国語力や学力形成の上で、子ども時代の読書経験はとても重要だ。「自分自身がそうだったから」というバイアスもあるのかもしれないけど、僕は強くそう思っている。そして、その読書経験は学校だけでなく家庭でも培われるもの。今回は、リーディング・ワークショップの教師ナンシー・アトウェルが保護者に出しているニュースレターの中から、家庭でどのように子どもの読書につきあうべきか?という部分を抜き出してみたい。
目次
毎日の宿題、それは読書
ナンシー・アトウェルの学校The Center for Teaching and Learningには5歳から15歳までの子どもが通っているが、彼ら全員に課された共通の宿題がある。それは、「毎日30分以上の読書」だ。この宿題については、「あれ、そもそもアトウェルの授業では「読者の権利10か条」を紹介してたんじゃないの?」と思う人がいるかもしれない。その第一条は「読まない権利」なのだけど、宿題に出すのね…。
どうも彼女の中ではそれとこれは別物らしい。とにかく、「がっつり読むことを強制する」のが彼女のスタイル。学校の本を毎日持ち帰るための本袋までプレゼントしているのだから徹底的だ。そして、保護者もその宿題に巻き込んでいる。では、どうやって巻き込んでいるのだろうか。
「読書はもっとも重要な宿題」
アトウェルは、保護者向け通信(ペアレント・ニュースレター)の中で、学校がなぜこの宿題を重視しているのか、保護者がどう関わるべきなのかを細かに伝えている。今回はこれを読んでみよう。
保護者向けレターでまずアトウェルが強調するのは、彼女の学校では読書こそが最も重要な宿題であるということだ。その根拠として、「研究によると〜」という書き出しで、読書の重要さを様々な研究を引用しつつ述べている。いわく「読書が好成績と結びつく」「国語のみならず、数学や科学とも相関がある」、それから、読書によって子どもが語彙を獲得し、世界を広げ、想像力を培うのだと述べたあと、次のように保護者に依頼するのだ。
どうぞ、今夜は子どものかたわらに座って、家の中で本を読むならいつどこでが最も良いのかを話してみて下さい。面白い物語に身体をまるめて我を忘れるには、放課後や夕食前の時間が最適ですか?それとも、夜の寝る前に本の読むのが好きな大人たちと一緒に読みますか? それから、読むのがいつであれ、静かな環境になっていますか? テレビは消していますか? 灯りは十分ですか?
こんな風に、家での読書の習慣付けに、親をしっかり関わらせているのである。
保護者への細かいアドバイス
この保護者向け通信では、あわせて「幼い読み手の親へのアドバイス」も掲載されており、これがなかなか圧倒される。ここは、お子さんの読書教育に関心のある日本の保護者にも参考になるはずだ。
- 一緒にページを見られるように横に座って読み聞かせする
- 同じ本を何度もせがんだら、できるだけ読んであげる
- まとまりごとに読むのをやめて、このあとはどうなるか聞いてみる
- 指でも文字を追いながら、少し大きめの声で読む
- 子どもが一緒に読むようになったら、どこを読んでいるか指で示してもらう
- 子どもが自分で読み始めたら励ます
- 行ごとに、親と子で読むのを交代してみる
- 子どもの発音が間違っていたら、いきなり直さずに、それでいいか聞いてみる
- 子どもが読んでいて知らない文字につきあたったら、音や形を教えてあげる
- 子どもがどうしてもわからないし推測できない言葉に出会ったら、先に進んで教えてあげる
- 子どもたちが自分で推測したり間違いを訂正したりするのを励ます
- 子どもがどうしてもわからないし推測できない言葉に出会ったら、先に進んで教えてあげる
- 子どもが大人の前で読む時、完璧に読めることはない。それは子どもにとっては苛立ちのもとなので、まずは、子どもが一人で練習するのを助けてあげる
- 子どもの音読を聞いてあげるのは短い時間にする。飽きる前にやめるため。
- 子どもと一緒に本を読む以外で一番大事なことは、彼らと本の話をすること
- 不安やいらだちを見せないこと。たくさんの練習とリラックスして幸せな経験が、子どもたちが良い読者になるための鍵になる
リスト形式にするだけでもけっこうな分量だが、実際はそれぞれの項目について詳しい説明つきで、2ページぶんびっしりと書いてあるのだ。これ、保護者に読んでもらえるのかなあ…(笑) と思った。
3つの難易度の本を読む経験
この保護者向けレターの中で、アトウェルは、子どもの読む本がおおむね「Holidays」「Just Rights」「Challenges」の3種類に分かれることも説明している。「Holidays」はその子にとって平易な本、「Just Rights」はその子にとってちょうどよい本、「Challenges」は難解な本という意味だ。そして、家でもこの3つの種類の本を読ませてほしいと述べている。ただし、その大半は「Just Rights」だ。「Holidays」は楽しみのために時々、「Challenges」は一番少ない時間で良い。もし難しい本を読んで知らない単語や概念に出合ったら助けて欲しいということまで添えられている。
多岐にわたるお知らせやアドバイスで、お腹いっぱい
アトウェルの保護者向けレターはまだ続く。「子どもが何歳になっても読み聞かせは効果的であること」(←これは読書教育系の本でわりと読む気がする)、「誕生日のときには学校で本をプレゼントすること」「もし子どもが学校で借りてきた本に疑問があるようなら、学校に申し出てほしいこと」「子どもの貸出バッグを毎朝チェックしてほしいこと」「学校が長期休みの期間でも、毎日本を読むことは続けること」などなど、学校からのお知らせは盛りだくさんだ。
いやあ、正直なところお腹いっぱい。読書教育に関心のある僕でもそう感じるのだから、もし読書習慣のない保護者の方がいたらどう感じるんだろう…という余計なことまで考えてしまった。もっとも、アトウェルの学校に子どもを入れるくらいだから、保護者もそこは理解の上かな?
学校でほぼ毎日リーディング・ワークショップをするだけでなく、家庭でもしっかりと読む環境を整えるからこそ、あそこまで読書が習慣として定着する生徒が育っているのだ。そこはすごいと素直に思いつつも、現状では家庭と学校との連携までは手を出せないなあ…というのも正直な気持ち。ほんと、アトウェルってパワフルである。
読まない権利はいいですね。たぶん、「読むことをこれからかなり勧めるけれど、自分で嫌だなとか違うなと思ったら、自分で立ち止まって、それに対して降りてもいいですよ、そこは人権として認めてあるので安心してくださいね。アクセルも踏むけど、ブレーキもちゃんとついた車です」ということを示しているんではないかと思いました。宿題にしても、みなが一様にやってくるとも期待していないのではないでしょうか。同じスタートラインや条件は用意してあるけれど、同じような結果や収穫は期待していないようにも思いました。教育のいいところも危ないところもよく知っておられるような印象を持ちました。
書くのを忘れていましたが、宿題については3日やってこないと親との面談だったので、個人的にはかなり厳しい印象があります…。
なるほど。その面談も親に「出させる」ことを目標にするのではなく、何か(困っている)問題があるのではないか?もし、そうなら解決の方法を一緒に探しましょうという意味合いではないのかな?と勝手に想像します。「宿題」はたぶん「契約」みたいな感じで、しっかり守らせるけれども、何か「ちゃんとした理由」があれば、契約自体を再検討してみましょうというようなスタンスではないかな?と思います。ま、これも私が期待する教師像でしかありませんが。(笑)