公開授業の定番の質問に「評価はどうするんですか?」があるくらい、評価は僕たち教員の意識や仕事を強く縛っている。生徒が学んだ学習内容が数値に矮小化されるのを残念に思いつつも、通知表では生徒を「5・4・3…」などの数値で評価する教員も少なくない(僕もそうだった)。指導要録もあるし、学校の成績システムは一人では変えられないからどうしようもない。評価なんてそんなもの…。しかし、その状態をいったん「カッコ」に入れて、評価をそもそもから考えたい人にオススメしたいのが、この『成績をハックする』である。
成績のつけ方を考え直す10の視点
この本で紹介している「ハック」(成績のつけ方を捉えなおす方法)は全部で10個。最初に挙げるとざっと以下のようなものだ。
- 成績の見方・考え方を変える
- 納得してもらうように努力する
- 学習課題を記憶に残る学習経験へと再構築する
- 生徒たちが相互に助け合うようにサポートする
- データをデジタル化する
- 時間を最大限確保する
- 成長をガラス張りで見えるようにする
- 振り返ることを教える
- 生徒に、自分で成績がつけられるように教える
- クラウドベースのデータを保存する
見出しからもわかるように、これらの「ハック」には、成績をつけるための環境整備、職場の説得方法、授業デザイン、ICTの活用方法まで含んでいる。これだけ広範な内容が「成績のつけ方」という名目で含まれているのが面白い。成績のつけ方を考えることは、授業を考えること。この本を貫いているのは、その思想である。
評価の基本は「成長の物語を語り合う」こと
そして、この本で提唱する評価の基本スタンスは、生徒が自分の学習経験を振り返る自己評価と、生徒・教師や生徒同士のカンファランスの二本立て。自己評価とカンファランスを柱にして、生徒の成長を支援する方向性で一貫している。生徒が自分の成長の物語を編み、それを他者が支えるための評価。訳者の一人である高瀬裕人さんの次の言葉はちょっと胸を打つ。
生徒たちはみんな、「知りたい」「できるようになりたい」「成長したい」と思っています。そして、保護者の方々も、そうした生徒たちの生き生きとした成長の物語を聞きたいと思っています。そうした生徒たちの思い、保護者の方々の思いにこたえていくために必要なことは、成績を出すことや通知表を渡すことではありません。生徒たちの、成長の物語を語り合うことなのです。
評価について改めて考えるための本
僕自身はというと、これまで、ライティング・ワークショップと職場での成績のつけ方のギャップは自覚しつつも、そこで消耗するのが嫌で適当に「折り合い」をつけていた(下記エントリ参照)。
今の僕は、一時的に現場を離れ、新しい学校の評価の仕組みについて考えられる恵まれた時期である。だからこそ、理想的な評価が何なのか、この本を手にきちんと向き合ってみたい。通常の学校に勤務して、色々な評価の枠組みに縛られている人も、評価はそもそもなんのためにあるのか、それぞれの職場で何ができるのか、考える参考になるはずだ。