまず自由に楽しく会話が弾むことを目指そうと思う。
あとはもちろん、上の学年の子に教室に来てもらう「ようこそ先輩」も。横だけでなく、縦のつながりも意識しながら、読み手の共同体を作っていきたい。
教科書の音読も意識する一年に
今年は音読にもグイッと踏み込もうと思う。この音読、僕は去年の後半あたりから意識が強くなってきたのだが、その理由はいくつかある。一つは、下記の2冊のような音読に力を入れた本を読んだこと。
あと、下の学年から上に上がってくる子たちの中で、読み聞かせから黙読への以降に失敗しているな、と思う子を見る機会が増えて、小学生期の音読の必要性を自分なりに感じ取ったからでもある。多分、全く読まない/読めない子に必要なのは音読だ。そんなふうに感じて、去年の後半から読書家の時間の冒頭に週1回の音読を入れているが、今年は教科書音読カードみたいなものを作ってもいいかな。声に出して読むこと、理解とか深まりとか以前に読む心地よさを身体的に味わうこと。それはきっと、個別自由読書が苦手な子に必要な支援になるはずだ。教科書はその素材として活用していこうと思う。
とまあ、今年の読書家の時間で取り組みつつあることについてざっと書いてみた。毎年ちょっとずつ変わっているけど、今やろうとしていることを一年間維持するのが、実は一番難しいこと。地道にコツコツと継続していきたい。