「作家の時間」作品集を出版!子どもの作品にコメントを書いて思うこと。

先週と今週は、「作家の時間」のユニット2の作品集『君の物語が君らしく』の出版作業だった。毎度のことながら、この出版の時期は忙しい。先週の土曜日は朝から晩までかけて出版のための編集・印刷作業をして、木曜日の授業でみんなで製本作業。翌23日(金)には完成を祝した出版記念パーティー(スポーツ大会、書き出し選手権の表彰式、ビンゴ大会、お菓子トーク)を開いて、その日にあった保護者会に出席した保護者にも作品集を手渡した。そして、週末いっぱいかけて子どもたちの作品をひととおり読んで、一人一人に手渡すコメントを書いたところ。夜にようやく一息ついて、ふりかえりつつの雑感エントリを書いている。

写真は、今年度から始めた「窓の詩」(この詩は文月悠光「主人公」)。僕が教室の窓にいくつか詩を書いて、希望する子にそれに添える絵を描いてもらう。受け持ちの子たちに絵を描くのが好きな子が多くて始めたもの。いい感じで続いていくといいな。

目次

今回のユニット・テーマは「なにかがおきた」

今回のユニット・テーマは「なにかがおきた」。ユニットが始まる直前の下記エントリ時点では「トラブルの行方」というテーマ名で行くつもりだったのだけど、当日朝の車の中で考えを変えた。「なにかがおきた」の方が、「なにが起きたんだろう?」と子どもの思考が活性化するかな、と思ったから。

本格化するその前に...2023年度の「作家の時間」で考えたいこと

2023.05.14

変わったのはテーマ名だけで、三藤恭弘『「物語の創作」学習指導の研究』を参考にして、「事件」ー「解決」というナラティブの基本構成を学ぶユニットであることには変わりない。力のある子たちには、ミニレッスン応用編として「事件」ー「解決」に付随する他の要素を教えることもできて、この本にはお世話になった。

また、メインテーマとは別に「どこまで本当かわからない日記」「推し文!」という2つのコーナーを設けた。前者は嘘をついてもいい日記。後者は好きな文章を筆写して、それを「推す」コメントを添える文章。どちらも「苦手な子向け」という側面があるのも事実だが、書く力を伸ばすにはいいと思うんだよね。日記と筆写。

作品へのコメントが欠かせないわけ

今日は一日かけて子どもの作文にコメントを書く日だった。僕と同じく「作家の時間」を実践してきたKAIさん(甲斐崎博史さん)は、別に子どもの作品に一人一人コメントを書いたりはしないそうなので、別に「作家の時間」に必須の作業というわけでもない。僕も残業時間が減るに越したことはないので、一度、「このコメント書き、いらないかな?」と考えたこともある。でも、僕にとってはやはり不可欠だった。

というのも、個人的には作文の教師にとって一番大事なのが「自分も書くこと」で、次に大事なのが「どんな子どもの文章やそれを書くプロセスにも肯定的な点を見つけること」だと思ってるのだ。教師が文章の改善点を指摘したらそれをもとに次に修正できるなんて、すでに相当に意欲と力のある子たちの話。その手前にいる多数の子たちに必要なのは、改善点の指摘よりも先に、まずは書き手として敬意をもって扱われる経験だと思う。一人ひとりの作品を読んで、その文章やプロセスに肯定的な点を見つけて、伝えるのはそのため。

僕は、このコメント書きと並行して「その子の次のチャレンジを考えてメモする」「ミニレッスンに使えそうな作品をメモする」作業も行っている。これは子どもには伝えずに、あくまで自分の手元に控えて今後の授業に使うため。この三つの作業をしているから、いきおい時間がかかる。休日も仕事で潰れるのは悩ましいけど、自分の授業の柱なので、やはりやめられない。

6年生の成長を見るのが楽しい

今年受け持って2年目の6年生は、去年から見ていることもあって成長ぶりがよくわかる。これまでで一番長い作品を書いた子、初めて自分と違う性別の語り手にした子、別の作品の書き出しをアレンジして自分なりに工夫した書き出しの子、エッセイの終わり方をどうしようか迷っている子、本格的に作家ノートを使ってみた子、中には伏線を張った子まで…。これまでのプロセスを知っているからこそ、多くの子にその子なりのチャレンジや成長があるのが見てとれる。こういうのはやはり楽しい。

「はじめまして」の5年生

一方の5年生は「はじめまして」。一つ目のユニット「フシギな五行詩の世界」は本のタイトルを並べたものなので、自分で文章を書くのは僕の授業では初めてだ。技術的にはまだまだ稚拙だけど、どの子も自分なりの表現を仕上げてきた。「どこまで本当かわからない日記」や「雄し文」にも作品を出してくれた。一人ひとりの作品を読みながら、面白がったり、一方でできていないところを今後の指導のためにメモしたり。

風越の子の学力は本当に多様だ。小学生ながら厚い本を読む子もいれば、ほぼ全く読書をしない子もいる。書くとき「わ」と「は」、「お」と「を」の使い分けに苦労する子もいる。絵は好きだけど文字を読むのは苦手な子も。こういう子たちにどんな支援が必要か考えるのは、入試で選抜された上澄み中の上澄みが揃った前任校だとあり得なかったこと。どうすればいいのか、いまだによくわからない。

ただ、一つだけ言えることは、例えば「文章を書かせて間違いを直す」添削アプローチではダメだろう、ということだ。苦手な子たちは元々書くのが嫌なのだ。それを手直ししたところで嬉しいはずがない。間違いを直されるのは誰しも嫌なもの。それを受け入れるための土台となる自信が、この子たちには圧倒的に足りていない。まずは、この子たちに「自分も書き手なんだ」と思ってもらうところから。うまくいかないことも多いけど、チャレンジとして楽しみたい。

コメントを書く作業、やはり好き

僕がこのコメントを書く作業が好きなのは、子どもたちのこれまでの成長やチャレンジを見られて、それをもとにこれからのことをあれこれ想像できるからなのだろう。こうやって書きながらも、もう「次のユニットはどうしようか」と考えている自分がいる。その前に、まずは明日、子どもたちにコメントを手渡して、明日と明後日はお互いの作品にコメントを書く。そして、その次の週には、届いた保護者からのファンレターにお返事を書く。前回やって保護者にも好評だったファンレターへのお返事、手間はかかるけど、やっぱりやっちゃうんだよね。一つ大変な作業が終わるとまた次の作業が待ってるって感じだけど(笑)、楽しくやっていこうと思う。

たくさんのファンレター! 書くことを通してコミュニティができるといいなあ。

2023.05.12

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