[資料紹介] 長時間の読書は学力に結びつかない!? 読書活動と学力・学習状況調査の関係に関する調査研究(2009)

ちょっと古い資料なのだけど、最近知ったので、メモ代わりにご紹介。文科省が行っている全国学力・学習状況調査の結果を活用した静岡大学の委託研究だ。ざっくり言うと、「読書好きと成績は相関があるけど、長時間読書と成績は相関がないよ」という調査結果である。「え、たくさん読んでも成績には結びつかないの?」と思われる方は、なぜそうなるのか、続きまで読んでほしい。


今回僕が読んだのは、平成21年度の全国学力・学習状況調査を活用した静岡大学による追加分析だ。下記リンクから3つのPDFファイルを入手できる。

目次

全国的な学力調査 平成21年度 追加分析報告書

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/1344295.htm

長時間の読書は学力につながらない?

まず面白いのは、教科の学力に対する要因の分析のところだ。

読書活動と学力・学習状況の関係に関する調査研究(2009)

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/02/17/1344295_005.pdf

これによると、教科の学力と読書好きの傾向は相関がある。また、教科の学力と平日の読書時間も一定の関係を示すが、それはさほど強い関係ではない。なぜかというと、長時間読書をする子どもには、低学力層が一定数いるのである。一般的には多く読むことが学力上もプラスになると期待されるのに、なぜそういうことになるのだろう?

ここで、興味深いのは、「低学力で平日長時間(2時間以上)読書をする層」が、他のことにも長時間使う傾向が見られること。「睡眠時間が10時間以上」「TVなどの視聴が4時間以上」「ゲーム等の時間が4時間以上」「インターネットの時間が4時間以上」などの数値が、いずれも他の学力層よりも高くなっている。つまり、低学力で読書を長時間する層は、他の活動にも長時間使っているのである。

彼らがアンケートで誇大申告をしていないとすれば、低学力層は、「読書もTV視聴もゲームもネットもだらだら並行して無計画に行っている」という予測が成り立つ。どうやら、「長時間読書に弊害がある」という話ではなくて、「並行して無計画に行うことに弊害がある」「何事もだらだらするのはよくない」という話のようだ。なんというか、納得ですなあ…。だって、やるべきことやらないとね。

他にも興味深い知見あり

この調査の報告書は上記の他、合計3部まであり、他にも、以下のような興味深い知見が報告されている。

  1. 勉強時間の長さに関わらず、ある程度の読書をしたほうが教科の学力が高い(したがって、読書する暇があるならすべて勉強に使ったほうが良いわけではない)
  2. 学校司書がいる学校では、図書館の利用頻度が教科の学力と関連している(司書がいないと関連しない)
  3. 読書活動が直接教科の学力に与える影響は小さい(ただし国語では直接影響する)
  4. 読書活動は、学習活動に影響し、それが間接的に学力にも影響する

読書教育に興味のある人は読んで損なし。ぜひどうぞ。

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2 件のコメント

  •  僕は読書の調査や読書の効果の研究から感じるのは、もっと長期的に観察、内省しないとわからないことがあるのではないかということです。短いスパンの統計には表れないものがあるのではないかと。貴重な調査であると思いますが、参考になる程度なのかなと。
     それで、自分は、自分も含めた個人的な事例って、すごく大切なんじゃないかと思います。長期的に追える事例って、自分くらいしかないかもしれないです。質的研究としては、サンプルの数はそれほど問題ではないと読んだ記憶がうっすらあります。
     読んでいる内容にもよると思いました。その学年の教科の学習内容に関する読書を徹底的にしていたら、直接教科の学力に与える影響が大きくなる事例も出てくると思います。

    • 読んでいる内容による、と言うのはその通りでしょうね。ただの冊数ではなく質も問題になるとは、別の研究でも指摘されていることですね。