リーディング・ワークショップにとりくむためのブックガイド

今日は娘の発熱で出勤取りやめになってしまった。午後には容態が落ち着いたので、のんびりと長い記事を更新。自分の勉強も兼ねて、ここ最近読んでいたものを中心に、リーディング・ワークショップがらみの本についてまとめてみよう。

僕はエクセター大学の大学院でも作文教育についてしか勉強していないので、リーディング・ワークショップについてはよく知らない。あくまで現時点での知識の整理のためにやっているので、一つの見取り図程度に思ってほしい。

リーディング・ワークショップの基本的やり方を理解する本

まずはライティング・ワークショップと同様、吉田新一郎さんと小坂敦子さんによる翻訳から。

原書はアメリカのライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップの教師兼研究者であるルーシー・カルキンズのThe Art of Teaching Readingで、580ページある本からの抄訳になる(英語の本は、僕も持ってはいるけどちゃんと読んでない、翻訳あるしいいや的な怠け心が…)。

それから、日本の小学校での実践記録である『読書家の時間』。日本の公立学校での実践集なので、経験に基づいたQ&Aや教師へのインタビューもあるのが良い。僕は特に、実践していた先生がリーディング・ワークショップのカンファランスの時間になんとなく落ち着かず「ぼんやりとした不安感」(p194)を抱くようになったことや、それでいったん一斉授業に戻ったことで「一気に気が楽になった」というくだりがとても好き。そうそう!

まずは以上が基本の2冊だけど、実践記録というと、Kindle版での岩井輝久「リーディング・ワークショップの研究と実践 (第5版)」も小学校での実践記録だ。個人的に知っている方という贔屓目もあるかもしれないけど、個人でできる手探りの実践記録という感じが良い。具体的な工夫が目白押しで、初めて取り組んでみたい小学校の先生のイメージ作りにとても役立つと思う。注釈もしっかりあり、カラー写真も豊富にあって約100円。お買い得としか言いようがない。

これら3冊を読めば、リーディング・ワークショップがどういうものか、少なくとも実践の「外形」についての知識は十分に身につく。中高での実践記録は、僕は知らない。そもそも、やってる人がどれくらいいるのかなあ…(汗)。

リーディング・ワークショップの「根っこ」に触れる本たち

ただ、「やり方」だけ知っても、「それってちょっと形を変えた朝読の時間なの?」程度で「そもそも何を目的にやるのか」とか「自立した読み手って何?」というあたりがピンとこないかもしれない。その点で、リーディング・ワークショップの「根っこ」の部分についてもう少し理解が深まる本がいくつかある。

「優れた読者の読解の方法を教える」キーン

リーディング・ワークショップの根っこの一つには「優れた読み手が使っている方法を生徒に教えて、それを実際に読む体験を通じて学ばせる」という考えがある。これは、Pearsonらの研究で提唱された(らしい、もとは未読)「7つの理解の戦略」をベースに、優れた読者が読む時に読む戦略を教え、それを使わせることで、読者として成長するという考え方だ。

この立場の人にエリン・オリバー・キーンがいて、彼女は1997年にジマーマンとの共著で、研究成果に基づいて読解の戦略を教えるMosaic of Thoughtという本を出して大きな影響を与え、2007年にはこれをもう少し一般化した第二版も出している。また、その後は「理解するとかどういうことか」を真摯に問うTo Understand: New Horizons in Reading Comprehension (2008)も出している。

また、これらの戦略をベースにしてもっと具体的なレッスンプランに落とし込んでいるのがStrategies That Workという本。

これらの仕事をベースにして、読む戦略についてまとめているのが、吉田新一郎さんの『「読む力」はこうしてつける』であり、また彼と山元隆春さんによるキーンのTo Understand の翻訳『理解するってどういうこと?』だ。

今回読み直してみて、この2冊はかなり勉強になる2冊だと率直に思った。僕はMosaicc of ThoughtやStrategies That Workも持っているのでそっちもパラパラ見直していたのだけど、ああいう本のポイントが、この2冊ではどちらもコンパクトにまとまっている。特に『理解するってどういうこと?』は、巻末の資料も含めてきちんと目を通すべき。今の僕にはできていないことだらけ。

[読書]エリン・オリヴァー・キーン『理解するってどういうこと?』

2014.12.30

「とにかく読みひたらせる」アトウェル

さて、ライティング・ワークショップに色々あるように、リーディング・ワークショップにも色々あるようだ。僕のブログで頻繁に登場するナンシー・アトウェルは、吉田新一郎さんによるとリーディング・ワークショップを最初に始めた人であるらしい(『「読む力」はこうしてつける』p49)。しかし、そのアトウェルのリーディング・ワークショップは、カルキンズやキーンのそれとは随分違う。

[ITM]リーディング・ワークショップの基本方針

2015.02.03

[ITM]「Reading Zone」に入る

2015.02.04

[ITM]レター・エッセイを書く

2015.02.28

アトウェルのリーディング・ワークショップの基本は、「個別に」「ひたすら読むこと」である。カルキンズの本にある「ガイド読み」や「ブッククラブ」もないし、キーンのように「理解のための戦略」を教えることもしない。ミニレッスンも、ワークショップの進め方に関するもの以外はブックトークが中心だ。「共有の時間」もなくて、それを「レター・エッセイ」のやりとりが補っている。要するに、アトウェルは、ワークショップの時間中に「一人でひたすら読み浸る」経験を重視しているのだ。そして、キーンらのメタ認知的なアプローチを、生徒に常に「情報を取り出す態度」を求めて、若い読者のストーリー体験の基盤を台無しにしてしまうと批判している(Reading Zone, p56)。

もっとも、アトウェルは「理解のための戦略」を全否定しているわけではなくて、「情報を取り出すための読書」においては有効だと認めている。ただ、彼女の関心は(教える生徒の年代から言っても、彼女の個人史から言っても)フィクションなのだと思う。

こうしたアトウェルのリーディング・ワークショップは、僕のブログでおなじみの?In the Middleでも読めるが、160ページしかないReading Zoneの方が読みやすい。

この本はもうすぐアトウェルと彼女の娘のアン先生による第二版が出るので、それも楽しみだ。

どっちが正しいの?に陥らないよう…

キーン的なアプローチとアトウェル的なアプローチ、どっちが良いのかなーと思っていたのだけど、ある方に「どちらが正しいではなくて、どちらも知った上で、自覚的に場面や必要に応じて選択できることが大事」と言っていただいて、なるほどその通りだなと思った。それができるのが、自立した読み手ということなのだろう。だから、教える側は「必ずこの方法を使って読みなさい」ではなく、あくまで選択肢の一つとして提示する必要がある。

リーディング・ワークショップを支える研究的背景

なお、リーディング・ワークショップは日本でいうと「読書教育」という分類に入りそうだが、読書が言語能力の向上に寄与することを述べた研究としては、以下のものがある。

こういう研究成果を知っておくと、「本を読んでるだけで力がつくの?」と聞かれた時に理論武装できるし、自信を持って授業ができるのがいい。僕は「子供に豊かな読書生活を」という動機ではなく、「学力向上」を狙ってリーディング・ワークショップをやっている人なので、こういうデータはありがたい。

ミニレッスンに使える本

ミニレッスンの準備使える本(というか僕が使っている本)を紹介しておこう。すでに紹介したこれらの本は、ミニレッスンの題材探しにも十分使える。

これに加えて僕がこれまでのところ使っているのは、以下の本たち。いずれも読書についての古典的名著だったり、「読む」とはどういうことかを認知心理学の成果に基づいて解説してくれている本。特に石黒圭さんの本は使い勝手が良い。

リーディング・ワークショップの周辺の本

リーディング・ワークショップは日本でいうと「読書教育」という位置づけになるのだろうか。そうやって「読書」を「読解」と別のものにしてしまうのはよくないと思うけど、アニマシオンやブッククラブといったリーディング・ワークショップの周辺の話は、こちらの本で概観できる。著者は、キーンのTo Understandを吉田新一郎さんと訳した広島大学の山元隆春さん。

また、ブッククラブについては吉田さんも次の本を書いている(が、僕は読んでいないんだけど…)。授業ではまず個別自由読書をしてからかな、と思うけど、僕も夏休みに自由参加の読書会をやっているくらいなので、こういう集まり自体は楽しいと思う。いずれやってみたい。

ほどほどに頑張ろう

色々な本の助けを借りてそろりと運転中のリーディング・ワークショップ。でも、自分の実感としては、やっぱり大切なのは、本がある環境に身を置くこと、生徒に選択権を与えること、大人が本を読む人としてその場にいること、そして読む時間をきちんと確保してあげることかなと思う。焦らず(これ大事!)ほどほどに頑張りましょうか。

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