[ITM]第2版から第3版へ、15年間のアトウェルの変化?

In the Middle読書日記。このエントリで、アトウェルのカンファランスの基本方針について書いた。今日はその続き。

  

[ITM]カンファランスのガイドライン9か条

2015.02.11
 


 2014年に刊行されたIn the Middle第3版ではカンファランスのガイドラインは9か条なのだけど、実は1998年刊行の第2版では、ガイドラインとして13の項目があげられている。



1、全ての生徒に責任を持つ

2、カンファランスしていない生徒をメモし、次回必ずする
3、生徒のところへ行く
4、膝立ちにするか、座る(立ったままカンファランスしない)
5、ささやき声で行う(教師の声が大きければ、教室が騒がしくなる)
6、生徒が自分の作文について話すのを聞くこと、自分で静かに彼らの文章を読むのことのバランスをとる
7、生徒の文章が長い時は、持ち帰ってポストイットにコメントを書き、返却する
8、生徒ができていないことではなく、できたことをベースにする
9、誉める時は具体的に。
10、生徒が関心のあることについて聞く(広がりのある質問をする)
11、記録をとる
12、デモンストレーションしてもよいか尋ねる時は慎重に。
13、辛抱強く。自分と生徒を信頼すること。

           In the Middle 第2版(pp224-226) 
 


内容的にはかぶっているものも当然多いのだけど、「何が削られたのか」が気になるところだ。もちろん、付け加わったり、内容的に一つに統合されているものなどもあるので、「第2版には書かれているのに、第3版にはまるで言及がないもの」をあげると、以下の項目になる。

6、生徒が自分の作文について話すのを聞くこと、自分で静かに彼らの文章を読むのことのバランスをとる
8、生徒ができていないことではなく、できたことをベースにする
11、記録をとる


これ、なんか意外じゃないですかね。「11」は当然してるので削ったとしても「6」とか「8」ってけっこう大事な気がするんですけど。アトウェルはなんでこれ削ったんだろう。ちなみに、第3版では第2版にはなかった、

8.直接的に言うことをためらわない。ただし、理由や解決策も添えて。

というのが加わっている。意地悪な読み方をすると、第2版「できたことをベースにする」の反対で、むしろ「できていないこと」にフォーカスしているような気もする。

この件に代表されるように、第2版を読んだ身として第3版を読んできて思うのは、アトウェルが第2版よりもさらに「Teaching」の立場を強く押し出してきている、ということだ。第2版では「ファシリテートすること」と「教えること」のバランスを模索していた彼女は、その語15年間の模索を経て、わりとためらわずに「教える」姿勢を強めている気がする。このへんは僕の個人的印象で実際には違うのかもしれないけど、それでも第2版との間に微妙な違いを感じ取るのも事実だ。第2版から第3版で、アトウェルはhand overという姿勢を持ち出してきたが、それがこのようなカンファランスのガイドラインにも表れるのだろうか。

(参考)
 

[ITM]アトウェルの30年の歩み:In the Middle 第3版を読み始めた

2014.12.15

[ITM]第3版の鍵概念、hand over(手渡す)という考え方

2014.12.29

これに関連して、In the Middle第3版のカンファランスの項目で、明確に僕が残念だと思ったことをあげよう。それは、第2版にはあった「カンファランスで役に立つ質問集」(pp226-229)、「自分自身でカンファランスをするためのガイド」(pp247-249)が、ばっさりと切り落とされていることである。

これ、本当に残念。ここでの質問集では、わりと生徒に対してその意図を問うような質問が多く、僕自身も自分でカンファランスをする時にはとても参考にさせてもらっているのだ。でもなんでこれを削除しちゃったんだろう。そして、何よりも「自分自身でカンファランスをするためのガイド」。これは生徒が自分で自分の文章を推敲するための質問集で、僕はこれこそがIndependent writer(自立した書き手)になることを目指すライティング・ワークショップの象徴とさえ思っていたので、第3版で全く言及されていないのは、正直言って意外だった。

僕自身の英語力不足やアトウェルの仕事に対する理解不足もあると思う。もしかして本にはなってないけど教室では持続されているのかもしれない。けれど、あえて思い切って現時点の印象を言ってしまうと、第3版のアトウェルは、第2版に比べると明確にティーチングに傾いている。生徒を「自立した書き手する」という目標を考えると、第2版から少し後退したのではないか、という気がするほどにだ。この偉大なライティング・ワークショップの教師がどのようにして今の考えに至ったのかは、とても興味深い。引き続き読んでいきたいと思う。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!