2020年のオリンピック&パラリンピックに向けてインクルーシブ教育が盛んになりつつある昨今。そういう扱われ方には当然賛否があるけれど、今回はその流れに乗った話。視覚障害者向けに映像に音声解説をつける作業が、国語の勉強としてとても訓練になるのです。僕も生徒に「これは授業でやるべき」とおすすめされているのですが、たしかにその価値あり!と思えるので備忘メモを兼ねてご紹介。
目次
ユニバーサル・デザインの映像を作る
僕の勤務校には、系列校として多くの特別支援学校があり、近年はそれら特別支援学校との交流企画も盛んになりつつある。以前に下記エントリで書いた宿泊行事もその一つだ。
12月上旬に、その交流企画として、普通附属の生徒と特別支援学校の生徒が一堂に会するシンポジウムとアダプテッド・スポーツ交流のイベントがあった。その準備で、生徒たちが頑張っていたのが、上のエントリの宿泊行事を動画にして紹介するビデオを「ユニバーサルデザイン化する」作業だったのだ。
特別支援学校には目の見えにくい生徒や、耳が聞こえにくい生徒がいる。普通の動画をそのまま流しても、彼らには伝わらないことがたくさんある。そこでそれをカバーするために、文字での解説や音声によるガイドを動画に合わせて入れこんでいく必要があるのだ。そうして完成した「ユニバーサルデザイン化」された映像は、いわゆる「健常者」にとっても、見て聞いてわかりやすいものになる。今回生徒たちが取り組んだのは、主に視覚障害者向けに音声ガイドをつけることで、「ユニバーサル・デザインの映像」を作り出すことだった(一方、視覚障害者向けのテロップは、今回は大人たちが作った)。
想像力をフルに使っても… 難しい音声ガイドづくり
しかし、この作業がなかなか大変。まずは目が見えにくい人の立場に立つべく、目をつぶって手近な動画の音声を聞いてみてほしい。すると、映像があれば意味をなす音声も、それだけでは何のことやらわからないノイズになってしまうものがたくさんあると気づくと思う。そこで、どのノイズを説明し、どれを無視するかを考えないといけない。この場面では何を伝えるといいか、複数の人物が場面に写り込んでいるときは誰にフォーカスして説明するといいか….生徒たちは、そういうことを考慮して、音声ガイドの原稿を書いていかなくてはいけない。
また、音声ガイドの仕事は単に「今は何をしています」と淡々と説明するだけではない。それでは、宿泊行事当日の楽しい雰囲気が伝わらない。そこで、内容とともに楽しい雰囲気を再現するにはどういう伝え方をすればいいか、知恵をしぼることにもなる。ビデオには当然時間制限もある。動画自体の音声を邪魔してもよくないので、音声ガイドは延々と話すわけにもいかない。言葉の選択も、一度聞いてすぐわかるように平易なものを選ぶ必要がある。
このように、作業の中心を担ったある生徒(彼はこの作業の経験者であった)が「あすこまさん、これは国語の授業でやるべき」と言うのも納得できるほど、音声ガイドの作成は本当に想像力や国語力を使う作業なのである。
「ユニバーサル上映をつくろう」が面白い!
今回、生徒の作業に立ちあって、僕もこれは国語力養成の観点からチャレンジしがいのある課題だと思った。ただ、むちゃくちゃ難しいです。難しいけど、国語力を鍛えるし、授業としても可能性を感じる。僕自身、一度、ちゃんとこうした「ユニバーサル上映」の作り方を学んでみたいと思ったほどだ。
なおこの「ユニバーサル上映」、それを作るための簡易マニュアルが、「京都リップル」というボランティア団体の監修で配布されている。これを読むだけでも面白いので、興味を持たれた方はまずはこちらをご覧いただけたらと思う。
ユニバーサル上映をつくろう(HTML版)
http://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000061325.html
ユニバーサル上映をつくろう(PDF版)
http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/inclusive/2008movie/Making_of_UDmovie.pdf