[読書] ほとばしる前向きパワー! 市川拓司「僕が発達障害だからできたこと」

養護教諭の先生に薦められて読んだ本。「いま、会いにゆきます」の著者である作家の市川拓司さんが、注意欠陥・多動性障害(ADHD)やアスペルガー障害(AD)を抱える自身の半生を振り返りながら、その自分の特性が強みにもなることを力説しているのだが、どこまでもポジティブな自己物語が、仕事を離れても純粋に楽しかった。

苦手な「発達障害には才能がある!」本だけど…

僕は「発達障害には実はこんなにすごい可能性がある!」系の本があまり好きではない。ぼくの勤務校にもそういう「偏った才能の持ち主」たちはいて、もちろん大小色々なトラブルはあるのだが、彼らは生きるのに根本的には大きな困難を抱えていない(ように見える)。それは、尖った能力の持ち主は、彼の持つさまざまな凸凹を「個性」として集団が受け入れるからである。

しかし、数としては「全然すごくない発達障害の持ち主」のほうが、もちろん圧倒的に多いのだ。そもそもが「全然すごくない人」のほうが多いのだから当然である。で、「発達障害にはこんなにすごい可能性が!」言説は、そういう大多数の人たちをかえって居づらくさせるだけだと思っているので、あまり好きではない。「すごい可能性」は「発達障害の人が受け入れられるための条件」ではないはずだ。

著者の圧倒的な前向きさ

というわけで僕ははじめ、「僕が発達障害だからできたこと」というタイトルはあまり好きではなかった。生徒が読んでいたり、同僚の養護教諭の薦めがなければ読まなかった本だと思う。で、結論を書くと、ありがとう生徒&養護教諭さん! 当初の予想を裏切ってたいへん面白かったです。

でもそれは、発達障害の理解に役立ったとかそういう話ではなくて、この人の徹底的な前向きさにあてられたんだと思う。とにかく圧倒的にポジティブ。自分大好き。ここまで自分の性格を「強み」として押し出すのを見ると、ちょっと爽快ですらあります。もちろん、この人の世界の感じ方にやはり独特のところがあって、それを読むと「やはり世界の捉え方が違うんだなあ」とも思うし、こうした傾向にともなってご本人もとても苦労もされているのだけど、それを乗り切った今の視点からは、自分をまるごと肯定的にとらえているんですよね。何せ自分を「人類の原型」とまで書いちゃってますからね。ここまではフツーなかなか書けませんよ。まあフツーじゃないんでしょうが…。

どうもこの方、ご本人の自己評価を読む限り、ワンパターンの純愛小説を繰り返し書いているようなのだけど(僕は読んでないのでわかりませんが)、それにも悩んでる風もなく、「これが俺の道!」「人類は実はこれを求めていた!」オーラがすごくて、読んでいてちょっと笑っちゃった。もしかしてこういう自己理解のあり方自体が一種の「自己の物語化による環境への適応」なのかなという気もするが、圧倒的な前向きさの持つパワーをたしかに感じる。お話として面白くて、どんどんページをめくっていっちゃったもの。

後半には専門家の解説もあり、だけど…

この本では後半には「発達障害に気づかない大人たち」などの著者・星野仁彦さんによる解説「「生物学的多様性」と発達障害の「可能性」」もあって、専門的見地から市川拓司さんの性格について分析もしている。

ただ、個人的にはそんなのはどうでも良くなってしまった。僕にとっては、発達障害云々よりも前向きな人の語りってそれだけで元気になるということを思い知った一冊。読み物として面白いので、落ち込んでいる人、どうぞ

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