今週は「作家の時間」の「出版ウィーク」でした! これは「作家の時間」における収穫のシーズン。今日のエントリは、この出版ウィークの内容と、それを大事にしている理由について書きます。
「どう書かせるか」よりも「書いた作品をどう扱うか」
多分、僕の「作家の時間」の特徴の一つが、書き終えた後に結構な時間をかけること。というのも、僕は、もともと「書く力の基本」を「自分を書き手・表現者だと思えること」「書くことを通して、何かを作り出そうとしたり、発見しようとしたりする姿勢を持つこと」と考えています。そんな自分にとって、出版後の時間は、自分が書き手であることを自覚するための時間。この時間を通して、書き手としての自分を知り、受け止め、そして次のプロセスに向かっていく。作文の授業において、指導者は「どう書かせるか」に意識を向けがちだけど、それよりも「書いた作品をどう扱うか」の方が重要だというのが僕の立場です。
書くプロセスを語る「出版記念オーサーズトーク」
今週の月曜日は「出版記念オーサーズトーク」でした。これは1クラスを前後半の2グループに分けて、全員が一人15分ずつ、自分の作品の創作プロセスについて語る会です。特別感を出したくて、保護者やスタッフ、見学の方など、大人の方も招待して、必死に聞き手を集めます(笑)。この時間は、書き手にとって、語ることを通じて、自分の作品や創作プロセスへの理解を深め、書き手としての自覚や、次の作品への意欲を高める時間。もともと風越学園の同僚とっくん(片岡利允さん)が「低学年は書くことでのふりかえりが難しいから」とやっていたのを見て取り入れたのだけど、56年生にとっても、目の前に自分の話を聞いてくれる他者がいることの価値は本当に大きいなと感じて、定例化しました。僕の場合は、開催前に1コマ分の準備時間をとって、一旦文章で振り返り、それをもとに語るのですが、書くのが、得意な子も苦手な子も、とにかく15分しゃべり続けているイベントです。
そろそろ「歴史」になってきた書き出し選手権
火曜日は書き出し選手権の表彰式からスタート。希望者がエントリーし、児童全員と大人の協力者が投票する書き出し選手権は、僕の「作家の時間」の中では唯一の、他人と競い合う機会。2クラスのそれぞれで優勝から5位までの順位を確定して、校長のゴリさん(岩瀬直樹さん)に表彰してもらいます。少し準備や集計の手間はかかりますが、子供たちも「どんな書き出しがいいだろう」と自然に考えてくれるので、僕にとってはコスパの良い(笑)実践です。
この書き出し選手権、もう3年目のイベントなので、それを「歴史」にしたいなと、今年、教室の窓に「書き出しの殿堂」コーナーをつくって、歴代書き出し選手権優勝作品を掲示しました。もちろんその優勝作品を使って書き出しのミニレッスンをすることも。ふだんはこの教室を使わない中学生になった子たちも、「あ、これ誰々のだ」と懐かしそうに覗きに来る様子もあります。
今年は書き出し選手権に優勝した2名の子に、受賞者インタビューもしました。一人は、本当にこの賞を狙っていたので、発表の時にとても緊張していたことを語ってくれ、もう一人は、過去の書き出し選手権の優勝作品からどんな書き出しが人気になるかを分析して優勝できたことを誇らしそうに語ってくれました。もちろんこのインタビュー動画は、許可をもらって来年のミニレッスンの素材になります。こうして彼らの思いや意気込みが、来年の子たちに感染するといいな。
読み合って、ファンレターを書き合う時間
それが終わったら、まずは出版を祝って乾杯! ジュースを飲みながら、お互いの作品を読み合い、ファンレターを書き合います。今回は途中でライターズグループを組んで、お互いの創作プロセスに関わり合う構成的機会を設けたのですが(下記エントリ)、同僚のざっきー(山﨑恭平さん)の助言もあって、その時に、『子どもの誇りに灯をともす』のロン・バーガーの指針を使ったんですね。
それは、「親切で、具体的で、役に立つ」というもの。これが子どもにもわかりやすくて、ここでも使いました。直、もう作品を書き上げた後なので、ここでの「役に立つ」とは、相手が「次はこうしてみよう」「また、次も書きたい」と思えること。そんなファンレターを送ろうと伝えて、ファンレターを書き終えたのが昨日の木曜日のことでした。
ところで今回、実は作家の時間を「卒業」した中学生の子も、「私も書きたい!」と作品を寄せてくれたのだけど、その子にもファンレターを書く子たちがいました。これはうれしかったな。作品を寄せてくれた子も、うれしいと思う。今年は、こんなふうに「卒業」したあとにも作品を書いてくれる上級生が3人目。逆に、今の56年生で、中学生の子の作品を参考に作品を作った子もいます。風越学園で僕が4年連続で56年生を担当していることもあって、こうした学年を超えた交流も最近は自然発生してきました。もちろんミニレッスンの時に上級生の作品を使ったり、「書き出しの殿堂」コーナーを作ったりなどで、意図的にそれを誘っているところもあるのだけど、書くことや表現することの文化が、こうやって豊かに膨らんでいくといいなぁと思います。
最後には、ファンレターの返信を書く。
この後は、保護者やスタッフにもファンレターを書いてもらうようお願いをして、ファンレターが一通り揃ったら、それを書き手に配り、書き手がそのファンレターに返信を書く時間があります。これは、実践仲間のトミー(冨田明広さん)がやっていた実践です。これもまた、書き手の自覚と誇りをもつ大切な時間。僕にとっては、書かれた文章をとおして保護者と子どもたちがコミュニケーションをとる機会でもあります。保護者も、自分が作品の感想を書いた子からお返事がくるのは嬉しいでしょうしね。
全部で6コマ。でも、大事なプロセスです。
以上のプロセスの前には、下記エントリで書いたように、製本もあえてみんなで手間をかけてやることを大事にしているので、そこにも1コマ使っています。
それも考慮したら、作文の締め切りの後に全部で6コマ使っているわけ。常識からしたら作文の単元が1つできてしまうコマ数なので、ちょっと多すぎかなと思われるかもしれません。でも「自分は書き手である、表現者である」という自覚こそが書く力の基本だと考えている僕にとっては、これはとても大事な、必要な時間でもあります。もちろん今後いろんな理由や事情で変わっていくだろうけど、今の自分にとってはこれがベストかな。数年後はどう変わっているんでしょうか。
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