オンライン&対面。4月からの「作家の時間」「読書家の時間」の振り返り。

風越学園も夏休みに入り、今の僕は夏休み明けの国語のカリキュラムを考える一週間に突入している。実は心はもう「今後」に移っているのだけど、忘れないうちに、ここに「これまで」のことも記しておこう。

夏休み前最後の日はアウトプットディ。僕も自分のホームの子どもたちと一緒にセカオワのRainの演奏にウクレレで参加しました。しかし、ギターっておっきいな…

目次

オンラインでの「読書家」「作家」はどうだった?

僕のホームでは、4月半ばに「はじまりの日」を迎え、しばらくは「授業」らしい授業もなかったのだけど、GW前からオンラインで「読書家の時間」(リーディング・ワークショップ)、GW明けの分散登校が始まったあたりから、オンラインと対面を使って「作家の時間」(ライティング・ワークショップ)をスタートしている。どちらも完全対面に移行したのは通常登校が始まってからだ。

オンラインでつながる期間だからこそ、1対1のカンファランスをやっていきたい。

2020.05.02

選択と強制のあいだで:オンラインでのライティング・ワークショップはじまる。

2020.05.17

オンラインでの読書家の時間

正直、オンラインでの「読書家の時間」(リーディング・ワークショップ)は厳しかったなー…。自分の中でも、まずはオンラインで「読書家」を回すだけでいっぱいいっぱいで、ブラッシュアップする余裕がなかった。このころは受け持ち生徒数が少なかったこともあって、生徒が読んでいた本を僕も図書館で借りて全部読んでいたので、そこに注力していたせいもあっただろう。

学校での読書家の時間と比較して改めて思うのは、読書家の時間って、その空間に本があって、「あ、この子にはこの本が良さそうだな」と思ったらすぐにその本が手に取れる環境であることがすごく大事。オンライン期間中、ブックボックスで図書館の本を家庭に届けることはできたけど、その子が読んでる本を間近で見たり本を手渡せたりするわけじゃないから、授業という観点ではうまく活用しきれなかった。他にも、お互いに本を紹介し合うとか、一緒の空間で本を読む、みたいなコミュニティの形成が大事な部分が大きくて、初対面の子同士でオンラインでそれをやるのがちょっと厳しかった。結果として、すでに本好きの子はともかく、そうでない子に適切なサポートは出来ていなかったと思う。

オンライン・ブッククラブ

「読書家」的要素の中で一番良かったのはオンラインでのブッククラブかな。4月から有志生徒とスタッフで試行したブッククラブは、まだまだ工夫の余地はあるとはいえ、選んだ本について色々な切り口でおしゃべりする場で、これはオンラインでも進行できる。

オンライン・ブッククラブでポイントになるのは、予読(ブッククラブの前に個別に読む時間)の時間のサポートだろう。気づいたことを付箋に貼る、読書家の技を使って読むなど、結局のところ、いかに一人読みの時間を充実させるかが、ブッククラブを充実させるかに直結する。もう一つのポイントが選書。参加メンバーが選択した本を今振り返ると、明らかに本人の読む力とのミスマッチの組み合わせもあった。本の最初のページの写真は共有していたけど、やはり手元でパラパラめくれない難しさはある。このミスマッチをどう減らすかも、次のオンラインブッククラブのポイントだと思う。

次にまたオンラインだけになったら…という思いは常にある。ある程度生徒の情報もあるし生徒自身も読書家の時間を経験しているから、前よりはしやすいはず。でも、結構限界はあるな。それくらいなら、読書家の時間にこだわらず、教科書を使っても良いかも、みんなの手元に必ずあるテキストなんだもの。そんな思いもある。少なくとも使えるような準備はしておこう。

オンラインの作家の時間

「作家の時間」(ライティング・ワークショップ)の方が、オンラインでもある程度やれる手応えがあった。前任校でもSkypeでつないでグーグルドキュメントを共有して個別の論文指導とかやっていたから、自分が見通しを持てて安心していた部分もあったと思う。

ライティング・ワークショップのキモの一つはカンファランス。このカンファランスをオンラインでやる明確なメリットもあった。

  1. 対面よりも話しやすそうな子がいること
  2. 話しながらその場で記録が取れること
  3. 他の子を気にせずに10分くらい腰を据えて話ができること

アイデアが浮かばない子への支援も、書き途中で迷う子の支援も、時間はかかるがオンラインでもできる。面白かったのは、6月以降の対面でのカンファランスと比べて、オンラインの方が多弁な子もいること。その子のコミュニケーションのとりやすさという観点から、学校にいてもオンラインでカンファランスする、という選択肢も大いにあり。

ただ、オフィスアワー的に「サポートが欲しい子にはサポートします」だと、「来て欲しい子こそ来ない」現象はやっぱり起きるので、次にまたやるならオフィスアワーじゃなくて全員とオンライン面談かなあ。

「できる子は生き残れます」にならないように…

以前に下記エントリで書いたけど、オンラインでの授業は学校という場が持つ強制力がなかなか使えない。そのため、参加意欲の高い子が画面に頻繁に現れてサポートを受けられる一方で、低い子は見えなくなってしまう…ということになりがちだ。みんなの力をつけるには、そこをきちんと見とって、時にぐいっと介入して、適切な支援をしていくこと。選択と強制のあいだ。課題はここなんだな。

選択と強制のあいだで:オンラインでのライティング・ワークショップはじまる。

2020.05.17

6月、対面授業が始まる

6月から通常登校が始まって、対面での授業が始まった。僕はこの時から、自分のホームを離れて、基本的には6・7年生の国語を受け持っている。「混ざる」を標榜する風越学園だけど、ここは学習単位を発達段階に応じて分けた。人間の言語獲得の仕組みを考えたら、こと言語力の育成に関しては、特に高学年の子が低学年の子と「混ざる」メリットはほとんどないと考えていて、今でもその考えは変わらない。

読書家の時間

読書家の時間って、タフな実践だ。6月からの対面での読書家の時間を振り返ると、この一言に尽きる。子どもが本を選び、読む。その本について話をする。その中でその子が自分にとって良い本を選んでいるかどうか判断して、場合によっては適切な次の本を紹介する。これをやるためには、その子の読む力を見とる力と、その子にあった本を紹介できる本の知識がないといけない。だから、こっちがたくさん本を読んでいないと話にならない。いやー、タフ。特に僕がこれまで完全に守備範囲外だった「読書をあまりしてこなかった高学年女子」にどうアプローチするのかも含めて、試行錯誤が続いている。

でも、その試行錯誤の中で、読書が苦手な子がきっかけとなる本に出会って読み始めた場面、ぐいっと読書レベルが上がった場面にいくつも出会っている。これって一つの教材をみんなで読んでいるとできないことなんだよなあ。同じ6・7年生と言っても、その中での言語レベルも、きっかけになる一冊も、様々なのだ。一つの教材で進める普通の国語の授業よりも、読書家の時間の方が読む力は伸びやすいよね、と改めて感じている(まあ、「読む力」の定義にもよるんだけど…)。

読書ノートの共有に加えて、ブックトークやブックパスを繰り返すことで、クラスメート同士で良い本が広がりつつあって、読んでいる本のタイトルが変わってきた。これまでほとんど読書をしなかった子も、徐々に本に向かうようになってきている。読む量をもっと増やしたいとか、課題の提出率が…とか、正直、課題も多々あるものの、全体としては軌道に乗った手応えを感じたところ。ここで夏休みなのがちょっともったいないな…。

作家の時間

作家の時間は、6月はエッセイを書き、7月は詩を書いた。日々のミニレッスン作り、サンプルとなる自分の作品作りなど、授業準備は大変だけど、こちらもやっただけの手応えはあった。カンファランスでも、書くのが苦手な子と得意な子で介入の度合いや設定するハードルを変えていて、苦手な子には僕が一行目を書いてあげることもあれば、得意な子にはあえて大幅な書き直しを提案することもある。ミニレッスンでは、僕の例を示すことも、よく書けている事例を共有することもある。今のところ、生徒はよく授業に応えてくれていて、個々の子の課題はもちろんあるけれど、授業としてはこちらも軌道に乗ったなと思う。ただ、手薄なところもたくさんあって、類語辞典を使って表現を吟味する姿勢を身につけることや、自分の書くプロセスを振り返ることなどは、まだまだ。夏休み明けの課題かなあと思う。

作家の時間、読書家の時間、どちらでも実感するのは、やはり学校という場の力の大きさだ。宿題やカンファランスを通じて、その子が力をつけるために「背中をぐいっと押す」ことが、学校だと明らかにしやすい。オンラインでの一ヶ月と学校での一ヶ月を比べると、後者の方が生徒の力を伸ばしている実感がある。もっとも、大村はまのように「生徒が気づかないように背中を押す」ことはできていなくて、僕が強めに場をホールドして、時に生徒にプレッシャーもかけながら、なのだけど。

学校全体でレベルアップを図るために

実のところ、6・7月の1番の個人的反省は、自分の授業に集中しちゃって同僚の国語の授業のケアができていなかったことだなと思う。僕の中には、「読書家の時間」「作家の時間」をやる上で「あるべき教師像」「やるべき仕事」がある。でも、昔から知人に「あすこまさんの授業は力技だから」とからかわれるように、それは勤務時間内で終わるものではない。ただでさえ毎日夜まで学校に残っている同僚に、その上読書家の時間に必要だから本を読んでくださいなんて言えないですよね…。そんな気持ちもあって、つい他の同僚の授業は「やってくれるだけでありがたい」モードになってしまっていた。

でも、やはりカンファランスが命のライティング&リーディング・ワークショップにおいて、スタッフの力量形成はとても大きな問題。ここは夏休みにどんな仕組みにすればいいかしっかり考えて、夏休み明けに備えたいと思っている。今はまさにその作業の真っ最中。夏休み明けから、また少し形を変えて進みたいと思ってます。

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