前回のミニ・レッスンについての反省エントリの続き(下記参照)。ミニ・レッスンは「何を教えるのか」ということも問題だが、「教えた後にどうするか」というのも問題である。しかも、今学期見学に来てくださった方の指摘のおかげで、僕の授業は「教えた後の取扱い」に明らかな課題があるとわかった。今回はそのお話。これは、リーディングだけでなくライティング・ワークショップにも関連する話だ。
目次
ミニ・レッスンで教えたことは、使われないといけないか?
前のエントリで書いたとおり、ミニ・レッスンでは、優れた読者が使う方略なり、あるいは文学を分析する視点なり、もしくは授業の進め方なり、毎回何らかのことを教える。で、問題はその先。「教えて、それからどうするの?」というところにある。
まず、「優れた方略を教える」派に多いのが、「教えたことをその場で各自の読書で使わせる」というやり方だ。例えば、「語り手」という概念を教えたら、自分が読んでいる本の語り手に注目させる。また、「推測する」という方略を教えたら、それをその日の読書で使うように求める。次の本では、こういうやり方が「良い」とはっきり薦められている。
ミニ・レッスンの内容をどう保持するのか?
しかし、「使っても使わなくても良い(いつ使うかの判断は生徒本人に任せる)」とは、もちろん「忘れてしまっても良い」ということとイコールではない。ふだん所持しておき、必要な時に使う判断ができる。目指すはそういう姿なのである。
…しかし、僕の場合はここがけっこうな率で「単に使わずに忘れてしまっている」になっているんじゃないかと思う(汗)。ある先生が生徒にインタビューしたところ、ミニ・レッスンで教えたことを使っている生徒が、その時はあまりいなかったのだ。教えたことがそのまま右から左に流れているような。ちなみに、下記エントリの生徒アンケートでも、ミニ・レッスンのお役立ち率は0.69と決して高くない。
思うに、ミニ・レッスンで教えるとは、道具を手渡すことである。生徒は受け渡された道具を道具箱に入れ、彼なりに整理しておく。そして、必要な時にそこから道具を取り出す。取り出す道具は一つのこともあれば、一度に複数のこともある。その判断をするのも生徒自身理想的なミニ・レッスンの使い方は、きっとそういうものだろう。教師が使う方略を勝手に決めてしまうのは、あまりに不自然というものだ。
アトウェルはどうやっているのか?
では、別に生徒に毎回方略を使うことを求めていないアトウェルは、どうやってミニ・レッスンで教えたことを定着させていくのだろう。そのヒントをIn the Middleから見ていきたい。
ワークショップ・ノートにまとめる
アトウェルは目的にあわせて実に7種類ものファイルを作成しているのだが、それとは別に、100ページ以上のノートを使って「ワークショップ・ノート」(writing-reading handbook)を作らせている。このノートは下書きを書く「作家ノート」ではなく、読み書きに必要な情報が全部この一冊にまとまっているようなノートだ。中身は、次の5つのセクションに分かれている。見ればわかるように、リーディング・ライティング・ワークショップで生徒がすぐに使う重要な情報が集まっているノートなのだ。
- 書く題材のアイディア
- 読みたい本のリスト
- ミニ・レッスンで提示された情報と、一緒に考え出した情報
- 話し合いのなかででてきた読み書きに関する言葉
- 各ジャンルでの読みものについての分析(ジャンル学習の際に使う)
ミニ・レッスンの情報や読み書きについての言葉を、書くアイデアや読んだものの分析に使うノートと一緒にまとめることで、生徒は常にこのノートを開くことになる。だから、生徒は自然と何度でもミニ・レッスンの内容に帰ってくることになるのだ。
ミニ・レッスン集をバインダーでまとめて教室に
また、これは生徒の話ではないが、アトウェル自身もこれまで教えたミニ・レッスンをバインダーにまとめて、箱に入れて教室においてある。今ではバインダーは、ジャンルごとに5冊もあるらしい(p38)。アトウェルは、こうやって教室に資料を置いておくことで、生徒の実態にあわせてミニ・レッスンをすぐに取り出せ、また追加もしやすくしているのである。彼女はこのバインダーを入れた箱を「私の教師としての最大の宝物」とまで言っている。
カンファランス(チェック・イン)を通じて再確認する
さらに、リーディングでもライティングでも、アトウェルはカンファランス(リーディングでは「チェック・イン」と読んでいる)を通じて、自分がミニ・レッスンで教えたことの定着を、あくまでその生徒にとって意味のある文脈で、試みている。例えば、ミニ・レッスンで教えたナレーターという文学用語を使って会話をしたり、あまり本に入り込めない生徒には「読み続けるつもり?」と「読むのをやめる」ミニ・レッスンを思い起こさせる質問をしたり、歴史小説を手にとった生徒にはそのジャンルの説明をしたり、…(p247-)。
この、ミニ・レッスンの知識の確認が、「その生徒にとって意味のある文脈で」行われているのがポイントなのだろう。もしも、「今日はナレーターという概念について説明をしたから、ナレーターに注目して読みましょう」と指示したら、それは生徒にとって意味のある文脈にならず、読書がただの「作業」になってしまう。こうやって実際の必要性のある文脈の中でミニ・レッスンという「道具」を使ってみせることで、アトウェルはミニ・レッスンで教えたことの定着を図っているのである。
しかし、これができるのは本当にすごい。というのも、生徒が読んでいるその本についてアトウェルの側に語る言葉がないと、このような会話はできないから。さらっとやっているようで、これは凄みを感じるなあ。
道具を道具箱に整理しておく方法まとめ
というわけで、ミニ・レッスンで教えたことをどう定着させるかについて、アトウェルから僕たちが学べそうなことは次の3点。
- 生徒がいつでも取り出す必然性のある場所にミニ・レッスンの内容を記録すること
- 教師も、生徒の様子に応じてすぐにミニ・レッスンを取り出せるようにすること
- 個々の生徒の文脈の中で、ミニ・レッスンで教えたことを使ってみせること
「言うは易く行うは難し」。どれも自分にはできていないことばかりの内容だけど、こうやってまとめると、改善の方向が見えてきた感じがする。次回はちょっとでもこの方向で頑張ってみよう。