「夢の国」ではないけれど…(デンマーク図書館印象記7:まとめ編)

吉田右子さんの『デンマークのにぎやかな公共図書館』をiPad miniに入れて、コペンハーゲン近辺の図書館を巡った2日半。ここでは名前を挙げませんが、お世話になった日本の方、質問に対応してくださった図書館員の皆さまにまずは厚く御礼を申し上げます。今日はデンマーク図書館印象記のまとめ。

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(写真は記事では取り上げなかったØrestad Bibliotek)

これまで書いた訪問記事の一覧

市民の集まる場所・BIBLIOTEKET på Rentemestervej(デンマーク図書館印象記1)

2015.12.14

「本が主役」ではないゆったり空間? Biblioteket Kulturværftet(デンマーク図書館印象記2)

2015.12.17

前は移民向け資料が揃っていたが...Vesterbro bibliotek(デンマーク図書館印象記3)

2015.12.19

移民の生活を支える多言語対応・Nørrebro Bibliotek(デンマーク図書館印象記4)

2015.12.22

日本語の絵本あります・Københavns Biblioteker(デンマーク図書館印象記5)

2015.12.27

垂涎ものの児童書コーナー! Malmö stadsbibliotek(デンマーク図書館印象記6:スウェーデン編)

2015.12.30


わずか1回きりの、しかもデンマーク語(にスウェーデン語)がわからない状況での訪問なので、パッと目につくところしか見られないし、本当にただの無責任な「印象」になってしまう。でも、最後に自分なりの感想をまとめておきたい。(言語がわからないって本当に大きなハンデなんだなと痛感した…。質問には英語で対応してもらえたけど、館内表示のデンマーク語がわかれば、見え方も相当違ってくるはず)

住民の生活を支える図書館

吉田さんの本にあった通り、公共図書館が住民の生活のインフラになっていることは感じ取れた。本だけでなく音楽・DVD・ゲームが積極的に貸し出され、移民の多い地区では多言語資料が整えられている。様々なイベントが開催され、カフェが併設されているところでは、そこでにぎやかに会話が交わされている。訪問先の図書館に未就学児たちが先生に引率されて来ているシーンにも何度も出くわし、「日本だと(うるさいという苦情が他の来客から出て)これは無理だよなあ」と、こういう図書館のあり方を可能にする社会そのものへの憧れも感じた。
 

一方で、難しい局面も…

一方、吉田さんの本の刊行から5年、いくつかの図書館では状況が変わっていたのも印象的。移民向け資料が大幅に減ったり、統合されて大型化したり、児童図書館が一般向けに変わっていたり…。あの本の中でもコムーネ(自治体)の統合により図書館の数が減少する問題が指摘されていたが、問題の難しさは、5年経った今どんどん増しているのかもしれない。

こちらに住んでいる日本人司書の方のお話を踏まえると、グローバル化の影響もあるのだと思う。図書館(を含んだ人文社会科学系)への予算削減とリストラ。図書館の統合と複合施設化。右派政権の成立もあり、移民向けの支援も徐々に厳しくなっていくかもしれない。デンマークも世界の潮流から無縁ではない。当たり前だけど、ここは決して「夢の国」ではないのである。

変わっていく図書館や司書の役割

こうした中で、図書館は難しい舵取りを迫られるようにも見える。文化センターとの複合施設化
と同時に、コペンハーゲン市では本の電子化と紙の本の廃棄も進み(年間3冊までの貸し出しの本は廃棄!)、あいた空間をイベントを行う交流スペースとして使うようになっているらしい。図書館が幅広い機能を持つようになっているのだが、言い換えれば、これは、紙の本を中心とした従来型の図書館機能だけでは成り立たなくなってきているのかもしれない。


つまり、「図書館=本」「司書=本の専門家」というだけでは、どちらも生き残れない状況になりつつあるのかもしれない。図書館スタッフが(あえて「司書が」とは言わない)人々の生活を支えて創発する場としての図書館を、本を含む様々なメディアやワークショップなどを用いてどうデザインできるかが問われる、そういう新たな職能が求められているようだ。それに応えられない図書館や司書では、今後は厳しいだろう。実際、司書のポストに「元教員」「演劇関係者」など、外と繋がってイベントをデザインできる人を補充するケースも出てきているらしいから。

日本の図書館と学校図書館は?

 

コペンハーゲンの図書館のこうした変化は、日本の図書館について考えるときも示唆的なのかもしれない。日本の図書館や司書も、好き嫌いに関係なく、「本のある場所」「本の専門家」だけでは生き残れない可能性も、僕はけっこうあると思う。学校や教師が「知識を教える場所」「教科というコンテンツの専門家」だけでは生き残れなくなるのと同じように。さて、図書館の未来はどうなるのかな。それを考えるきっかけを、今回の図書館訪問はくれた。

デンマーク(とスウェーデン)図書館訪問、とても興味深く楽しい旅行だった。決して「夢の国」ではないなという感想を持つ一方、今回訪ねた図書館は居心地が良い図書館が多かった。5年後には、どういう形になっているかな。10年後には…。きっと良い事ばかりではない予感もするけれど、いつか再訪したい。

(なんとか年内に旅行の感想をまとめられたので、今年度のまとめは年始に…良いお年を!) 

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