理論と実践、アトウェルのリーディング・ワークショップ

今学期のリーディング・ワークショップ(RW)の振り返り(下記エントリ)を受けて、ナンシー・アトウェルのIn the Middle(第3版)を軽く読み直した。と言っても全部読む余裕は到底ないので、第5章 Essential Lessons for Readersと、第6章 Responding to Readers and Reading の2章だけ。RWのミニレッスンとカンファランスを扱った章だ。

リーディング・ワークショップ「試運転」の振り返り

2016.12.06

関連エントリとして以前に読んだ時の「総まとめ」記事や、その中でRWについて書いた記事もどうぞ。

[読書][ITM] The Only Logical Way to Teach English ―In the Middle読書日記総まとめ―

2015.06.17

[ITM]リーディング・ワークショップの基本方針

2015.02.03

目次

理論に基づいたミニレッスン

余計なメソッドは不要。基本はひたすら読むこと

ミニレッスンを扱った第5章では、彼女の基本姿勢を再確認。それは、生涯読み続ける読み手を育てるためには、「色々なメソッドやアクティビティは時間の無駄であり、本の世界への「入場許可」を与えるだけが一番良い」というもの。自分で選んだ本を個別にひたすら読むのが一番、というのが彼女の基本姿勢だ。

こういう彼女の姿勢は、もちろんアトウェル自身の教師としての信念にも基づいているだろう。だが、心理学による読みの理論が、それを正当化している。改めて読み直すと、彼女が自分のミニレッスンで(そしてIn the Middleの本でも)心理学の理論をかなり丁寧に説明している。なぜたくさん読むべきか、なぜ音読をすべきではないか、線を引くべきでないか…そういう説明を、一つ一つ理由を説明しているのだ。アトウェル自身も、こういう説明に納得しながら自分のやり方を洗練させていったのだろう。

詩をとても重視

また、ライティング・ワークショップと同様、やはりアトウェルが詩をとても大事にしていることも、本書を読み直して改めてわかった。文学についてのミニレッスンの多くが詩である。アトウェルにとって、詩を教えることで、文学の文学の知識や技術を教えることができるのだ。アトウェルの学校に行った時も、生徒は毎日詩を読んでいたしなあ…。この辺は日本の学校とだいぶ違うかもしれない。

アトウェルの学校の見学メモ(2日目)

2016.04.13

アトウェルの学校の見学メモ(3日目)

2016.04.14

自ら読み手であることを実践、カンファランス

「信頼できる大人」になるために

アトウェルのRWの狙いは、読書中の本について家族や友人同士ダイニング・テーブルで語り合う雰囲気を、教室に持ち込むことにある(p246)。そのためにアトウェルが心がけているのが、「信頼できる大人になること」だ。そして、具体的にはこんなことをやっている。

  1. ヤングアダルトや青年期向けの本を読む
  2. 良い本をブックトークで紹介する
  3. 個々の生徒たちの好みを把握する
  4. 生徒たちにとって面白くかつ挑戦しがいのある本を探す
  5. 適切で興味深い教室ライブラリーを作るために書評を読んで本を買う
  6. 毎日(ランチ、授業や学校の前後、RWの授業中)生徒と本について話す

これはなかなかすごいリスト。僕を含めた日本の国語教師は、最初の「ヤングアダルト向けの本を読む」で大半が脱落し、「個々の生徒の好みを把握する」でほぼ全滅すると思う(笑) 少なくとも僕の周囲に、入試の作問目的をのぞいて、生徒が読む本を積極的に読む国語教師はあまりいない。それにひきかえ、アトウェルは自分自身も生徒と同じ本を熱心に読む読者であり、生徒のこともよく観察している。そして、これがアトウェルを「信頼できる大人」にして、彼女のRWを「本物」にしている。

圧巻、アトウェルのカンファランス

こうしたアトウェルのすごさが表れているのが、In the Middleのp247-253にある、ある日のRWでのアトウェルのカンファランス(アトウェルはCheck-inと呼ぶ)の文字起こし記録。一つ一つはちょっとした会話だけど、個々の生徒を相手にここまで幅広く対応できるのはやっぱりすごい。本のこと、生徒のこと、両方を知っているからこそできることだと思う。こうすることで、一人一人の生徒の良いガイド役になれるのだろう。

アトウェルの本領は、理論と実践

ミニレッスンとカンファランスの章を読むと、アトウェルが一方で理論を学んで授業に反映しつつ、同時に自らが「実践する人」であることがよくわかる。この両方があるからこそ、アトウェルが「信頼できる大人」となりえ、彼女のリーディング・ワークショップが「本物」になるのだろう。このレベルまで行くのは、当たり前だけど容易じゃないねえ…。

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