2023年5月の読書記録。まず、5月はゴールデンウィークもあるのに、読書冊数が12冊と伸びなかった…。平日に学校を離れるが8時以降になることも増え、夜の読書時間を確保しても疲れて寝落ちする事態が続いた結果だと思う。ううむ。あまり良くはないけど、一方で今はこれが精一杯な気も。これから書くように、質という点ではなかなか良い一ヶ月だったから、これで良しとしよう。
お仕事系読書は充実の5月!
その「読書の質」という点では、今月の満足度は高い。なんといっても、三藤恭弘『「物語の創作」学習指導の研究』は、物語創作指導をするならマストバイ。これまでの物語創作の実践史から具体的な指導法までが概観できる貴重な一冊だ。ちょっと値段は高いが、学校現場で物語創作指導をしているなら、プロの作家の創作指南本よりも先に持っておくべき本。
同じ著者の三藤恭弘『「物語の創作/お話作り」のカリキュラム30』は、具体的なアクティビティ集で、こっちから入る方がとっつきやすい人もいるかもしれない。手っ取り早く色々な活動を知りたい方へ。
今月は鹿毛雅治『モチベーションの心理学 「やる気」と「意欲」のメカニズム』も面白かった。同僚がTwitterでつぶやいているのを読んでみたのだが、個人的には「内発的動機づけ万歳!」一本槍の人に浅はかさを感じていたこともあり、動機づけという現象の複雑さが面白かった。
関連書として、6月はやはり同僚が読んでいたこの本、速水敏彦『内発的動機づけと自律的動機づけ』も読めたらいいなと思う。
今月は児童書もそれなりに。ベストは古典。
5月は、受け持ちの5・6年生に勧められそうな児童書を読んだ月でもあった。きっかけは、お知り合いのかまくら国語塾の中本順也さんが、「小学5・6年生 “が” おすすめする面白い本ランキング2023」という記事を書かれていたこと。実際の小5・6年生のおすすめとあれば読まなきゃ!と思って読んだのだけど、そのおかげで面白い本に何冊も出会えた。今僕が受け持っている子たちからすると、ちょっとレベルが高すぎかもだけどね。
小嶋陽太郎『ぼくのとなりにきみ』は、自分の気持ちをなかなか人に伝えられずコミュニケーションが苦手なサクが、友人のハセに誘われる形で自由研究で近くの古墳を調べることになり、そこで見つけた穴にある謎の暗号を調べることになり….という、少年ものの冒険ストーリー。途中から出てくる女の子のチカとサクの苦しさが重なるところもありつつ、でも最後は良い感じで大団円を迎える青春小説。
村上しいこ『みつばちと少年』も、発達障害でコミュニケーションに難のある少年・雅也が主人公。こちらは、その少年が色々な事情を抱えた子が暮らす「北の太陽」で一夏を過ごすことで友人を得ていく成長物語だ。だが、厳しい現実が垣間見えるのもいい。
朝比奈あすか『君たちは今が世界(すべて)』は、小学校高学年の子たちの、教室内の人間関係ですべてが決まってしまうような視野の狭い世界での軋轢や苦しみ、悩みを描いた小説。それこそ、「それが全ての世界」を必死で生きる子どもたちへの温かいエールも感じされる作品だ。ただ、小学校を舞台にした小説としては、活字の大きさも語彙もややハイレベル。森絵都『クラスメイツ』などに比べると中学生向けか。人間関係が複雑に入り組んでいるので、登場人物関係図などを作りながら読むと良さそう。
とまあ、何冊か読んだのだけど、その中でベストは斎藤惇夫『冒険者たち ガンバと15匹の仲間』。これは随分前に読んだ再読なのだけど、内容をもうほとんど忘れてて、再読でもやっぱり面白かったな。勇敢なガンバ、船乗りネズミのリーダー格ヨイショ、知識のあるガクシャ、足の速いイダテン、サイコロを持つイカサマ、詩を読むシジン、年寄りのオイボレにボーッとしているボーボ。色々なネズミの個性がそれぞれに発揮されているのがいい。
個人的には、ヨイショの名言に惚れる。例えばこんなの。どっちもカッコ良くないですか?
そりゃあうめえ考えだ。しかし、少しは休んでからにしたらどうだ。おめえだってくたびれているし、おれたちだってくたびれてる。くたびれてる時考えることは、たいていくだらねえことだ(p204)
おれだって自分の心なんざわかりゃあしねえぜ。無理することはない。いってしまったらどうせ嘘になる(p220)。
今月の山読書は串田孫一のエッセイ集
今月の山読書ベストは串田孫一『山歩きの愉しみ』。串田孫一といえば『山のパンセ』で有名だし、文人たちの山岳雑誌『アルプ』の編集者でもあるのだが、実はこれまで、問題づくりの素材として探して出題したことはあっても、彼のエッセイをまとまって読んだことはなかった。今回、彼の山のエッセイのアンソロジーを読んで、いいなと思った。まず「山歩き」という言葉がいい。僕も、自分が好きなのは「登山」よりも「山歩き」なのではないかと思うから。
そして、本書には、徹底的な観察を通して描かれた「光と水の戯れ」、遭難してしまうのではないかという緊迫感のある「山と老人」、冬山で、そこにいない「彼」を思い続ける「雪崩の音」など、魅力的な文章がいくらもある。詩篇が二つ、あるのもいい。解説で高田宏が紹介している、源実朝の「奥山の岩垣沼に木の葉おちてしづめる心人知らるめや」もいい。こんな発見にふと出会いながら山歩きを楽しんでみたい。そう思わせる一冊だ。