読みの授業で生徒のやる気と理解度を高めるにはどうしたら良いだろう? 読みの授業を分析した多くの信頼できる研究は、そのコツとして次の4つのキーワードをあげている。効果量の大きな順に「興味」「選択」「目標」「協働」である。自分のメモ代わりに、それぞれについて説明していきたい。
目次
リーディングの「やる気」についての研究
僕が読んだのは次の本の一部だ。2004年刊とやや古いのだが、リーディングの研究が提出する信頼性の高いエビデンスに基づき、教育現場に提案する本である。今回はこの本から、モチベーション(やる気)に関する論文Guthrie and Humenick(2004) Motivating students to read を読んだ。
この研究は、読みの動機づけに関する先行研究から、ランダム化比較試験(実験デザイン)・準実験デザインで行われた信頼できる22の論文を特定し、それらの論文から効果的な要素を抽出するメタ分析の研究である。ちなみに、論文の被験者は小・中学生(8-14歳)が中心だった。
効果量が高い順に「興味」「選択」「目的」「協働」
最初に結論を見ておこう。筆者が抽出したのは、「文章の興味深さ」(interesting text)「選択」(choice)「学習の目標」(knowledge goals)「協働」(collaboration)である。目安となる効果量は以下の通りだった。
生徒のやる気を高める読みの授業
- 文章の興味深さ…効果量1.15
- 選択………..効果量0.95
- 学習の目標……効果量0.72
- 協働………..効果量0.52
生徒の理解度を高める読みの授業
- 文章の興味深さ…効果量1.64
- 選択………..効果量1.20
- 学習の目標……効果量0.87
- 協働………..効果量0.48
最も大事なのは、文章が興味深いこと
このうち、やる気と理解度の双方で最も効果量が大きいのは「文章の興味深さ」(interesting text)だった。興味のある文章を読むと、やる気も沸いて理解度も高まる、ということ。
そして、生徒が「興味深い」と思う条件として、生徒がその文章についての背景知識を持っていたり(Schiefele, 1999)、自分が最近体験したことと結びついていたり(Sweet et al., 1998)、ということが指摘されている。さらに、内容だけでなくレイアウトも大切で、文章の主な考えを理解するイラストやグラフなどがあると、興味が深まるという研究もある(Schraw et al., 1995)。
こうした指摘は、僕たち国語教師からすると当然の部分もある。生徒の関心を引く教材をどう見つけるか、教材が決まっているときは、どうやって生徒の身近な話題と繋げて関心を引くか、僕たちはそれを日々考えているのだから。
生徒が読むものを選べることの大切さ
生徒のやる気と理解度を高める二つ目の要素は、リーディング・ワークショップが重視する「選択(Choice)」である。生徒が自由に読む文章を選べることがやる気に繋がることは、多くの研究で報告されている。特に、幅広いジャンルから自由に選べることが大事で、そのような環境にある生徒は、やる気が高まることに加え、学校外の自由時間の読書時間も増やし、理解度も高くなることが報告されている(Morrow, 1992)。
面白いのは文化の影響で、どの文化圏出身者でも読むものを自由に選べることはやる気を高めるのだが、アジア系アメリカ人の場合は、信頼できる大人からの推薦がやる気をより高めることも報告されている(Iyenger & Lepper, 1999)。これは、同じアジア系の日本でも、もしかして教師からの推薦が効力を持つことを示唆するのかもしれない。
目標を設定し、フィードバックする
「興味深さ」「選択」ときて、その次に有効なのが「目標を設定すること」。単に文章を読むだけでなく、読む活動を通じて何をするのかという目標を設定したとき、生徒はやる気になり、連動して理解度も上がる。ただし、その場合の「目標」とは、「テストで何点取る」「誰々より良い成績を修める」という類のものではなく、「プロジェクトとして読む」や、「読んだものについて発表する」など、学習内容の習熟に関する目標(knowledge goals)でないといけない(Grolnick & Ryan, 1987)。
さらに、目標を与え、生徒がその目標に向かって作業を進めていくときにフィードバックを与えるとさらに効果的、という研究もある(Butler & Nisan, 1986)。
協働的な活動を組みこむ
最後に指摘された要素は「協働」だ。読みの授業に協働的活動を組みこむと、個人の活動と比べて生徒のやる気が高まることも、複数の研究で指摘されている(Wentzel, 1993: Sweet et al., 1998)。これまでの「興味」「選択」「目標」に比べると効果量は大きくはないが、意識すると良いと思う。
この4つの観点を意識しよう!
現実の授業では、これらの4つの観点は相互に重なり合う点もある(例えば、生徒に自分で読むものを選ばせたら、それはその生徒にとって興味深いものである可能性が高い)。また、教育現場では個々の文脈(教師の信念や好みの授業スタイルなど)の影響がとても大きいので、ここであげた「効果量」はもちろん絶対ではない。ただ、いずれも信頼できる研究で効果的とされている要素なので、これらの観点を意識して損はないと思う。
ナンシー・アトウェルのリーディング・ワークショップは、読む本についての生徒の「選択」を最大限尊重し、生徒は自分が「興味」を持つ本を読み続ける。アウトプットとしては、読んだ本についてレター・エッセイを書くという「目標」が設定されている。そして、そのような活動の中にブックトークやレター・エッセイの交換のような「協働」活動も組みこまれているわけだ。やはり、時間をかけて洗練されてきたリーディング・ワークショップは、文章を読みやすくするための効果的な方法を積み上げてきたのだなと、改めて感心してしまう。