[読書]するりと入り込んでくるような。原田マハ『あなたは、誰かの大切な人』

おそらく僕の勤務校の司書さんが好きな作家である、原田マハ。他の本を返しに行く時に図書館で面出しされていたので、ふと気が向いて借りた。6つの短編からなる短編集。

どれも、自分の親が老齢になっている、あるいは亡くしている中年女性が語り手になっていて、親、友人、あるいは恋人と、自分の人生を共にしている人との関わりがテーマになっている。良くも悪くもインパクトはあまり強くなく、すらすらと読みすすめられる。

6つの短編の中で、一番好きなのは最初の「最後の伝言」。娘の視点から、死んだ母とダメ男の父の関わりがユーモアたっぷりに描かれていた。別の短編「皿の上の孤独」の、戦友と呼ぶにふさわしい「私」と「青柳くん」の関係性にも惹かれる。電車の中でページをめくりながら、時々、そろそろ老齢と言っていい両親のことを思い出したり、10年後には妻とどこでどうやって暮らしているのだろうと空想してみたりしながら、あっという間に読み終えた。

読み終えた本をカバンに入れて、とりあえずは今日の一日へ向かう。傑作と声高にほめたたえるような作品集ではないけれど、日々の生活の中にするりと入り込んで、自分にとって大切な人のことをいつのまかにか考えているような、そんな本である。

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